龍角散・藤井隆太の『私の社長30年史』(第4回)「異文化とは」

異文化に接するということを考えたとき、可能な限り現地のライフスタイルを真似てみようと思いました。まずは食生活です。幸いアパートの近くに、当時、欧州最大と言われたスーパーマーケットやベルサイユ宮殿近くの朝市もあり、食材の入手には困りませんし、飯盒などキャンプ用の調理道具も持って行ったので自炊には困りませんでした。

 何しろお肉は安かったので毎日大量に食べましたが、そのうち何となく落ち着かなくなってきて思うように演奏できなくなってきたのです。やはり日本人である私の体には合わず、野菜や海藻類、魚などが足りなかったのでしょう。

 そこで食品成分表を日本から送ってもらい、自分なりに改善したところ、調子を取り戻しました。やはり健康経営の基本は食生活なのです。

 パリの街は音楽で溢れています。そこで聴衆の反応を見たいと思い、凱旋門の地下通路で1日中吹いてみました。広げておいた楽器のケースには結構入り、ランチ代くらいは稼げました。やはり東洋人だからでしょうか、日本の民謡や歌謡曲などは反応が良かったようです。

 あるとき、警察の取り締まりに合い、遂に捕まってしまいました。観光客が多いと警察が来ても人垣で守ってくれるので、上手く逃げられるのですが、そのときは夜だったため、聴衆が少なかったのです。夜のシャンゼリゼ通りに引き出され、警察のバンに押し込まされそうになりましたが、なけなしのフランス語で必死に釈明したところ、許してくれました。

 バンを見ると、既に捕まっていた人たちが大勢乗っていてゾッとしました。もしかしたら人生が変わっていたかもしれません。

 毎週、先生のお宅に伺い、レッスンを受けるのですが、グループレッスン形式で他の生徒さんの演奏も聴いていると、実に国際色豊かで皆さん個性的でした。しかし疑問に思ったのは、なぜもっと練習して来ないのかということです。

 やはり日本人は勤勉なのです。ところがある日、演奏会形式の試験があり、学校のホールで順番に演奏したのですが、皆さんはあまり練習して来ないことなど、まるで感じさせないような個性溢れる演奏でアピールするのです。驚きました。一方、私は先生から「リュウタは一体何をやりたいんだ」と言われる始末で本当に落ち込みました。

 やはりクラシック音楽はアジア人から見ると異文化なので、どんなに真似てみても、自分のモノにはならないのかも知れない。単に模倣するのではなく、日本人ならではの独自性のある演奏でなければ勝負にはならないのではないかと、真剣に悩みました。

 将来、経営者になるとは微塵も思っていませんでしたが、自分なりに「オンリーワン」志向がこの時期に身についたのかも知れません。

龍角散・藤井隆太の『私の社長30年史』(第2回)実験だった?