このサイエンスニュースのまとめ
- 地球観測衛星プロジェクト「EarthCARE」(はくりゅう)の観測データを、“世界最高水準の気象予報精度”をもつ欧州中期予報センター(ECMWF)が利用開始
- はくりゅうが備える雲プロファイリングレーダー(CPR)によって得られる、雲の高さ方向の情報利用が、予報精度の向上につながる
- ECMWFのデータは、日本でも台風進路予報などの参考情報として活用。防災・減災のほかにも、気象予測が欠かせない幅広い分野で恩恵あり
地球観測衛星プロジェクト「EarthCARE」の観測データを、“世界最高水準の気象予報精度”をもつ欧州中期予報センター(ECMWF)が利用開始。同センターの全球予報の精度向上だけでなく、同センターのデータを活用する世界各国の気象機関の予報精度が引き上げられることも見込まれる。
宇宙航空研究開発機構(JAXA)が6月25日に発表したもの。JAXAとと欧州宇宙機関(ESA)の共同開発による、雲・エアロゾル・放射の相互作用を解明するための地球観測衛星「EarthCARE」(和名愛称:はくりゅう)が備える雲プロファイリングレーダー(CPR:Cloud Profiling Radar)の観測データを利用している。CPRによって得られる雲の高さ方向の情報を利用することが、各機関の予報精度の向上につながると期待されている。
欧州中期予報センター(ECMWF)の概要
欧州中期予報センター(ECMWF:European Centre for Medium-Range Weather Forecasts)は、全球モデルの予測の分野で世界最高水準の精度を誇る機関として知られ、そのデータは欧州23の加盟国と12の協力国で、公式な気象予報の基盤として利用されているほか、国連の世界気象機関(WMO:World Meteorological Organization)などでも活用。高精度の気象予報を通じて、気候監視や防災、水資源管理、航空機運航など幅広い分野で利用されているという。
ちなみに全球モデルの予測とは、天気予報や台風の進路予報などに活用されているもので、地球全体を格子状に分割し、大気や海洋の物理法則に基づく方程式をスーパーコンピュータで計算し、未来の気象や気候を予測するシミュレーションのことを指す。
CPRデータが実装された理由
CPRとは、JAXAが情報通信研究機構(NICT)と共同開発した、世界初の衛星搭載雲ドップラーレーダーのこと。
今回、CPRのデータが実装されたECMWFの統合予報システム(IFS:Integrated Forecasting System)は、ECMWFの気象予報の中核となるシステム。IFSでは最新の観測データと数値シミュレーションの予測結果を融合させるデータ同化によって、現在の地球の状態を正確に推定し、大気・海洋・陸面を一体的に計算する「数値予報モデル」によって、将来の気象を高精度に予報できるという。
ECMWFの統合予報システムに、雲プロファイリングレーダーによるデータを実装した理由について、同センターは「雲が気象予報における不確実性の主要因」である点を挙げている。
CPRは世界で初めて雲の鉛直(高さ方向)運動を観測する機材であり、そのデータによって雲観測用ドップラーレーダである雲の鉛直構造と運動に関する情報がIFSに提供され、予報精度の向上に寄与すると説明している。
ECMWFのフロリアン・パッペンベルガー事務局長は、この実装が世界初のものであることにも触れながら、「これは気象予報センターによる、世界初の運用レベルでの雲レーダ観測データの実装だ。CPRからの新しいデータは、雲が気象に与える影響に関する不確実性を低減する上できわめて重要な一歩だ」と述べたとのこと。
実装の経緯と精度向上がもたらす社会の利益
CPRデータ実装が、「はくりゅう」の打ち上げから2年で達成された背景には、ECMWFとESA、JAXAの継続的な研究開発が背景にある。
ECMWFは、衛星搭載雲レーダ観測を予報に取り込むための準備を長期間にわたって進めており、はくりゅうの打ち上げ後、CPRの観測データをスーパーコンピュータによるシミュレーションと突き合わせることで予報精度を高める実験を行った。
2024年12月から約5カ月間のデータを用いて行われた同実験の結果、CPRデータを加えることが気象予報の精度を向上させることを確認。CPRデータのIFSシステムへの実装完了を経て、2026年6月10日から現業システムでの利用(定常運用)がスタートした。
日本の気象庁は、国内外の数値予報モデルの結果を台風進路予報などに活用しており、ECMWFの予測データもその参考情報のひとつとして使っている。また民間気象会社でも、気象庁のモデルに加えて、同モデルを参照して独自の予報を行っている。
こうした精度向上の取り組みは、台風や豪雨といった極端気象の予報精度を高め、洪水や土砂災害の早期警戒の強化につながる。防災・減災への直接的な寄与のほかにも、航空運航の安全確保や、農業の効率化、水資源管理といった、気象予測が欠かせない幅広い分野にも恩恵があり、日本の安全・安心な社会の実現に寄与することも期待されるとのこと。
JAXAでは今後もはくりゅうの観測データを用いた研究開発に取り組み、日本と世界の気象予報や、気候予測の精度向上への寄与をめざす。
