
「コーヒー豆の歴史的高騰の中で、経営はなんとか踏ん張っている状況。高付加価値の商品を出し、お客様に価格転嫁分の価値を感じていただく方向に持っていく」と話すのはキーコーヒー社長・柴田裕氏。コーヒー豆高騰により業界全体では増収減益のところが多い。その背景にはコーヒーの需要が一気に伸びている一方で、気候変動で産地の生態系バランスが崩れ生産量が減少し、需給ギャップが開き始めている。長年コーヒーを中心に喫茶(KISSA)文化の普及に努めてきた同社は、今後どう生き抜いていくのか。
コーヒー豆が歴史的高値
コーヒーが飲めなくなる時代が来るかもしれない─。地球温暖化、異常気象により、生態系バランスが崩れ、コーヒー豆の生産量が減っている。このままいけば市場流通の大半を占めるアラビカ種に適した栽培地域が、2050年には半減するといわれる、いわゆる〝2050年問題〟が着々と現実味を増してきた。
一方で、世界でみれば需要は急増。従来お茶文化が根付くアジア圏(人口が多い中国、インドなどが主)や、新興国などでコーヒーを飲む文化が定着していることによる。
急拡大する需要に対し生産が追い付かないという状況から、投機目的の取引で価格がさらに吊り上げられ、2025年7月の国際取引価格は過去最高を記録した。
日本国内においても、総務省統計局小売物価統計調査によれば、25年7月のコーヒー豆100gの平均価格は4年前と比較し約2倍の269円と過去最高値を記録。喫茶店で提供されるコーヒー1杯の平均価格は494・4円で、東京など都市部では約620円にものぼる。
「生活者の方には(値上げは)大変心苦しいが、価格を上げざるを得ないのは、気候変動で生産者がこれまでのように持続可能な生産ができなくなりつつあるという実態がある」と話すのは、コーヒーの製造販売大手・キーコーヒー社長の柴田裕氏。
柴田氏は、全日本コーヒー協会の会長と、非営利団体である国際的なコーヒーの研究機関・ワールドコーヒーリサーチ(WCR)のアジア人初のボードメンバーを務め、世界中のコーヒー企業トップや生産者と議論を交わしている。
先日、日本で開かれた第9回アフリカ開発会議(TICAD9)の環境省のセミナーでは2050年問題に触れ、「生物多様性を守りながら農業生産していくことが大事」とスピーチした。
同社は50年程前からインドネシアのトラジャで現地の生産者と協力しコーヒー豆の栽培から製造販売まで手掛けてきた。
コーヒーは標高が高く昼夜の寒暖差が大きい赤道を挟んだ南北25度コーヒーベルトと呼ばれる地帯で生産される。昨今の異常気象で、開花期に雨が降り続け、受粉をせずにコーヒーの実が結実しなかった。
そのため収穫の時期が大幅にずれ、商売も不安定となっている。海外輸出の4割をコーヒー豆が占めるエチオピアは、売上が立たなければ、労働者が生計を立てることも難しくなり危機感は大きい。
これまでコーヒーの生産は南半球の人々が担い、消費の多くは北半球でされてきた。コーヒー豆に関する学問的見地や研究が今までされてきておらず、生産安定化のノウハウがない。
そこで同社はコーヒーの未来部を立ち上げ、エチオピア現地に出向き、コーヒーに関する現状調査と整理を行い、体系化を行っている。今後はそれにより得たものを商品に乗せ、生活者へ訴えていく。自然災害に抗うことはできなくとも、研究開発を進めることで進行を遅らせることを目指す。
昭和の喫茶店に活気
いま昔ながらの喫茶店に変化が起きている。若い世代が昔ながらの昭和の喫茶店に足を運ぶようになってきているのだ。情緒的な価値を求め、神保町にある「さぼうる」(1955年創業)や、新橋の「ヘッケルン」(1971年創業)は連日行列。
アルコール離れした若者たちは、その分、喫茶店での飲食にお金を惜しまない傾向がある。柴田氏は次のように分析する。
「昭和生まれの人は、コーヒーは喫茶店で飲むものだった。それが平成以降の生まれの人は家で飲むものになった。若年層にとって喫茶店にコーヒーを飲みに行くというのが異空間で珍しく、インテリアやクリームソーダ、プリン・アラモードなどのメニューも含め、その雰囲気が彼らには面白く映っているのではないか。またインバウンドにも日本の喫茶文化は人気がある。若年層を通じ未来へ、そして外国人を通じて世界へ、今後さらに喫茶(KISSA)文化を広めたい」
一方で家庭用商品の値上げは、業界全体で販売数量に大きな打撃を与えている。同社の25年3月連結の売上は778億円で増収も、営業利益は前年比20・6%減の6億円だった。
家庭用商品が伸び悩む中で、同社は今年9月、家庭用商品の新たな付加価値商品としてタイパ(タイムパフォーマンス)を意識した「JetBrew」を発売した。
お湯を注ぎコーヒーバッグを振るだけで、特許技術により抽出が最短10秒でレギュラーコーヒーが入るというもの。秘密はコーヒーバッグにある。
これまでティーバッグ式コーヒーは他社でも販売されているが、バッグが沈まず抽出がうまくできないという課題があった。この課題をクリアした高付加価値型商品で市場の反応を探る。
物価高で節約志向の中でも、価値あるものにはお金を惜しまないという人々の消費動向がある。昔ながらの喫茶店は古さが価値となり活気を取り戻しているように、喫茶文化はまだまだポテンシャルを秘めている。
「今後はコーヒーに限定せず、紅茶や緑茶、ハーブティー、フードも含めた喫茶(KISSA)文化を広げていきたい」と柴田氏。
世界的な抹茶ブームにも見られるように、消費者の嗜好は多様化している。コーヒー豆の高騰、2050年問題が迫る中で、企業も店も生き抜くためには幅のある喫茶文化に進化させていくことが必須となりそうだ。