日立製作所は2026年6月24日、第157回定時株主総会を開催し、成長戦略「Inspire 2027」の進捗やAI事業の方向性を説明した。Lumada 3.0やフィジカルAIの展開、家電事業売却の狙いなど、今後の成長戦略が示された。
日立の成長戦略「Inspire 2027」とLumada 3.0
日立製作所 代表執行役 執行役社長兼CEOの德永俊昭氏は、日立グループが目指す姿と成長戦略について「中期経営計画の『Inspire 2027』では、真のOne Hitachiによって、グループ全体の強みを融合し、持続的な成長を遂げ、環境、幸福、経済成長が調和するハーモナイズドソサエティを実現していく。社会インフラをデジタルで革新し続けるグローバルリーダーを目指す」と説明した。
そのうえで、徳永氏は日立の持続的成長を支えるものとしてLumadaを挙げる。2016年度の事業開始から10年が経過し、現在はLumada 3.0へと進化している。
Lumadaに関して同氏は「社会インフラに関する豊富な知見をもとにしたドメインナレッジと、AIを掛け合わせて社会課題の解決を目指す事業である。世界190カ国超に展開し、社会インフラを支える機器やシステムは、データの源泉となる『デジタルライズドアセット』と呼ぶ。また、これらのデータを日立のドメインナレッジで学習したAIで分析し、生産性や安全性の向上などにつなげるのが『デジタルサービス』で、この2つによりLumada 3.0を構成する。そして、デジタルサービスの代表例がHMAXとなる」と位置づけた。
HMAXは、AIで社会インフラを革新する次世代ソリューション群(リカーリングサービス)。デジタルサービスで顧客に価値を提供し、日立製品の販売を後押しして、デジタルアセットを拡大。これにより、さらなるデータ収集と分析につなげ、デジタルサービスの価値が一層向上するという好循環で成長するのがLumada 3.0であると定義している。
同氏は「Lumada事業が日立グループ全社の業績を牽引し、2025年度業績は力強い成長を実現した。Inspire 2027の達成に向けて順調に進捗している」と、現時点での成果を強調した。なお、同社は2025年度連結業績において、Adjusted EBITDA(調整後EBITA)は、ROIC(Return On Invested Capital:投下資本利益率)、コアフリーキャッシュフロー(FCF)は、いずれも過去最高を更新している。
また、徳永氏は「日立にとってAIは、非連続的な成長をもたらす大きな機会であると確信している。AI関連市場は2030年には100兆円の規模になり、社会インフラにAIを実装するフィジカルAIで新たな価値の創出に取り組む。特にHMAXではエナジー、モビリティ、インダストリー、デジタルの領域でAIを実装する。社会インフラの課題解決に貢献し、フィジカルAIの社会実装における日立の優位性を示すものとなる。NVIDIAやAnthropic、マイクロソフト、AWS、Google Cloud、OpenAIといったグローバルトップ企業との連携を進め、各社のAI技術を掛け合わせることで、HMAXをさらに強化していく」と述べた。
HMAXは2025年度に売上高が3000億円、Adjusted EBITDAは20%超の実績を達成しており、2027年度までの年平均成長率で50~60%という高い成長を見込んでいる。
AI戦略の重点領域とフィジカルAIの展望
株主との質疑応答では、AIにおける今後の注力分野について、日立製作所 代表執行役 執行役副社長の阿部淳氏が回答。
同氏は「日立は既存システム基盤を対象にした『AI・モダナイゼーション』の領域と、大きな成長が期待されるフィジカルAIの社会実装を行う『社会インフラ×AI』の領域で、AI事業を推進する。大規模、高難度のシステム開発力と、グローバル最先端AIの実装力および運用力、高信頼の社会インフラに対する構築力、運用力、現場を熟知した深いドメインナレッジを生かして、持続的な競争優位を築くことを目指す」と述べている。
また、Claude MythosをはじめとしたフロンティアAIへの対応については、同社 執行役常務の藤森聡子執行役常務が回答した。
藤森氏は「驚異的ともいえる脆弱性の発見能力を持っており、リスクの大きさを警戒している。2026年度から、社内に専門組織であるサイバーCoEを立ち上げ、AIを活用した未知の脆弱性への対応を迅速化する活動を進めている。パートナーシップを結んでいるAnthropicやOpenAIとは、高度なサイバー攻撃分析能力を持ち、安全に活用するためのガバナンスの仕組みがある。最適なフロンティアAIを選択しつつ、サイバー攻撃に対する検知や対応を高度化し、堅牢な防御体制を整備したいと考えている」と展望を示した。
これを受けて、德永氏は「AnthropicやOpenAIを使いながら、自分たちのシステムに脆弱性がないかどうかを確認している。この実績に基づいて、お客さまの支援を進めていく」と語った。
さらに、同社 執行役常務の畠山雅史氏は社内でのAI活用について説明。同氏は「ソフトウェア開発およびシステム構築においては、設計やコーディング、ドキュメント作成の工程における工数削減、リードタイム短縮、品質改善などに活用している。バックオフィスや企画、営業部門では資料作成、調査、問い合わせ対応の効率化で社員が高付加価値の業務に携われるようにしている。コーディングでは10~20%の生産性向上、開発案件全体でも10%超の効率化を確認している。この結果、創出された時間をお客さまへの提案力強化や新サービスの開発、プロジェクトの品質向上に振り分け、Lumada事業の拡大、収益性向上につなげる」とした。
続けて、德永氏は「社内で複数のAIエージェントが使われるようになると、組織の形、採用の形、評価の形を大きく変えないと、新たな日立にはならない。たとえば、新卒一括採用の一部でAIを採用してAIを教育するという仕組みに変えることも考えている。ここは、人財開発部門と議論しているところである。人がどんな役割を果たし、AIが暴走することがなく、倫理的に正しい日立であり続けることを担保しながら取り組んでいく必要がある。AIと協働で仕事を進め、新たな日立を作っていくことは、経営者として重要なテーマだと認識している」と語った。
「Inspire 2027」後の成長戦略と新事業領域
Inspire 2027の先の方向性に関して、日立製作所 執行役常務の築島隆尋氏は「エナジーセクター、モビリティセクターでは多くの受注があり、2027年以降も大きなビジネスになる。また、フィジカルAIのように、現場にAIが入ることで、市場は大きく成長する。日立が持つ強みであるドメインナレッジと、AIへの知見を活用していく」と述べている。德永氏は「Inspire 2027の先には『Lumada 80-20』を掲げている。Lumadaで売上比率80%、利益率20%を目指しており、引き続き力強く進んでいきたい」と宣言した。
また、多くの受注を獲得していても、大型案件では導入完了までの期間が長いため、インフレ発生時のリスクを懸念するとの指摘がある。同社 執行役専務のアンドレアス・シーレンベック氏は「たとえば、米国データセンターの案件では、提供する製品の価格はインデックスされており、納入時期に関わらず、価格が保証されている。また、製品やサービスはサプライチェーンの早期段階で納入するため、データセンターの稼働時期よりも早く納入が進む。インフレへの対応は万全である」と力を込める。
さらに、ロボット事業について同社 執行役専務の網谷憲晴氏は「ロボットのボディに参入するのではなく、AIをエッジで実現する半導体デバイスを開発し、これをロボットに実装することに取り組んでいる。ロボットを自動化から自律化に進化させるとともにフィジカルAIの実現につなげ、人手不足への対応やモノづくりの高品質化を実現することができる。このエッジAI半導体は、日立が設計・評価し、製造は委託することになる。半導体事業を開始するというものではない」と説明した。
日立GLS売却と家電事業の今後の方針
株主の関心が高かったのが、日立グローバルライフソリューションズ(日立GLS)の白物家電事業をノジマに売却した点であった。
家電事業の譲渡によって、日立独自の日本のモノづくりの継続性を懸念したり、一般消費者が日立ブランドに接する機会が減少したりすること、工場での雇用継続に懸念があるといった質問が寄せられた。
網谷氏は「家電市場はさまざまな変化が起きており、そのスピードに対応していくことが重要。日立ブランドの家電の継続的な成長と企業価値を最大化するために、家電事業において、ノジマと戦略的パートナーシップを結んだ。家電事業の成長は、お客さまのニーズをどれだけ速くキャッチアップし、どう製品に反映するのかという点にかかっている。ノジマが持つ顧客接点の強みと、日立のモノづくりの強みを融合し、成長を図っていく。そして、信頼性が高い日本のモノづくりの強化にも貢献していく」と述べている。
国内外の日立ブランドの家電事業の経営資源を日立も出資する新会社のもとに統合し、製造拠点である多賀事業所(茨城県日立市)、栃木事業所(栃木県栃木市)は新会社に移管して、一体的に運営していく。今回のノジマとの協議において重視したポイントとして、同氏はモノづくりの信頼性と機能の高さをどう維持し、発展させることができるか、という点を挙げている。
日立GLSは国内では高機能/高性能モデルを生産し、海外ではニーズにあわせたものを生産してきた。ノジマは日立の技術の高さ、モノづくりの素晴らしさを重視しながら事業を進めていくことを非常に重く見ているという。
網谷氏は「ノジマが買収したVAIOも日本で製造を続けており、その姿を見ると日立としても良い戦略的パートナーであると理解している。お客さまのニーズをノジマのチャネルを使ってピックアップし、当社が培ってきた製品で応える。この循環ができることで、家電事業の社員も育つ。日立は戦略的パートナーとして新会社を支え、日立ブランドの価値向上、地域・消費者との関係を大切にしつつ、責任ある事業運営に取り組む」とした。
さらに、地域販売店である日立チェーンストールについて同氏は「ノジマは日立チェーンストールからスタートした企業であり、重要性を最も理解している。日立チェーンストールで多くの製品を取り扱えるようにすることが最も重要。量販店と日立チェーンストールがなすべきことは重ならないと考えており、日立チェーンストールに対して、より魅力的な製品を提供し、バラエティのある品揃えをしていく」と語った。
また、日立製作所 執行役専務の長谷川雅彦氏は「日立ブランドの家電品は、新会社主導のもと、製造からアフターサービスまで引き続き提供する。適切なブランド管理を行い、ブランド価値の維持に努める」と述べた。株主総会の所要時間は119分。会場では475人の株主が参加し、18人が質問した。





