冨山和彦【書評】『人間には12の感覚がある』

経営に直感力を取り戻すための羅針盤

 

 私たちが感知しているのは周辺世界のどれだけの割合か? 私たちが赤いと認識している色彩は他の人にはどのように見えているのか? 本書は、五感を超える未知の感覚の存在を動物たちの生態から紐解く一冊である。

 筆者は『利己的な遺伝子』で有名なリチャード・ドーキンス博士の下で動物学を学んだ科学ジャーナリスト。かのヘレン・ケラーは触覚で見ることから認識世界を広げていったように、人間がもっているとされる五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)の奥深さ、その広がりと相互関係性に驚かされる。言い換えれば、私たちは持っている感覚の一部しか使っていない、感知していない世界が沢山あるのだ。

 この知見は、VUCA(ブーカ)時代の経営においては過去の事実に過ぎないデータだけでなく、「直感」や「現場の空気(コンテキスト)」を読み解く能力の重要性を裏付けている。

 経営において、市場データや財務数値は客観的認識事実だ。しかし、意思決定は未来に対して行うものであり、そこには情報の不完全性と不確実性が伴う。一年前に今の中東情勢を明確に予想できた人がどれだけいただろうか。最終決断は、なんらかの直感的要素に依存せざるを得ないのだ。

 本書が示す、目に見えない信号をキャッチする力こそ、現代のビジネスリーダーに求められる「第六感」や「超感覚」に他ならない。

 AIの劇的進化によって、既に誰かに感知された二次情報的な客観的事実は、誰でも簡単に手に入るようになった。だからこそ自らが直接感知した一次情報とそこから得られるインスピレーションの重要性は高まる。また、組織を効果的に動かすには従業員のエンゲージメントを汲み取る必要があり、それには論理的思考だけでなく、現場の空気を理解する「共感の感覚」が不可欠だ。

 データ偏重の経営に行き詰まりを感じている方にとって、本書は経営に直感力を取り戻すための羅針盤となるだろう。

【 著者に聞く 】日本共創プラットフォーム会長・冨山和彦『日本経済AI成長戦略』