国立成育医療研究センター(NCCHD)は10月16日、Webアンケート調査によって未就学・小学生・中学生・高校生の母親4166人から回答を集め、日本における0歳~18歳(高校3年生)の子育てにかかる費用を明らかにし、預貯金・保険を含めると2570万1956円だったと発表した。
同成果は、NCCHD 政策科学研究部の竹原健二部長、同・三澤奈菜共同研究員の研究チームによるもの。詳細は、日本公衆衛生学会が刊行する学術誌「日本公衆衛生雑誌」に掲載された。
深刻化する子育ての金銭負担増大 - その現状を見る
日本は少子高齢化の段階を超え、すでに人口減少の段階へ移行している。人口増加には、死亡者数を出生者数が上回る必要があるのは言うまでもないが、子ども家庭庁の「令和6年版こども白書」によれば、今後も少子化が進行すると予測されている。このような状況を受け、国主導で幅広い経済的支援策が子育て世帯に向けて実施されている。しかし、子育て世帯の子育て費用全般の調査は、内閣府が2009年に実施した調査以降行われておらず、経済的支援策を検討するための基礎資料が不足しているのが実情だ。
内閣府による2009年の調査では、0歳~15歳(中学3年生)の第一子の親を対象にWebアンケート調査が行われ、0歳から中学3年生までの15年間の子育て費用は1899万5250円とされた。しかしこの調査は中学生までが対象で、16歳~18歳の高校生の子育て費用は含まれていなかった。2009年以降も文部科学省や民間企業などにより、教育関連費中心の経年調査はあるものの、生活費を含む総合的かつ大規模な子育て費用のエビデンスは不足しているとする。また、子育て世帯の子育て費用を明らかにすることは、根拠に基づく政策立案の推進のためにも重要である。
そこで研究チームは今回、2024年の日本における0歳~18歳(高校3年生)の第一子の年間子育て費用と18年間の合計費用を明らかにすること、2009年から2024年の変化を明らかにすることを目的とした調査を実施したという。
今回のアンケート調査は、Web調査会社のモニター会員の中で、日本に居住する第一子が0歳から18歳(未就学・小学生・中学生・高校生)の母親を対象に、2024年11月に実施された。0歳~18歳の各年齢の母親は246~350人、合計6408人(有効回答は4166人)の回答が得られたとしている。
調査の結果、0歳~18歳の子育て費用の合計は、預貯金・保険を含むと2570万1956円(預貯金・保険を含まない場合は2172万7154円)という結果だった。各年齢の年間費用のうち、衣類、食費、生活用品などの生活費は年齢と共に一貫して増加し、常に年間費用の半分程度を占めることが確認された。
また、世帯収入ごとの子育て費用の比較では、収入によらず高校生の生活費は年間70万円~100万円程度だった。つまり、収入が低い世帯ほど収入に占める生活費の割合が大きい実態が明らかとなった。
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2024年の第一子の年間子育て費用(未就学時)。データは年齢・学年別の平均値と標準偏差(SD)を算出し、3SD外を除外して平均値が算出された(出所:NCCHDプレスリリースPDF)
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2024年の第一子の年間子育て費用(小学生時)。データは年齢・学年別の平均値と標準偏差(SD)を算出し、3SD外を除外して平均値が算出された(出所:NCCHDプレスリリースPDF)
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2024年の第一子の年間子育て費用(中学・高校生時)。データは年齢・学年別の平均値と標準偏差(SD)を算出し、3SD外を除外して平均値が算出された(出所:NCCHDプレスリリースPDF)
さらに、0歳~中学3年生の15年間の第一子の子育て費用は、1953万626円(預貯金・保険を含まない場合:1632万3898円)という結果に。内閣府による2009年の調査の1899万5250円(預貯金・保険を含まない場合:1613万3974円)と比べ、わずかに増加していることが判明した。具体的には、15歳までの生活費は増加した一方で、保育費や医療費などは減少。2024年の結果は生活費が高い一方で、医療費・保育費などは低い傾向を示す結果となった。
研究チームによれば、この2009年と2024年の子育て費用の変化には、さまざまな要因が予想されるという。生活費全般の増加要因は、全体的な物価上昇や携帯・通信費などの利用の増加が考えられるとする。また、費用が減少していた項目は、国や地方自治体による幼児教育・保育費の軽減や無償化、地方自治体の医療費助成の施策によるものと見られるとした。
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内閣府による2009年の調査結果を2024年の物価指数で補正した費用と、2024年の今回の研究の0歳~15歳(中学3年生)の15年間の子育て費用の比較。データは年齢・学年別の平均値と標準偏差(SD)を算出し、3SD外を除外して平均値を求め、カテゴリー毎の15年間の費用が算出された。総務省統計局の2020年基準の消費者物価指数)をもとに、2024年の全体の消費者物価指数で2009年のデータの各項目が補正されている(出所:NCCHDプレスリリースPDF)
今回の調査により、子育て期間中の各家庭の支出額の増加は抑えられていることが明らかになった。ただし、国や地方自治体による施策の実施により、子どもの保育・教育費や医療費の支払い者が各家庭から社会全体に変わっているため、今回の調査には含まれていない社会保険料や長期的に徴収される税金などを考慮すると、子育て費用の実質負担は増加している可能性があり、解釈には注意を要するとする。
今回の研究により、子育て世帯の実情が明らかとなった。研究チームは、このようなデータに基づき、子育て世帯への経済的な支援のあり方が検討されることが望ましいとの見解を示している。

