沖縄本島北部のやんばるで2024年に目撃されたシカが、宮城県由来のニホンジカであることが分かった。沖縄本島には在来のシカが生息していないことから、人為的に持ち込まれた「国内外来種」とみられる。ふんを調べたところ、世界自然遺産・国立公園内に自生する希少植物を食べていた。調査した神戸女学院大学と琉球大学などの研究グループは「国内外来種は地域の生態系を脅かすほか、感染症を持ち込むリスクもある」と警鐘を鳴らしている。
やんばるはユネスコの世界自然遺産に登録されているほか、国立公園にも指定されている。ヤンバルクイナやノグチゲラ、リュウキュウヤマガメといった固有種が生息する常緑広葉樹の森が広がる。
やんばるの最も北にある国頭村(くにがみそん)で2024年10月21日、オスのシカが目撃され、カメラに収められた。その数日後、県道交差点近くの林で、シカのふんも見つかった。この「事件」は、地元の人々にとって衝撃だった。やんばるの生態系がマングースなどの外来種によって脅かされてきたことから、希少な生き物を守らないといけないという意識が日頃から高いためだ。
この「事件」を受けて、神戸女学院大学生命環境学部の高木俊人専任講師(分子生態学)と琉球大学理学部の小林峻助教(動物生態学)らの研究グループが調査を始めた。「大型の草食動物であるシカが外から持ち込まれたものだとすれば、やんばるの生態系に大きな悪影響があるのではないか」と懸念したためだ。
高木専任講師らはシカがどこから来たのかを調べるため、ふんから抽出したDNAを調べた。その結果、宮城県の牡鹿半島の先にある離島・金華山島のニホンジカと極めて近縁であることが明らかとなった。沖縄県の慶良間(けらま)諸島には、17世紀ごろに九州から持ち込まれて定着したケラマジカが生息しているが、問題のシカはケラマジカとはDNA配列がかなり異なっていた。日本の南北で大きく2グループに分かれるニホンジカのうち、エゾシカなどの北日本グループに分類されるものとみられる。
金華山島のシカは1920~70年代に捕獲され、国内の動物園や公園、神社に移送されていたことが、文献などの調査で明らかになっている。当時は全国的にシカの生息密度が低い地域が多く、今のように農作物の食害が大きくなかったため、各地に持ち込まれた際の影響についてそこまで深刻に考えられていなかったようだ。
これらのシカが数十年にわたって各地で飼育され、そのうちの1頭が人の手で沖縄本島に持ち込まれた後、自力で逃げ出すか人間に放たれるかした――研究グループは、そうみている。
小林助教は、シカが何を食べているのかを探ろうと5粒のフンの食性解析をした。その結果、イネ科のオヒシバ、ドングリの仲間のカシ類、ウルシやタデの仲間のほか、リュウキュウホウライカズラという絶滅危惧種を含む計28種の植物を食べていることが判明した。どのくらいの量を食べているのかは分からないが、環境省のレッドデータブックにも載る希少な植物が食べられている事実に危機感を持つべきだという。
研究グループによると、目撃されたシカの行方は分かっていない。高木専任講師は「(国内外来種は)他地域から家畜伝染病や人獣共通感染症を持ち込むリスクがあり、公衆衛生も脅かす。シカのメスは早ければ1歳から繁殖を始めることができ、短期間で増えやすい動物だ。もしメスの個体もいて繁殖していたら、被害の拡大が予想される」と懸念する。
高木専任講師は、法制度などの面でも課題があるという。「沖縄ではシカが野外にいることが想定されておらず、今回のような事態が発生したときに、村なのか、県なのか、環境省なのか、誰が捕獲して駆除するのかが明確には決まっていない。今後はシカ類の飼育の規制や、脱走したときの対応などのルール作りが必要だ」と訴える。
鳥獣保護管理法があるものの、この法律は「環境への悪影響があるのなら狩猟をしていい」と狩猟を促すものではない。「狩猟の適正化と生物の多様性の確保」を目的として、鳥や哺乳類などの動物の猟を許可の下で限定的に認めるという運用だ。
小林助教は「過度な植物の採食や地面の踏み固めは、自然や景観に影響することが日本各地で知られている。放置すれば沖縄でも同様のことが起こる恐れがある」という。また、「国内外来種が世界自然遺産内へ逃げ出してしまったときの管理体制を構築すべきだ。動物を飼う際、おりがきちんとあるかどうかなどが審査されているが、逃げたときの対応方法もきちんと決めていく必要がある」と指摘している。
高木専任講師らの研究は日本学術振興会の科学研究費助成を受けており、論文は3月6日、日本哺乳類学会の英文誌「マーマル スタディ」電子版に掲載され、同日、神戸女学院大学が発表した。小林助教らの論文は同電子版に3月13日に掲載され、同19日に琉球大学が発表した。
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