サイボウズは5月27日、建設業界で発生するアナログ業務と情報集約の課題に対する調査結果を発表するとともに、後藤組におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)の事例を紹介するメディアセミナーを開催した。

本稿では特に建設業のデータ管理の課題と、kintoneを用いた後藤組の取り組みについて紹介する。

2024年問題から2年が経つも事務負担の軽減には課題が残る

サイボウズが実施した「建設業界における業務効率化の実態調査」によると、建設業従事者の60.3%が2024年の残業規制導入前と比べて、事務作業の全体量に「特に変化はない」と感じていることが明らかになった。

「減った」(10.7%)、「どちらかというと減った」(15.4%)の回答は計26.1%にとどまり、事務負担の削減は依然として伸び悩んでいる実態がうかがえる。

その根本的な原因としては、「担当者が少なく、一人に業務が集中している(属人化)」(20.6%)、「慢性的な人員不足」(17.3%)、「建設業界特有のルール・書式・帳票の複雑さ(法令対応・帳票の種類・図面企画など)」(15.0%)が多く挙げられた。

  • 事務作業量は以前「変わらない」(資料:サイボウズ)

    事務作業量は依然「変わらない」(資料:サイボウズ)

仕事上で必要な情報が「誰が持っているかわからない」「どこにあるかわからない」と感じるかを質問すると、63.7%が「ある(よくある+たまにある)」と回答した。半数以上の建設業従事者が、情報が一元化されず散らばっている現状、いわば「情報迷子」の状態にあると解釈できる。

  • 情報迷子になっている状況がうかがえる(資料:サイボウズ)

    情報迷子になっている状況がうかがえる(資料:サイボウズ)

情報管理の一元化について、「情報が一カ所に集約されれば手戻りの削減につながるか」を聞くと、63.6%が「そう思う(とても思う+ある程度思う)」と回答。多くの回答者が、情報の散在や確認のしづらさが手戻り(二度手間)の一因になっていると認識していた。

  • 情報集約によって手戻りの軽減が期待できる(資料:サイボウズ)

    情報集約によって手戻りの軽減が期待できる(資料:サイボウズ)

なぜ建設業界はITツールを導入しても生産性が上がらないのか

サイボウズ 産業まるごとDXチームの雲岡純司氏は建設業界について「建設業界はIT導入補助金に採択される企業の割合が他業種よりも高く、ベンダーが思うほどITリテラシーは低くない。ツールは普及しているが、個別業務を優先してツールに投資した結果、社内にデータが散在する状況にある」と紹介していた。

さらに、「こうした背景から、近年はデータ連携の重要性が求められており、単に高性能で安価なツールではなく、ツール同士をつなげて連携できることなど、選定の基準が変わりつつある」とも、分析して見せた。

  • サイボウズ 営業本部 ソリューション営業部・部長 事業戦略本部 産業まるごとDXチーム 雲岡純司氏

    サイボウズ 営業本部 ソリューション営業部・部長 事業戦略本部 産業まるごとDXチーム 雲岡純司氏

  • サイボウズに寄せられる相談内容と現場の課題

    サイボウズに寄せられる相談内容と現場の課題

サイボウズではこうした課題に対し、CADや積算といった専門のツールは残しつつ、データを連携して一カ所に集約することを提案している。また、総務や人事といった業界を問わない業務については、Excelや単機能のSaaSからプラットフォーム型のサービスへの移行を促す。

雲岡氏によると、情報集約は3つのステップで進めるのが良いという。まず短期的には、プラットフォームサービスを活用して社内の情報を集約。その後、社外の関係者にも協力してもらいながら情報を共有できる環境を構築し、最終的には全社で必要なデータが一カ所にまとまっている状態を作る。

最初からいきなり全ての情報を集約しようとするのではなく、段階的に情報を集めるのが重要なのだという。

  • 段階的に情報を集約することを勧めている

    段階的に情報を集約することを勧めている

一つのプラットフォーム上にデータを集約すると、各社専用の「ヒト・モノ・カネ・情報」のデータベースが作れる。これによって共有や検索が容易になる。さらに、複数のデータベースをまたぐ必要がないため、効率的なAI活用にもつながるとのことだ。

山形県の建設会社 後藤組がkintoneで実現した6つの業務変革

続いて、後藤組のDX事業部 部長を務める笹原尚貴氏が、kintoneを活用した同社の業務改善事例を紹介した。後藤組は山形県米沢市に本社を置く総合建設会社で、大正15年(1926年)創業。主に公共の土木工事や民間の工場など大型の建築を手掛けている。

同社がkintoneの活用を始めたのは2019年ごろ。人手不足に伴い、技術やノウハウの継承と、若手スタッフの育成を進めるため、データ整備とデジタル活用を進めた。

  • 後藤組 DX事業部 部長 笹原尚貴氏

    後藤組 DX事業部 部長 笹原尚貴氏

事例①:「2024年問題」への対応として出退勤システムを刷新

働き方改革関連法の適用により時間外労働の上限が制限される「2024年問題」に対応するため、顔認証システムによる出退勤管理システムを導入した。

以前は既存システムに出勤時間を自己申告で手入力していたため、月末にまとめて入力するスタッフが多かったという。そのため、月末にならないと正確な残業時間を把握できず、労務管理に苦労していた。

新たに顔認証システムを導入したことで、打刻漏れや不要な居残りの防止につながったという。また、リアルタイムで残業時間や有休日数を確認できるようになった。

  • 残業時間をリアルタイムに把握できるようになった

    残業時間をリアルタイムに把握できるようになった

笹原氏らは外部業者からの要望を受け、顔認証とkintoneで勤怠管理を自動化する仕組みを、kintone連携サービス「FaceStamp」として3月にリリースした。

笹原氏は「今後もさまざまなプロダクトを作り、当社がDXに取り組んできたノウハウを同業者や地方の中小企業に使っていただけるよう、貢献していきたい」と話していた。

事例②:生コン打設の業務状況を可視化して休憩を取れるように

建設現場では、ミキサー車で運ばれてきた生コンクリート(固まる前のコンクリート)を型枠内に流し込み構造物を形成する、「生コン打設」という業務がある。

大型の現場では複数台のミキサー車が必要となるが、現場での打設時には次のミキサー車がいつ到着するのかわからず、待機する必要があった。打設状況は現場まで行かなければ把握できず、休憩もほとんど取れなかったという。

そこで同社は、kintoneを生コンのプラント業者と共有し、ミキサー車がプラントを出発する際にボタンを押すことで、現場に輸送状況(何台目のミキサー車が何時に出発したのか)を共有できるようになり、空き時間を有効に活用できるようになった。

  • 生コンのプラント業者の協力を得ている

    生コンのプラント業者の協力を得ている

事例③:安全書類の作成をデジタル化し社員の転記作業をゼロに

以前の同社では現場ごとに紙の書式を用意し、新規作業員への教育を実施していた。紙の回収やチェック、ファイリングは社員が実施しており、2~3台のキャビネットを使って管理していた。手書きの書類を社員がExcelファイルに入力し、紙に印刷して保管していたという。

この作業をデジタル化し、新規作業員はスマホでQRコードを読み取り必要な情報を入力すると、kintoneに自動でデータが蓄積される仕組みを構築。分散した情報を一元管理できるようになり、社員の入力業務が不要になった。

スマホの操作に慣れていない60~70代の協力業者のスタッフの教育なども、後藤組の社員が対応したとのことだ。

  • 社員の二重入力を削減した

    社員の二重入力を削減した

事例④:ベテランの知識を集約し現場主導の業務改善へ

同社は現場で発生した不具合やクレームなどを集約するアプリも、kintoneで構築した。これまで危険行動や事故情報はチェックリストとして保管されていたものの、有効な情報としての活用にはつながっていなかった。

過去の情報はkintoneに集約することで、過去の危険行動データが現場で使われるチェックリストアプリに自動で反映される。施工前検討会で過去の情報を参照できるようになり、工場で注意すべき部分や危険行動の防止策を確認できるようになった。

ベテラン社員の経験に頼っていた危険行動の防止策を、若手社員でもどこに気を付けるべきかをチェックリストで確認できるのだという。

  • ベテランの経験を可視化して継承できるようになった

    ベテランの経験を可視化して継承できるようになった

事例⑤:kintone×生成AIで若手の現場判断を迅速に

同社はkintoneと生成AIの組み合わせにも注力している。建設現場では、部材同士の取り合い(接合や配置)が設計通りに無理なく、美しく機能的に成立していることを指す「納まり」の判断が求められる。

現場では、納まりの判断は経験によって獲得するものとされ、現場代理人によって施工方法や納まりの判断が異なる場合もあり、品質のばらつきにも影響していた。また、若手社員が多い工事部では、図面やマニュアルから必要情報を探す労力も必要だった。

kintoneに過去の図面や現場の資料を集約することで、これらのデータをRAG(Retrieval-Augmented Generation:検索拡張生成)によって生成AIが活用できる仕組みとした。AIアシスタントに質問すると過去の情報に基づく回答が得られるため、若手社員でも判断しやすくなったとのことだ。

  • kintone×生成AIでさらなる効率化を進めている

    kintone×生成AIでさらなる効率化を進めている

事例⑥:散在するナレッジやカタログ情報をAIが収集し業務効率化

例えば外壁の補修に必要な足場の調達など、建設現場では工事に必要な材料や作業量を算出する「数量拾い」が発生する。従来は図面や写真から外壁の面積を計算し、協力会社のカタログの中から必要な足場の寸法を確認して、必要な資材の数量を算出していた。

同社はkintoneに、過去の図面のデータやカタログのデータを蓄積。ここにAIを活用することで、幅・高さ・梁間の数値を入力するだけでAIが必要な資材を自動で算出できるようになった。

  • 「数量拾い」にもAIを活用

    「数量拾い」にもAIを活用