「営業に電話をかけさせても反応が薄い」「Web広告の費用対効果が落ちてきた」--こうした相談を受ける機会が、この1年で急に増えました。売上高や引き合いの減少があると、まず疑うのは営業力や広告の質でしょう。ただ、原因がそこにない、というケースが混じり始めています。

生成AIが企業選びの入り口に置かれ、AIが挙げた社名しか比較対象にならないまま、意思決定が進む。この構造への対応が「LLMO対策」です。前回の10項目チェックリストで自社の現状が見えたら、次は「明日から動く」ための打ち手をどう組むか。本稿では、着手ハードルの低い5つの打ち手を提示します。

「営業力の問題」ではなくなっている、いくつかの兆候

実務の現場で「これはLLMO由来の可能性が高い」と判断する兆候は、いくつかあります。以下のような症状が並んで出ている場合、営業改善や広告改善の前に、AI検索側の要因を確認する意義があります。

  • 自社名を指名した問い合わせは維持できているが、業界カテゴリー経由の新規流入が減っている

  • 商談化した案件で、「他社と比較検討中でしたが、御社は選択肢に入っていなかった」と言われる頻度が上がっている

  • 展示会、セミナーで名刺交換した相手が、その後の追客に対して温度が上がりにくい

  • 広告のクリック率は維持されているが、問い合わせフォームまでの到達率が落ちている いずれも「営業活動を強化する」だけでは説明がつかない現象です。共通するのは、初期の候補リストに自社の名前が入っていない可能性があるという点です。生成AIが「◯◯業界でおすすめの会社は」という質問に返した数社の中に、自社が入っていない。その時点で、以降の営業活動はスタートラインより手前で不利を背負うことになります。

【打ち手の例】直近3か月に受けた「他社比較の話」を営業担当ごとにヒアリングし、比較対象に上がった競合名を一覧化する。自社が「入っていた比較」と「入っていなかった比較」の比率を把握するだけで、状況の解像度が変わる。

今日から動ける打ち手その1・2

打ち手その1:自社が「AIにどう語られているか」の観測点を作る

所要時間は30分程度で済みます。ChatGPT・Gemini・Claudeなどに、以下の3種類の質問を投げるだけです。

  • 「【自社名】はどんな会社ですか」

  • 「【自社の業界カテゴリー】でおすすめの会社を教えてください」

  • 「【自社が競う典型的な問い】に強い会社はどこですか」

返ってきた回答を全文コピーして、日付とともに保存します。この保存物が、以降のすべての改善の基準線になります。基準線がないまま打ち手を打っても、効果があったのかなかったのかが判別できません。

打ち手その2:「AIが参照できる公式情報」の棚卸し

自社サイトの中で、外部からアクセス可能かつ最新の状態で維持されているページを一覧化します。

会社情報、事業内容、代表者プロフィール、直近1年の主要な発信、採用情報、導入事例。この6項目のうち、更新日が1年以上前のもの、もしくは外部リンクからの導線が切れているものは、AIの学習・参照上で不利に働きます。棚卸しの結果を1枚のスプレッドシートにまとめておくと、以降の打ち手の優先順位を議論しやすくなります。

【打ち手の例】打ち手1で保存した回答内容と、打ち手2の棚卸し結果を突き合わせ、「AIが自社について発している事実」と「自社が発している事実」の乖離を色分けする。乖離が大きい項目から順に、後述の打ち手3~5で対処する。

今日から動ける打ち手その3・4

打ち手その3:古い情報・誤情報の是正

自社サイト外にある口コミサイト、掲示板、業界メディアの過去記事などに、事実と異なる情報や古い情報が残っていることは珍しくありません。対応の選択肢は、大きく3つに分かれます。

プラットフォーム運営側への訂正依頼、企業として公式回答を書き込む対応、そして自社サイト側で正しい情報を継続発信して上書きしていく対応です。どの選択肢を選ぶかはケースごとに判断しますが、削除依頼だけに頼らないのが実務的な感覚です。

削除できたとしても、生成AIの学習データに情報が残っていれば、しばらくの間はAIの回答から消えません。

打ち手その4:プレスリリースと寄稿の頻度を、月次で回せる粒度に設計する

AIが参照する情報プールの中で、公式情報の比重を上げるには、企業側の発信頻度を一定以上に保つ必要があります。年に数回のリリースだけでは、口コミやレビューサイトの情報量に埋もれます。

月1本の主要リリースと、事業責任者や現場担当者による寄稿・インタビューを四半期ごとに複数本、というのが着手しやすい目安です。ここで重要なのは「量」よりも「更新の継続性」で、AIは古い記事より新しい記事を参照しやすい傾向があります。

【打ち手の例】直近12か月に自社が外部発信した記事・リリース・登壇内容を一覧化し、「業界カテゴリーでAIが取り上げる企業に自社を入れる」ための素材が足りているかを確認する。足りない場合、次の四半期での発信計画を1枚にまとめる。

今日から動ける打ち手その5:営業と広報の情報流通を組み替える

5つ目は、社内の情報流通の仕組みに関する打ち手です。営業現場で得られた「顧客からよく聞かれる質問」「他社比較で言及された論点」「失注時の理由」は、そのままLLMO対策の一次情報素材になります。ただ、この情報が営業部門にとどまっていて、広報や採用の発信物に反映されないことが実務上は非常に多い。

月1回、営業と広報の担当者が20分だけ集まる場を作り、「今月、顧客から一番よく聞かれた質問トップ3」を共有する。その質問への回答を、公式サイトのFAQ、プレスリリース、事業責任者の寄稿記事のいずれかに落とし込む。この1サイクルを回すだけで、AIが参照する情報プールに「顧客が実際に持っている質問への回答」が増えていきます。

この打ち手は特別なツールも予算もいりません。既に社内にある情報を、部門を越えて流通させる仕組みを作るだけです。しかも副産物として、営業と広報の連携が良くなる、採用広報の精度が上がる、といった別の効果も出ます。

【打ち手の例】次回の営業会議の議題に「顧客からよく聞かれた質問トップ3」を10分だけ組み込む。広報担当者にも同席してもらい、そのうち1問を今月の外部発信ネタとして取り上げる。

5つの打ち手の優先順位をどう付けるか

5つの打ち手をすべて同時に始める必要はありません。全体像を下の優先順位マップで整理しました。前回のチェックリストで該当数が3つ未満だった企業は、まず打ち手1と2から。3~5つだった企業は、打ち手2と3を優先。6つ以上だった企業は、打ち手4と5で継続運用の質を上げる、という組み合わせが目安になります。

  • AIに選ばれる企業のつくり方 - LLMO対策の実践ガイド 第2回

    5つの打ち手・優先順位マップ

重要なことは、LLMO対策を大きなプロジェクトとして構えないことです。すでにある業務(営業会議、広報活動、サイト更新)の中に、小さな組み替えを織り込む形で始めると、社内の合意も取りやすい。予算稟議を通さないと動けない、という状態にすると、そのまま半年動かないことが実務上は多くあります。

問い合わせが来ないのは、営業力の問題ではないかもしれません。まずは自社が「AIにどう語られているか」を1回だけ観測してみる。それだけでも見えてくるものは多いはずです。次回は「SEOだけやっている企業から損していく - LLMO対策がSEOと決定的に違うこと」というテーマで、既存のSEO投資との重なりと違いを整理します。