小型ロケット市場の難しさが分かりやすい、米国の状況
小型ロケット市場の難しさを最もよく示しているのが米国だ。米国では、SBIR(Small Business Innovation Research)のような政府の研究開発支援に加え、NASAや安全保障分野の需要も背景となり、多くの企業が小型ロケットの開発に参入してきた。
だが、市場が大きいからといって、小型ロケット単独で安定した事業が成り立つわけではない。
2006年設立のロケット・ラボは、小型ロケット「エレクトロン」を運用しており、これまでに80機以上の打ち上げを重ね、豊富な受注残も抱えている。ただ、同社はエレクトロンだけでなく、衛星や部品、軌道上運用まで手がける体制を築き、さらに再使用型の中型ロケット「ニュートロン」も開発している。つまり、成功例であるロケット・ラボですら、小型ロケット専業にはとどまっていない。
同じく米国のファイア・フライエアロスペースも示唆的だ。同社は小型ロケット「アルファ」を運用しているが、やはり中型ロケット「エクリプス」を開発しているほか、月面に物資などを輸送する月着陸機の開発や運用も手がけている。
一方、ヴァージン・オービットやヴェクターのように、小型ロケットのみを手がけていた企業は、いずれも倒産している。米国の小型打ち上げ市場で生き残っているのは、単に小型ロケットを打ち上げるだけでなく、政府需要や周辺事業も持ち、中型ロケットの開発にも取り組む企業だ。
中国でも小型ロケットは“次世代機へ進むための足がかり”
中国の動向も示唆に富んでいる。中国の強みは、商業ロケット企業の数が多いことに加えて、小型衛星、とりわけ多数機を継続的に打ち上げるコンステレーション需要が、小型ロケット市場を下支えしていることにある。
ロケットでは、星河動力航天の「谷神星一号」や星際栄耀の「双曲線一号」、中科宇航の「力箭一号」など、複数の企業・ロケットが並び、それぞれ存在感を示している。
その背景には、小型衛星コンステレーションの拡大がある。中国では地球観測や通信を目的としたコンステレーションの計画が相次ぎ、とくに通信では、数百機規模から将来的には数千機、さらに1万機規模を視野に入れた構想も進んでいる。
つまり中国では、載せるべき衛星の需要が十分にあり、その需要が小型ロケットの飛行頻度を支え、飛行頻度の増加が運用経験の蓄積と信頼性の向上を促すという循環が生まれつつある。単に企業数が多いというより、需要と打ち上げ機会が結び付いていることこそが、中国の本当の強みである。
その中国でも、商業ロケット企業の一部は、再使用型の中型ロケットの開発に進み、将来的な大量輸送を見据えた大型ロケットへ軸足を移しつつある。つまり中国でも、小型ロケットは終着点ではなく、飛行回数を重ねて運用経験を蓄積し、次世代のロケットへ進むための足場として位置付けられている。
公的支援と強く結び付く、欧州の小型ロケットたち
欧州でも小型ロケット企業は増えており、複数の企業が初飛行、あるいは初の軌道投入をめざす段階にある。特徴的なのは、その立ち上がりが市場競争だけでなく、公的支援とも強く結び付いている点にある。
その先頭を走るのが、ドイツのイーザー・エアロスペースだ。同社の小型ロケット「スペクトラム」は、2025年3月に初の試験飛行を実施し、打ち上げ後約30秒間飛行したのち、墜落した。同社は2026年3月以降に、2号機の打ち上げをめざしている。
その後を追うのが、同じくドイツのロケット・ファクトリー・アウクスブルク。同社の小型ロケット「RFA ONE」は、早ければ2026年夏にも初の打ち上げを予定している。
このほか、フランスのマイアスペース、スペインのPLDスペース、ドイツのハイインパルスといった企業も続いている。
欧州では、市場競争だけで新規企業を自走させるのではなく、自立的な宇宙アクセスを維持するために、公的部門が初期需要を支える構図になっている。欧州宇宙機関(ESA)は「Boost!」で民間の宇宙輸送サービス開発を支援してきたうえ、「ヨーロピアン・ローンチャー・チャレンジ」では自ら新興打ち上げサービスの顧客になる方針を打ち出している。まず飛べる企業を育て、その後の商業サービス成立までつなげようとしているのだ。
「スペースワンに期待されること」は何か
ひるがえって日本の状況を見ると、米国や中国、欧州と比べれば規模ではなお小さいものの、小型ロケットによる専用打ち上げを支える需要や事業の芽は着実に育ちつつある。
小型衛星に取り組む民間企業は増えている。たとえば、アクセルスペースは光学衛星コンステレーション「アクセルグローブ」を展開し、Synspective(シンスペクティブ)やQPS研究所は小型SAR衛星による観測データ提供を進めている。
そうした衛星データを分析し、サービスとして活用する市場も広がりつつある。政府も衛星データの産業利用を後押ししており、JAXAの宇宙戦略基金でも「衛星データ利用システム実装加速化事業」が進められている。
加えて、国内需要にとどまらず、東南アジアなど周辺諸国からの需要も見込める。
また、安全保障分野でも需要がある。政府は情報収集衛星の代替・補完となる「短期打上型小型衛星」の開発に取り組んでいるほか、防衛省・自衛隊も衛星コンステレーションの整備を進めている。安全保障分野での衛星需要は、昨今の日本を取り巻く安全保障環境の変化を踏まえれば、今後さらに高まるだろう。こうした需要に応えるべく、スペースワンはメタンエンジンによるロケット上段の能力向上を図る「増強型カイロス」の研究開発も進めている。
つまり、日本には一定規模の小型衛星市場と需要がある。ただし、米国や中国の例が示すように、小型ロケット専業のままで持続的に成り立つ保証はない。
スペースワンに可能性があるとすれば、日本国内や海外の需要を確実に取り込み、「宇宙宅配便」を通じて打ち上げ頻度と実績を積み上げ、事業としての厚みを持てるかどうかにかかっている。小型衛星と衛星データ利用の広がりを追い風に、打ち上げ回数を着実に重ねて宇宙宅配便を確立できれば、小型衛星の市場はさらに活性化し、そのことが新たな打ち上げ需要を呼び込む循環にもつながる可能性がうまれる。
その第一歩として、まずは軌道投入を成功させ、その実績を着実に積み重ねていくことが必要だ。新しいロケットには失敗がつきものとはいえ、あまりに続くようでは、同社の事業基盤が揺らぐだけでなく、衛星事業者や出資者、地元からの信頼も失われていく。
その意味でも、次の4号機には大きな期待がかかる。2号機の失敗から3号機の打ち上げまでには1年以上を要した。拙速な打ち上げ再開は望ましくないが、失敗の分析と対策を着実に行ったうえで、できるだけ早期に4号機を打ち上げ、衛星の軌道投入を達成できるかどうかが、今後の大きな焦点となろう。
参考文献


