KDDIは10月28日~29日、最新のテクノロジーや共創事例を紹介するKDDIグループ最大規模のビジネスイベント「KDDI SUMMIT 2025」をTAKANAWA GATEWAY CITY(高輪ゲートウェイ)で開催した。

本稿では同イベントから、KDDIの副社長でビジネス事業本部長を務める桑原康明氏の講演「共創でひらく未来~課題解決を次の競争力に~」の中から、AI時代のビジネスプラットフォーム「WAKONX(ワコンクロス)」の模様をお届けする。

WAKONXは2年目に突入

2024年5月に日本のデジタル化を加速するために始動したWAKONXは、2年目を迎える。WAKONXの名称は「和魂洋才」に由来し、西洋の技術を取り入れながら、和の心を生かして技術を革新することを表している。

WAKONXは「協調」と「競争」の2つの枠組みで、これまでソリューションを拡大してきた。協調の領域では業界や企業の枠を超えて、リソースやノウハウを共有して共通の課題解決を図る。一方、共創の領域では、AIやデータを活用して各社の商品やサービスに付加価値をもたらす。

  • 「協調」と「競争」でDXを支援する

    「協調」と「競争」でDXを支援する

桑原氏は「1秒や1ミリメートルにこだわって社会実装するのが、日本の素晴らしさ。協調できる領域に使っていたコストを競争領域に使えるようになれば、効率よく差別化できるようになる」と説明した。

  • KDDI 代表取締役執行役員副社長 ビジネス事業本部長 桑原康明氏

    KDDI 代表取締役執行役員副社長 ビジネス事業本部長 桑原康明氏

また、講演後に記者らの囲み取材に対応した同氏は、「WAKONXの中では、特にスマートシティの取り組みが進んでいる。高輪では具体的なソリューションが実装され、すでに稼働しているのが強み。他の都市にも展開していく」とコメントしていた。高輪で培ったソリューションやノウハウを、地方都市などにも展開する方針だ。

  • 囲み取材に対応する桑原康明氏

    囲み取材に対応する桑原康明氏

また、NECのBluStellarや富士通のUvance、日立のLumadaなど大手SI企業などが展開するDX支援事業との違いについては、「WAKONXは月額モデルとして提供するのが差別化になっている」(桑原氏)とのことだ。

KDDIは通信を軸に40万以上のアカウント(顧客口座)を持ち、中堅・中小企業まで販路のチャネルがある。中堅・中小企業向けには業界ごとにパッケージ化したサービスを、大企業向けには個社にカスタマイズしたソリューションを提供していく戦略だ。

WAKONXの次なる2つの挑戦

WAKONXでは今後、生産人口減による「都市への集中・地方過疎化」と、デジタル活用に必須となる「AI時代のインフラ整備」に挑戦する。以下にそれぞれの取り組みを紹介する。

  • WAKONXの2つの挑戦

    WAKONXの2つの挑戦

生産人口減による「都市への集中・地方過疎化」

まず、生産人口減による「都市への集中・地方過疎化」に対しては、都市と地方におけるそれぞれの課題に対応する。都市向けには、KDDIが本社を移した高輪ゲートウェイを実験場として、都市や街、オフィスを共創しながら育てる。

具体的には、8月に発表した「KDDI Smart Space Design」を活用して、通信インフラやロボット、AIの仕様を前提とした空間づくりを支援する。

オフィスや商業施設などを新設・移転する際には、従来はコンセプト策定と設計が完了した後に通信事業者などに構築を依頼するため、「Wi-Fiを設置するための電気配線がない」「ロボットが動く動線が整っていない」「設計、構築・施工、保守・運用など工程を別会社に委託したため管理が煩雑」など、手戻りが発生する場合があった。

対して「KDDI Smart Space Design」は、KDDIがコンセプトの策定段階から伴走し、ロボットやAIの仕様を前提とした設計を実現する。また、運用開始後の保守なども一貫して対応する。これまでに大小さまざまではあるが9000件ほどの案件が動いているという。

なお、KDDIが単独で稼働するのではなく、コンサルティングから設計・デザイン、構築・施工、保守・運用、デジタルテクノロジーまで、58社のパートナーと共に伴走支援を開始している。パートナー企業は今後も拡大予定だ。

  • 「KDDI Smart Space Design」のサービス概要

    「KDDI Smart Space Design」のサービス概要

一方で、地方向けには行政のデジタル化支援や、ローソンを拠点とした生活の支援、さらにはデジタル技術を使った一次産業支援などを提供する。行政向けの支援では、KDDI社員が専門人材として出向しながら現地のデジタル化をサポートする。これまでに8都市へ人員を派遣している。

一次産業支援では、センサーなどIoT機器を活用して一次産業の効率化と高収益化を支える。すでに地方創生として稼働している200以上のプロジェクトのうち、20ほどが農業や漁業といった一次産業の支援だ。

  • 地域で展開する3つの支援

    地域で展開する3つの支援

同社が1月に発表した、製品やサービスに通信を一体化させるビジネスモデル「ConnectIN(コネクティン)」も、地方創生に貢献するソリューションの一つだ。製品に通信を組み合わせて提供することで、都市でも地方でも変わらないパフォーマンスを実現する。これにより、場所にとらわれないノマド型の働き方に寄与する。

ConnectINは現時点ではPCと通信を一体化するモデルで提供しているが、今後はATMやカメラ、ドライブレコーダーなど、多様なデバイスに対応する予定とのことだ。

デジタル活用に必須となる「AI時代のインフラ整備」

AI時代を支えるインフラの最たる例が、データセンターだ。2026年1月にはシャープ跡地の大阪堺AIデータセンターが稼働を開始する。また、2027年秋には多摩市の「Telehouse TOKYO Tama 5-2nd」が開業予定だ。通信網とデータセンター事業の知見を集約し、WAKONXを支えるインフラを構築するという。

他にも、AI開発を支えるため、NVIDIA製のGPU(NVIDIA GB200 NVL72)をクラウドライクに使える「KDDI GPU Cloud」や、KDDI、サクラインターネット、ハイレゾがGPUを相互提供する「日本GPUアライアンス」を開始。このアライアンスにより国内事業者間でGPUリソースを安定供給できるため、急速に高まるAI需要に対応する。アライアンス参画企業は継続して募集するそうだ。

  • AI開発を支援する

    AI開発を支援する

AIインフラ整備が着々と進む反面、電力消費量の増加やサーバ廃熱の処理が問題となっている。そこで同社は、サーバ廃熱の再利用にも着手している。ドイツ フランクフルトのデータセンターでは、建物で発生する排熱を近隣地区の暖房に利用しているという。

また、フランス パリのデータセンターでは、建物屋上を利用した屋上菜園やICT教育、雇用の創出を通じて地域に貢献している。

桑原氏は「日本を課題経験先進国から、課題解決の先進国へと変えていく。ある意味で、日本はどの国よりも社会課題を先に経験する、時間的なアドバンテージがあるともいえる。協調と競争によって、日本の競争力を高めていく」とコメントした。

  • データセンターの廃熱を暖房に利用している

    データセンターの廃熱を暖房に利用している