アマゾンウェブサービスジャパンはこのほど、金融事業戦略に関する説明会を行った。説明会では、アフラックと三井住友信託銀行が登壇し、AWSを活用した取り組みを紹介した。
両社は、AWSを基盤にAI活用と組織変革を進めており、その具体像が明らかになった。アフラックはAIエージェントによる業務高度化、三井住友信託銀行は“あえてマルチクラウドを選ばない”戦略を打ち出す。両社の取り組みから、金融機関の次の一手が見えてきた。
アフラックはAIエージェントで何を変えたのか
アフラックでは、査定・契約・コンタクトセンターの各業務において、AIと人が役割を分担する“半自動化”が進みつつある。
アフラック生命保険 取締役専務執行役員 CDIO(チーフ・デジタル・インフォメーション・オフィサー)の二見通氏はDXからAXへと題し、AIを活用した事例を3つ紹介した。
AIエージェントは金融で実用化できるのか?
金融分野におけるAIエージェントの活用は、完全自動化ではなく「AIが判断し人が最終判断する」形で実用化が進んでいる。
支払査定業務に関しては支払い可否と査定結果をAIエージェントが検索・判断を行ったのち人が最終判断を下すという。ここではBedrock AgentCoreを使用したマルチエージェントを使用している。
契約保全事務もAIエージェントが契約内容確認と手続きを実施する。ここでもBedrock AgentCoreのGatewayによってMCP(Model Context Protocol)を効率的に稼働する。コンタクトセンター業務において24時間対応を行うAIアバターを使用する予定だ。
ただしこれらのサービス開始には法規制や顧客保護の観点を踏まえた十分な検討を行ってから実装するという。
アフラックは、AWSを基盤としてクラウド活用を段階的に進めてきた。2023年以降は環境整備とカルチャー醸成を進め、2025年にはAIエージェント基盤の構築に着手。今後はAI活用を軸に、事業・組織・プロセスの変革を加速する方針だ。
具体的には、2023年にクラウド戦略を策定し、2024年に組織体制を整備。2025年にはAIエージェントのプラットフォーム構築を進めている。2026年以降はAI導入の加速やクラウド活用の高度化を通じて、ビジネス変革を本格化させる計画だ。
アフラックがAIエージェントを軸に業務変革を進める一方で、三井住友信託銀行はその基盤となるクラウド戦略に重点を置く。
三井住友信託銀行はなぜマルチクラウドを選ばなかったのか
三井住友信託銀行では、統制・セキュリティ・運用効率を優先し、基盤をAWSに集約する判断を下している。
三井住友信託銀行 執行役員の岡松参次郎氏は、AWSへの戦略的BetとAmazon Cultureを活用した組織変革について説明した。すでにAWS活用はPhase2で一定の完成に至っており、今後はPhase3として「よりAgility高く、より統制の効いたインフラ」への進化を目指すという。
信託銀行は多様な信託ビジネスを展開し、少量多品種の業務特性を持つ。このため現在でも200弱の情報システムが稼働しているが、こうした環境においては、標準化と統制の確保が重要になる。
AWSのサービス群を“ビルディングブロック”として活用することで、IT環境や開発・運用プロセスの標準化を進め、セキュリティのオフロード化やアジリティ向上、耐障害性の強化につなげる狙いだ。
一番大事なこととして「自ら物販というビジネスを展開し、ビルダー文化、カスタマーオフセッションなど、AWSの思想哲学が私たちのものづくりへのこだわりと合致している」と岡松氏は説明した。
マルチクラウドは本当に正解なのか?
金融分野では、マルチクラウドが必ずしも最適解とは限らず、単一クラウドへの集約が合理的な選択となるケースもある。
岡松氏は、「マルチクラウドにすると、統制面やセキュリティ面で複雑さが生まれ、オペレーションも複雑になる。OA側はMicrosoft 365を使っているが、基盤システムはAWSで構築すると決めた」と語った。
また、AWSのエンタープライズ向け支援の厚さや実績も評価しており、クラウドを“部品”として使い倒すことで、ものづくりを主軸としたクラウドネイティブの実現を目指すという。
三井住友信託銀行とAWSは共同推進組織「All-Out Cloud Factory」を設立し、単なるクラウド移行にとどまらず、組織・人材・開発プロセスを含めた変革を進めている。
全社的な教育施策「Tech Journey」には延べ2000名弱が参加するなど、人材面での基盤整備も進めている。こうした取り組みは、クラウド基盤の整備にとどまらず、標準化や人材育成を含めた全社的な変革として進められている点に特徴がある。
AWSの新たな金融機関向け施策「Vision 2030」とは
常務執行役員 金融事業統括本部 統括本部長の鶴田規久氏はAWS誕生20周年、東京リージョン開設から15年、大阪リージョン開設から5年と節目の年を迎え、多くの金融機関がAWSを利用していること紹介した。
昨年まで行っていた金融機関を変革する戦略パートナー施策「Vision 2025」は終了し、鶴田氏は新たな施策として「Vision 2030」を紹介した。新戦略は「戦略領域への投資拡大」「新規ビジネスの迅速な立ち上げ」「イノベーション人財の育成」「レジリエンシーの更なる強化」の4つを柱としている。
戦略領域への投資拡大については 生成AIなどの開発ツールの活用により、IT資産のモダナイゼーションを加速と金融リファレンスアーキテクチャの開発による、ベストプラクティスの共有を進める。
金融機関のクラウド移行とイノベーションの事例として、JPXが適時開示情報伝達システム「TDnet」のAWS移行を決定し、来年9月のリリースに向けた準基幹システムのクラウド化が進行中であることと、SBI新生銀行がAWS上で稼働する「次世代バンキングシステム」の採用を決定したことが紹介された。
人財育成と組織変革の事例としては、ORIXグループが横断的なAWSコミュニティを組織し、グループ内の情報共有や連携を強化した事とアイフルが社内エンジニアをゼロから220人規模に成長させた事例を紹介。アイフルはAWSを活用した内製化により年間15億円を削減した。
レジリエンシーのさらなる強化としては、最上位のサポートプラン「AWS Unified Operations」を開始。同プランはインシデントレスポンスに初動5分以内の対応と迅速化されるだけでなく、コンテキストを理解したドメインエキスパートを含む担当チームが対応するなど、ミッションクリティカルワークロードに対する高度化したニーズに対応する。
鶴田氏は、サイバーセキュリティ対策の強化の一つとして耐量子暗号(PQC)にも言及し、金融庁のPQC検討会報告書の主要メッセージすべてにAWSが支援策を用意していると説明した。










