このものづくりニュースのまとめ
・デクセリアルズが約300億円を投じた鹿沼事業所第2工場の新棟「101号館」を公開
・自動搬送や自動倉庫の導入で1人当たりの生産性を約2倍、生産能力を約1.5倍へ向上させる計画
・ディスプレイに加え、カメラ、センサ、医療機器、ロボティクス向けACF需要の高まりにも対応
デクセリアルズは9月10日、栃木県鹿沼市の鹿沼事業所第2工場に新設した「101号館」の竣工式を開催。併せて内部を報道関係者に公開した。
同棟は、スマートフォン(スマホ)や車載ディスプレイ、カメラモジュールなどに用いられる異方性導電膜(ACF)の中核生産拠点という位置づけ。建屋は2026年6月に完成し、顧客の認定などを経ながら、生産設備を順次立ち上げている。
投資総額は約300億円。新エリアの敷地面積は約7万1000m2で、101号館の延床面積は2万4145m2となる。AGV(Automated Guided Vehicle:無人搬送車)を活用した自動搬送や自動倉庫の導入によって、1人当たりの生産性を従来比で約2倍、ACF全体の生産能力を約1.5倍へ引き上げる。中でも今後の主力製品と位置付ける粒子整列型ACFについては、生産能力を約2倍へ高める計画である。
ディスプレイの高度な表示を支える高機能フィルム「ACF」
ACFは、バインダーとなる熱硬化型樹脂の中に、絶縁層で覆われた導電粒子を分散させたフィルム状の接合材料である。
ICチップやフレキシブルプリント配線板とプリント基板の間にACFを配置して加熱・加圧すると、向かい合う電極に挟まれた導電粒子の絶縁層が破れ、上下方向に電気が流れるようになる。一方、電極に挟まれなかった粒子は絶縁性を維持するため、隣接する端子間のショートを防ぐことができる。
この仕組みにより、ACFは「接着」「導通」「絶縁」の3つの機能を同時に実現し、多数の微細な電極を一括で接続できる。はんだやコネクタと比べて接続部を薄くでき、比較的低温かつ短時間で実装できることも特徴となる。
主にスマートフォン(スマホ)、タブレット、PC、テレビ、車載機器などのディスプレイ内部で、ガラス基板とドライバIC、フレキシブルプリント配線板などを接続するために利用される。ディスプレイに画像を表示するための信号を伝える材料であり、同社は「ACFがなければ画面に絵が映らない」と、その役割を説明する。
デクセリアルズは、前身であるソニーケミカル時代の1977年にACFを製品化し、導電粒子の小径化や絶縁コートの採用などによって、電子機器の小型・薄型化とディスプレイの高精細化ニーズなどに対応するなど、技術進化を果たしてきた。
世界シェアトップに求められる安定供給という課題
デクセリアルズのACFは、大型および中小型ディスプレイ向けを合計した2025年の金額シェアで79.4%となり、世界首位を獲得している。
同社は、高い市場シェアを事業上の強みとする一方、スマートフォンやPC、車載ディスプレイなど多くのデジタル機器に採用されており、供給が停止した場合に顧客の生産や世界の電子機器供給へ与える影響も大きいと捉えている。このため、品質向上と安定供給を重要な経営課題に位置付ける。
デジタル社会の進展に伴い、ディスプレイは薄型化・軽量化から高機能化、高精細化へと進化してきた。さらにAI、自動運転、ロボティクス、XR、医療機器などが普及すると、高度な情報を人へ伝えるためのインタフェースとしてのディスプレイや、多数のセンサ、カメラなどが必要となる。こうした流れを踏まえ、同社は高精度・高密度な接続を担うACFが、個別製品を支える機能性材料から、情報社会を支える基盤技術へ進化していくとみている。
粒子を狙った位置に配置して微細接続を実現
ディスプレイの高精細化に伴い、ドライバICや基板に形成される電極の間隔も狭くなっている。ACFには狭い電極面積の中へ導通に必要な数の粒子を配置しながら、隣接端子間のショートを防ぐことが求められる。
通常のACFでは導電粒子を樹脂内へ分散させるため、粒子数を増やせば電極上で捕捉できる可能性が高まる一方、端子間で粒子が連なってショートするリスクも高まる。
デクセリアルズは、導電粒子を一定の間隔で配置する技術と、加熱・加圧時に粒子が移動しにくい樹脂技術を組み合わせた粒子整列型ACF「アレイフィックス(ArrayFIX)」を展開している。
同社によると、最小配線間隔10μmでの導通と高い接続信頼性を実現している。必要最小限の粒子を狙った位置へ配置することで、ファインピッチ接続における導通の安定性と端子間の絶縁性を両立する。
製造プロセスや材料そのものは一見すると単純に見えるが、粒子を狙った位置へ配置し、接続抵抗や電流容量、圧着温度、接着強度などを顧客の製品や実装条件に合わせてカスタマイズできる点が競争力になっているという。
災害と停電に備えた次世代生産拠点
デクセリアルズは101号館を、安定供給、品質、将来需要に対応する次世代生産拠点と位置付けている。
新棟の建設地として鹿沼事業所を選定した理由について、栃木県が自然災害の比較的少ない地域であることに加え、首都圏からのアクセスや、技術者を含む人材確保とのバランスを挙げる。
101号館では、保有水平耐力を一般的な基準の約1.25倍とし、震度6強相当でも倒壊しない耐震性能を確保したほか、水害対策として建屋を従来より1m高くする高床設計を採用。建屋全周へワイヤーを巡らせる形で側雷保護も施し、落雷に伴う生産停止リスクを抑制したともする。
また、停電時には、敷地内に設けたコージェネレーションシステムによるバックアップにより最大72時間の供給継続に対応。災害や停電が発生した場合にも生産を維持し、顧客への供給責任を果たせる体制を構築した。
自動搬送と自動倉庫で生産性を約2倍へ
101号館では、生産設備の自動化に加え、工程間の搬送にAGVを導入した。自動倉庫とも連携させることで、原材料や仕掛品、完成品の移動を含む生産ライン全体の効率を高めるスマートファクトリー化を目指したという。
従来の工場でも個々の生産セル内では自動化を進めてきたが、セルとセルの間をつなぐ搬送工程は人手が担ってきたという。既存棟は通路幅や設備配置の制約があり、無人搬送車を工場全体へ展開することが難しかったためで、そうした課題を解決するべく新棟では設計段階からAGVが走行できる通路幅と動線を確保し、個別工程の自動化から工場全体をつないだ自動化へと対象範囲を広げた。
設備面ではプロセスの自動化、自動搬送、自動倉庫に加え、今後は生産計画の自動化、リアルタイムモニタリング、異常予測、AI検査、デジタルツインなどを活用することでさらなる生産性の高度化や省人化を目指すという。
そうして機械が得意とするところを機械に任せることで得られた人的リソースを、人員削減につなげるのではなく、生産工程の改善や品質向上、技術開発などといった付加価値の高い仕事へ回すことで、さらなる進化につなげたいとしており、自動化をフル活用することで、1人当たりの生産性を約2倍、ACF全体の生産能力を約1.5倍へ引き上げることを目指す。
最初で最後の公開となる場所も、101号棟の内部に潜入
101号棟は3階建ての建物で、大きく製品の素となる液状の熱硬化性樹脂を材料を混ぜることで作り出す「混合」、樹脂をベースフィルムに塗り、ロール状の原反を作る「塗布」、原反を指定された細さに切り分け、リールに巻き取る「裁断」、そして品質確認と外観検査(最終検査)を行い、包装される「検査」の4つの工程を一気通貫で行われている。
デクセリアルズ鹿沼事業所第2工場の包装/外観検査工程の様子
施設の一部は今後、一般向けの施設見学の際のコースとして公開される予定だというが、今回の報道公開では、そうした一般公開の予定外の生産設備や自動倉庫なども披露された。
中でも自動倉庫はおそらく今回の公開が初めてでかつ最後になる見込みだという。その理由はACFは、エポキシ樹脂などの有機物(熱硬化性樹脂)がベースであり、常温放置すると硬化反応が進んでしまい、本来の接着・導電性能が発揮できなるため5℃以下の冷蔵保管が必要で、その保存期間も5~7か月程度とされているため。倉庫は、今後の本格稼働では、既定の温度以下に冷やし続ける必要があるため、簡単に開けて公開するということができなくなるという。
デクセリアルズ鹿沼事業所第2工場の自動倉庫への搬入の様子
自動倉庫の中では、Hai Roboticsの倉庫自動化ロボットが運ばれてきたACFを棚に搬入、搬出しており、基本的には人は介在しない。また、倉庫までのACFの輸送などもAGVを活用したものになるという。
デクセリアルズ鹿沼事業所第2工場 自動倉庫の内部の様子
多品種生産へフィジカルAIを活用
同じ仕様の製品を大量かつ継続的に製造するのであれば、専用ラインを構築して自動化を進めた方が良いが、ACFは、接続する部品や電極の間隔、材料、実装温度、必要な電気特性などに応じて仕様を変更する必要のあるカスタム品であり、顧客ごとの仕様に応じて複数品種を切り替えて製造する必要があり、生産設備にも柔軟性が求められる。
そのため同社は今後、101号館を活用する形でAIやデジタル技術の導入を推進し、製品や生産量の変化に応じて設備の稼働や搬送を柔軟に変更できる生産体制の構築を目指す。フィジカルAIについても、多品種生産で必要となる柔軟性を高める技術として活用を検討する。人が状況に応じて行ってきた判断をAIが支援し、設備や搬送機器の動作へ反映することで、自動化と品種切り替えへの対応を両立させる考えで、そうして得たノウハウをほかの生産拠点などに展開し、全体としての生産効率の向上も目指していくとする。
カメラ、センサ、医療、ロボティクスへ用途を拡大
ACFは現在、ディスプレイ用途が数量面で大きな割合を占めており、高精細化や高密度実装の進展に伴って今後も需要が拡大すると見込まれている。一方、非ディスプレイ用途としてスペースが限られるカメラモジュールやセンサモジュール、医療機器、ロボットなどからの引き合いも高まってきており、新たな市場を形成しつつある。
新棟は、そうした既存のディスプレイの進化と、非ディスプレイ用途の多彩なニーズの両方に対応する生産基盤となることを目指した中核拠点に位置づけられている。
太陽光発電で工場電力の10%を供給
また、企業としての安定供給と製造競争力の向上に加え、従業員の健康とウェルビーイング、環境負荷の低減も設計コンセプトとして取り入れたという。
そのため従業員向けのリフレッシュルーム、専用休養室、クリーンルーム内のラウンジなどが整備されているほか、事業所内に1周約700mのウォーキングコースと緑地も設置するなど、従業員が長期にわたって働きやすい環境づくりを進めた。
また、環境への配慮として太陽光発電設備を導入し、工場全体で使用する電力の約10%を賄うことを計画しているほか、鹿沼第1工場と鹿沼第2工場の従業員の移動にはEVバスも活用するなど、製造時だけでなく事業所の運営を含めた環境負荷の低減を図る。ちなみに、このEVバスの外観デザインは鹿沼市の隣、宇都宮市にある文星芸術大学の学生コンペティションで選考されたものが採用されている。
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EVバスのデザイン。3つのグラフィックはデクセリアルズのシェアトップ製品「ACF」「SVR」「ARF」をモチーフとしているほか、色はコーポレートカラーを基調としてエネルギッシュなオレンジ、コーポレートカラーとオレンジをつなげ、調和させる色としてのスカイブルーを用いている。また、グラフィックのパターンはパーパス、経営理念、企業ビジョンを表現したものだという
さらに、従業員が勤務時に着用する作業服も今回の竣工に併せる形で刷新。ワーキンググループを立ち上げ、従来の作業服の不満点や問題点を改善することを意識して、利便性を含め、新たなデザインを考案。社員投票によって最終的に選定が行われたという。
300億円は「工場」ではなく「成長」への投資
デクセリアルズは、約300億円の投資について、単なる工場への増産投資ではなく、会社全体の成長を支えるための投資だと説明する。
ACF事業は同社の強固な収益基盤となっている。一方、同社は中期的な成長領域としてフォトダイオードをはじめとするフォトニクス分野を強化しており、光半導体デバイスや光電融合を含む新市場への展開を目指している。
フォトニクスなど将来の成長事業への投資を継続するためにも、既存のACF事業で安定供給、品質、生産性、生産能力を高め、収益基盤を強化する必要がある。
ものづくり分野の設備投資は、どのタイミングで決定し、実行するかが難しい。投資を決めたからといって、次の日に建屋が組みあがり、設備が稼働するわけではなく、着工から量産立ち上げ数年単位の時間を要することが求められるためであり、稼働したとしても市況が下り坂になっていることもあるためだ。半導体の分野では4年程度で好不況の波が起こるシリコンサイクルの存在が有名だが、好況のタイミングで設備投資を行うが、稼働開始時期には不況になっていたという話がよく合った。
同社の新棟の竣工は、今後、AI、自動運転、ロボティクス、XR、医療機器などの進展によって、高精度な電子デバイスと接続材料の需要が増加するとの判断のもと進められた取り組みであり、需要が本格化する前に行った先行投資といえる。
ディスプレイ分野での競争力を維持しながら、カメラ、センサ、医療、ロボティクスなどの新たな用途から生じる需要にも十分に対応していくために必要な投資であり、同社では101号棟の活用によりACF事業の競争力を高めていくことで、将来の技術革新を支える社会的価値と、フォトニクスを含む企業価値向上の両立につなげていきたいとしている。





















