
NBからPBへの切り替えが進むか?
「消費者マインドは非常に厳しくなっており、圧倒的に財布のヒモは固い。昨年1~9月で7千品目が値上げしたが、今年1~9月はすでに2万34品目が値上げ。これがお客様の節約志向につながっていて、今後も大手メーカー商品の値上げが続いた場合、PB(プライベートブランド=自主企画)商品への切り替えが進むと考えている」
こう語るのは、イオントップバリュ社長の土谷美津子氏。
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物価高騰が続く中、イオンは10月1日からPB商品『トップバリュ』60品目の値下げに踏み切った。同社は今年4月にも75品目を値下げしており、75品目全体で売上は前年同月比156%の伸び。約1.5倍売れているということで、相次ぐ値下げで消費者の節約志向に対応する考えだ。
例えば、『早ゆでスパゲッティ 3分』は税抜き価格で198円から178円に、『炭火焼鳥盛合わせ たれ(冷凍)』は398円から358円に値下げ。全国約1万店舗の『イオン』や『マックスバリュ』などで実施し、値下げ幅は2~34%、平均で10~15%となる。
もっとも、総務省が発表した今年9月の消費者物価指数(東京都区部)は、前年同月比2.5%上昇。2020年に比べて10.7%上昇した。また、帝国データバンクの調査によると、今年10月の値上げは3024品目。酒類・飲料や加工食品が多く、4月(4225品目)以来、半年ぶりに3千品目を超える値上げとなった。
中でも、コカ・コーラボトラーズジャパンは500ミリリットルの『コカ・コーラ』(希望小売価格)を180円から200円(税別)に改訂。実際にスーパーなどで売られる価格は200円を切るだろうが、ついにペットボトルが200円の〝大台〟を突破したことは大きな話題となった。
一方、厚生労働省が発表した今年8月の実質賃金は前年同月比1.4%減少。8カ月連続のマイナスとなっており、物価高に賃金上昇が追い付かない厳しい状況になっている。
こうした状況下、土谷氏は個人的な感想とした上で、「パックご飯1つが150円くらいする時代なので、節約志向なんて一言では言い表せないくらいの状況。節約している人と節約せざるを得ない人がいて、(賃上げの恩恵がない年金生活者などの)高齢者2人でワンプレート商品一つしか食べられない夫婦もいる」と話すほどだ。
では、そうした状況下、なぜ、イオンがこれだけ値下げできるのか。それは計画生産や全量買い取りといった原理原則を徹底していることにある。
まずは必要な生産数のみを製造委託先に発注することでコストを最小限に抑える他、発注量は全量を買い取る。その上で、イオンが直接商品を製造委託先まで引き取りにいくことで、流通コストを削減している。また、冷凍食品の内容量はそのままに、袋のサイズをコンパクト化。プラスチックの使用量を約21%削減したことで、値下げにつなげた商品もある。
イオンは今回、価格高騰が続くお米でも、『新潟産コシヒカリ5個パック』を本体価格798円から778円に値下げ。製造数の少ない夏場の閑散期に工場をフル稼働させるなど、工場の稼働効率化によるコスト削減を実現した。この他、スケールメリットを生かした大量仕入れや一括引き取り、物流拠点や製造拠点の工夫をしているという。
「取引先だけに任せきりではなく、原材料選びもわれわれが一緒に考え、共に集めて供給するような努力があった上でお買い得価格を提供できる。どうやって原価を維持しながら、お客様に価値を提供できるかを考え続けている」(土谷氏)
消費の勢いが落ちている中で
もっとも、値下げに踏み切ったのはイオンだけではない。
首都圏で食品スーパーを展開する東武ストアも、10月の1カ月間限定で304品目を最大40%値下げ。こちらはPBではなく、ドレッシングやお茶、カレー粉など、大手メーカーのNB(ナショナルブランド)商品が対象となる。また、家具チェーンのニトリも9月から定番商品170品目を値下げしている。
相次ぐ小売業の値下げは、何とかして消費者の節約志向に対応するための施策。NBは値上げ、PBは値下げという色合いが鮮明になっている。
もっとも、イオンの土谷氏は「PBも安かろう、悪かろうではいけない」と強調。「価格も価値も諦めず、商品の良さを提供していく」と話している。
昨今のコメ問題もそうだが、いち消費者として考えれば、もちろん、値下げは嬉しい。一方、日本全体で考えれば、物価上昇分を価格転嫁して、賃金上昇に繋げ、経済の好循環を図ることが理想だが、これは理想にすぎないものなのか?
消費動向に詳しい、日本総合研究所調査部主任研究員の小方尚子氏は「今は実質賃金のマイナスが続き、消費の勢いが落ちている。そうなると値下げによって需要を喚起しようとする小売業の気持ちは理解できるが、企業も従来のようなデフレ経済には懲りている」と指摘。
現状、デフレへの逆戻りは見込んでいないとしながらも、「このまま物価高が続けば、どこかのタイミングで企業の売上が伸びなくなり、背に腹は代えられないから値下げするという事態にもなりかねない。労働者の賃金に手を付けたり、農業生産者や取引先、小売業自身の利ザヤを減らすなど、無理な値下げが広がることのないよう、注視しておく必要がある」と語る。
日本再生へ今は正念場。企業の価格戦略から目が離せない。