サイボウズは5月11日、地域密着型DX支援プログラムとして、埼玉県内の中小企業を対象に、「売上・利益向上DX実践キャンプ」(以下、DX実践キャンプ)を開始すると発表した。参加企業には、100ユーザー分のkintoneとAIライセンスを6カ月無料提供するほか、売上等アップに向けた特別プログラム、成功企業の取組を紹介する場を提供する。また、協賛パートナー12社の「プラグイン・連携サービス」も無償利用が可能になっている。
7月2日、大宮で最初のプログラムであるキックオフイベントが、リアルとオンラインのハイブリッド形式で開催された。DX実践キャンプでは、サイボウズの社員26名が、参加企業のkintoneを活用した業務改善やDXを支援する。
同プログラムに埼玉県内の中小企業30社が参加。参加企業の課題として、属人化の廃止、業務効率化、紙帳表からの脱却、情報の一元化、Excel依存の脱却、顧客満足度向上などが挙げられている。
埼玉で「DX実践キャンプ」がスタート
DX実践キャンプは、取り組みやすい業務課題解決を実践し、自社を変えていける「手応え」を得る「小さな体験」プログラムと、売上等のアップに向けた自社独自のkintone活用計画を具体化する「売上・利益・生産性アップ計画の策定と実行」の二部構成になっている。
キックオフイベントのオープニングで登壇したDX実践キャンプのプロジェクトリーダーであるサイボウズ 事業戦略本部 kintonePMM 蒲原大輔氏は、「前半3カ月は小さな業務改善の成功体験を積み、自社を変えられるという手応えを得てもらいます。後半は、その成果を売上や利益、生産性向上につなげる計画づくりに取り組んでもらいます」と挨拶した。
そして、「DX実践キャンプを通じて、共に経営の改善を目指しましょう!」と呼びかけた。
生成AI活用の3つのステップ
蒲原氏は、生成AIを効果的に活用するにはデータ基盤の整備が不可欠だと説明した。利用するツールごとにデータが分散すると、効率的な活用が難しくなり、属人化の原因にもなるという。
そのため、同氏は次の3つのステップで、進めることが重要だと述べた。これにより、データ活用が進み、事業の成果につながるという。
- データを一元化する仕組みを整える
- kintoneを活用して仕事のプロセスやコミュニケーションを集約する
- kintoneに貯まったデータを活用する
「地球上のデータの99.99%はAIでアクセスできないクローズドなデータです。その多くは企業内にあり、それを活用できれば競争優位性につながります」と蒲原氏。また、DXや生成AI活用には、経営者が目的を示し、推進担当者が実現方法を形にするなど、両者が連携して取り組むことが重要だと述べた。
DX大賞企業・後藤組の成功要因
キックオフイベントでは、蒲原氏の講演に続き、後藤組のkintoneを活用した成功事例が紹介された。後藤組は山形県米沢市に本社がある、今年で創業100年になる総合建設業を営む企業だ。
同社のkintoneを活用した取り組みは、2022年のkintone AWARD 2022でグランプリを受賞しているほか、2022年の全国中小企業クラウド実践大賞、2025年には経済産業省のDXセレクションでグランプリを受賞するなど、さまざまな受賞歴を持っている。
経営者が語るDX成功の秘訣
代表取締役の後藤茂之氏は、経営者の立場からDX成功の秘訣を語り、ポイントを紹介した。
後藤氏は、自社のDXが成功した最大の理由について、「特別なIT人材がいたからではない」と強調した。同社は2020年から本格的なDXに取り組み始めたが、当時、社内にはDXの経験者は一人もいなかったという。それでも現在では、年間の残業時間を約7,800時間削減し、人時生産性は約2倍に向上。営業利益率も大きく改善し、社員の平均年収も着実に伸びている。
後藤氏がDX成功のポイントとして最初に挙げたのは、「DXを目的にしなかったこと」だ。
後藤氏は、DXに取り組んだ理由について、AIやARの時代を見据え、まずは社内データをデジタル化する必要があると考えたことに加え、採用競争力を高めるためにも、生産性向上が不可欠だったと説明した。
「これからはARとAIの時代になる。将来それらを活用するためにも、まず社内の情報をデジタル化する必要があると考えました」(後藤氏)
次に重要だったのが、DX推進担当者の選び方だった。
後藤氏はIT経験ではなく、「適性」を重視したという。社内で導入していた適性診断データを見直し、論理的思考や複雑な課題を整理する能力が高い社員を探した結果、白羽の矢が立ったのが、当時、営業部門に所属していた経営管理部部長・DX担当の笹原尚貴氏だった。
「DX担当だと言ったら、『僕ですか』と驚いていました。でも『大丈夫、何とかなる』と言って任せました」と後藤氏は笑った。
さらに特徴的なのは、笹原氏をDX専任にしたことだ。中小企業ではDXを総務や情報システムと兼務させるケースが多い。しかし後藤氏は、「兼務させると人は楽な仕事に逃げる」と考え、DX以外の仕事は担当させなかった。「DXしかやることがない状況を作ったことが、結果として成長につながった」と振り返る。
ただし、担当者一人がアプリを作る体制は取らなかった。
当初、笹原氏は独学でJavaScriptを学び、自らアプリを開発していた。しかし、それを知った後藤氏は「担当者が作ってはいけない」と方向転換させたという。
理由は二つある。一つは、一人で作れるアプリには限界があること。もう一つは、担当者が現場を十分理解しないまま開発すると、従来ベンダーへ依頼していたシステム開発と同じように、現場で使われないシステムになってしまうという失敗を繰り返す可能性があったからだ。
そこで「自分たちの仕事を楽にするアプリは、自分たちで作る」という方針を掲げ、DX担当は開発者ではなく、現場を支援する伴走役へと役割を変更した。この考え方が、その後の「全員DX」の基盤になったという。
最初の一歩を後押しする仕組みづくり
後藤組では、DX推進担当者を現場を支援する伴走役と位置付け、社員一人ひとりが業務改善に取り組む「全員DX」を目指した。しかし、当初は社員が自らアプリを作る文化は根付かず、後藤氏は「社員は新しいことを言われても最初は動かない」と振り返る。
そこで、まずは社員にkintoneへ慣れてもらうため、「毎月1人1本アプリを作る」という方針を掲げ、初期段階では賞与評価とも連動させて取り組みを後押しした。重要なのは高度なシステム開発ではなく、「仕事を楽にするアプリ」を作ることだったという。
後藤氏は「まずは二重入力をなくすアプリを作ればいい」と呼びかけた。例えば営業部門では、日報データを活用して営業会議資料を自動集計することで、毎月約2時間かかっていた作業を実質ゼロに削減。このような小さな成功体験が積み重なり、現在では4,000本を超えるアプリ開発につながった。
社員はそこで初めて、「アプリを作れば仕事が楽になる」という成功体験を得た。「これも改善できるのではないか」「あれもアプリ化できるのではないか」という発想が現場から自然に生まれ、その積み重ねが4,000本を超えるアプリ開発へとつながっていった。
若手社員が開発した生コン車の到着予測アプリもその一例で、待機時間の削減によって生産性向上を実現した。
後藤氏は、「DXはアナログ業務が整備されていてこそ成功する。アナログでうまくいっていないものをデジタル化してもうまくいかない」と強調し、業務プロセスの整備がDXの前提になるとの考えを示した。
DX担当者がぶつかった3つの壁
一方、DX推進担当の笹原氏は、「成果だけを見ると順風満帆に見えるが、実際には数多くの壁にぶつかった」と当時を振り返る。
最初の壁は、「誰もkintoneを使ってくれない」ことだった。
導入当初は、笹原氏自らアプリを開発し、「この部門にはこれを使ってほしい」と配布していた。しかし、現場ではほとんど利用されず、データが一件も登録されないアプリも少なくなかった。
同氏はその原因を振り返り、「現場は今の仕事で困っていませんでした。だから変える理由がありません」と分析する。そこで同氏は方針を転換し、まずは全社員が毎日使う日報アプリだけを導入した。スマートフォンから入力できる利便性もあり、ここで初めて社員はkintoneの便利さを実感するようになったという。
二つ目の壁は、社内への展開だった。
笹原氏がkintoneの勉強会を開いても参加者はわずかで、熱心なのは一部の若手社員だけ。そこで同氏は、部門別の参加状況を各部門の所属長と社長の後藤氏に送付。これにより、後藤氏から参加が少ない部門の上長に指示が行き、参加人数が増加した。
また、資格制度や評価制度と連動させ、参加することで賞与がアップする仕組みも導入した。さらに、勉強会も、講義形式から実際にアプリを作るワークショップ形式へ切り替えたことで、社員の理解度と参加意欲は大きく向上したという。
笹原氏は、「社員はやらなくてもいいのであれば、やりません。だから、参加する理由をきちんと作る必要があります」と話す。
三つ目の壁は、利益を生み出す現場部門で業務改善が進まないことだった。そこで笹原氏は、各部門で「この人ならDXの推進役になれそうだ」という社員を見つけ、自ら積極的にコミュニケーションを取り、時には、飲み会にも誘ったという。相談を受ければ必ず現地へ出向き、その成果を社長や直属の上司へ共有。こうして社内で評価される仕組みを作ることで、各部門にDX推進のキーマンが育っていったという。
さらに、後藤氏が「まず二重入力をなくすことだけ考えればいい」と繰り返し発信したことで、現場はどういったアプリを作ればいいのかが明確になったことも、全員DXを支える大きな要因になった。
講演の最後に笹原氏は、DX推進担当者の役割について、「経営者と現場の橋渡し役になることが最も重要です」と語った。経営者の考えを理解しながら、現場の不安や負担にも寄り添う。どちらにも寄らない中立的な立場を保つことで、組織全体を前へ進めることができるという。
また同氏は、DX推進担当は孤独になるので、そんなときは、kintoneコミュニティ(キンコミ kintone user community)を頼ると良いとアドバイスして講演を終えた。
なお、参加者を対象としたアンケートによると、イベント全体の満足度は5点満点で4.52、後藤組の講演は4.85と高評価だった。さらに、この機会に自社でも新しいチャレンジを進めていきたい!」という問いに対しても、7割の参加者が「そう思う」「ややそう思う」と回答し、DXのヒントをもたらすプログラムとなったようだ。
DX実践キャンプの今後
DX実践キャンプでは今後、「小さな成功体験」プログラムとして、kintoneの基本理解と操作習得・業務分析の実施、「完成度7割」の業務アプリの作成といった業務改革ワークショップを7月中旬に開催。
成功したアプリの社内運用・定着に向けた進め方の整理や疑問点を解消するサイボウズ担当者との作戦会議を7月中旬~8月上旬に実施。
8月~9月には、各社でのアプリの社内運用チャレンジを行い、7月中旬~9月下旬に合同Q&A会やAI実践勉強会を並行で実施。そして、10月に各社の取組内容を発表する成果共有会を行う予定となっている。












