サイボウズは今年4月、ノーコードで業務アプリを構築できる「kintone」のユーザーイベント「kintone hive 2026 nagoya」をZepp名古屋(愛知県 名古屋市)で開催した。本稿では、動画とチャレンジアプリの活用で社員の育成を実現した笹森産業の事例を紹介する。
代表取締役社長の佐々木一恵氏が「当社はkintoneを活用してまだ2年だが、さまざまな業務をアプリで管理してきた。本日はその中から、当社の製造現場を変えるきっかけとなった『動画』と『チャレンジ』の2つの取り組みを紹介したい」と話し、同社のプレゼンは幕を開けた。
多品種少量生産を実現する熟練のセラミックス精密加工現場
愛知県小牧市にある笹森産業は、産業用セラミックス製品の精密加工を手掛けるメーカー。産業機械部品や電子部品、半導体製造装置部品など多様な製品を扱う同社では、ラインではなく多品種に対応可能な製造現場を実現している。業務内容は作業者一人一人の寸法測定と判断に依存するところが大きい。
そのため、社内にある機械の数は人の数倍、測定具は人の数十倍もあるとのことだ。同社がもたらす価値は、人と情報と技術がすべて組み合わさって成り立っている。
そんな同社をこれまで支えてきたのが、勤続30年以上、60代以上のベテラン社員たち。0.001ミリメートル(1ミクロン)の加工に長けている反面、検査成績書やトラブル履歴などの情報管理はおざなりになっていた。
若手の成長を阻んだ「見て覚えろ」の文化と属人化
若手の育成にも課題があった。新しく社員が入社しても、ベテラン社員は「よく見てて」「技術は見て覚えて」としか伝えられなかった。このため、若手社員は技術を覚えて成長する前に辞めてしまうのだという。
こうした状況が続き、技能や経験値はベテラン社員の誰かの頭に蓄積されるだけ、という状態が続いた。
これは製造現場だけの課題ではなく、間接部門でも同様だった。業務のノウハウがベテラン社員だけに蓄積され、「誰かは知っているが、みんなは知らない」が常態化していたそうだ。
同社でも資料がなかったわけではない。Excelや紙のファイルは作成していたものの、共有されず、使われる仕組みが伴っていなかった。
「動画を作っただけでは使われない」、kintoneが変えた技術継承
転機が訪れたのは、2024年のkintone hive。佐々木氏がイベントに参加してkintone活用の事例を学んだことで、情報が共有され使い続けられる仕組み作りに着手した。
佐々木氏の熱い思いを受け取ってkintone活用を開始したのは、総務部の平山知佳氏ら。まずはベテラン社員の頭の中にある技術の蓄積から開始したという。それまでの同社では、技術は先輩の姿を見て覚えるものだった。これでは、若手社員は何をどう見れば良いのかすらわからない。
平山氏らがまず始めたのは、技術者を継承するための動画撮影だ。しかし「技術者同士の暗黙の了解」「人によって異なる物や数値の表現」などが頻出したため、なかなか進まなかったという。さらに、せっかく動画が完成しても、「動画がどこにあるかわからない」「ログインできない」など、社内で見てもらう仕組みがなく、活用されなかった。
こうした課題に対し、平山氏はkintoneに動画を集約し、動画へのリンクを一覧で確認できるように。こうした工夫から、少しずつ社内で動画の閲覧が増えたという。現在では新入社員向けの動画も新たに150本作成するなど、動画の活用は進んでいる。
評価と報酬を連動、社員の挑戦を促したチャレンジアプリ
順調に見えたkintoneと動画の活用だが、次の壁にぶつかる。動画を見て手順を覚えただけでは、実際の加工には直結しなかった。そのため、動画で学んだ内容を実践する仕組みが必要となったのだ。
そこで平山氏らが作成したのが「チャレンジ」アプリ。これは、期初に目標を立て、その目標を達成するために必要なチャレンジを実践するためのアプリだ。これにより、動画を見て、実際にチャレンジして、成果を記録する、というサイクルを作り上げた。
それだけでなく、チャレンジの成果に応じてポイントが加算され、合計のポイント数に応じてボーナスが上乗せされる仕組みまで構築したという。
「ただ仕事をしていただけの以前の状態から、目標を達成するためにどう仕事をするのか考える、というように意識が変化してきたと感じる」(平山氏)
1時間の加工数が16個から22個へ、人材育成が生産性を変えた
このチャレンジ制度を通じて、特に顕著な社員の例では、1時間に加工できる製品の数が16個から22個へと増加した。また別の社員は、社内の平均で60分かかる作業に以前は88分かかっていたのだが、現在は36分で完了するまで時間を短縮できたという。
平山氏は「これまではkintoneアプリを作ることが中心で、社内でどのように使ってもらうかまでは考えていなかった。今後は社員にkintoneをもっと使ってもらう仕組みを作っていきたい」と話していた。
佐々木氏は「kintoneは誰かが知っている情報を、誰もが知っている情報に変えるシステム。誰かの記憶を記録として残せば、それは会社の資産になる。kintoneによって、当社の夢だった、技術を次世代に残していく取り組みが始まった」と述べ、プレゼンを締めくくった。








