9月9日に「Think Japan 2026」を開催した日本IBM。当日のキーノートでは三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)が登壇し、AIを活用した顧客接点改革の取り組みとして、顧客体験の向上を目指して始まったプロジェクトの舞台裏を紹介した。
AIオペレーター導入の背景と実装時の課題
SMBCグループにおけるAIの取り組みは「社内活用」「業務変革」「顧客接点」の3段階で進めている。現在は第3段階となる「顧客接点」の変革に取り組んでいる。その中核となるのが、2026年4月に開始したグローバルトランザクションビジネスブランド「SMBC Connect」だ。
同ブランドでは、財務状況を可視化して意思決定を支援する法人向けデジタルサービス「CFOエージェント」、日本IBMがAI基盤の構想策定から設計、開発までを支援した「SMBC AIオペレーター」などを提供している。キーノートでは、AIオペレーターで実現した顧客接点の変革について語られた。
AIオペレーターの導入を決定した背景として、三井住友フィナンシャルグループ 専務執行役員 トランザクション・ビジネス本部担当 AIトランスフォーメーション推進部担当役員 グローバル事業部門副事業部門長の池田和也氏は以下のように話す。
「顧客体験(CX)をどのように高められるのか?という観点でスタートした。特にコールセンターにおける、お客さまの対応にはさまざまな課題が生じていた。具体的には、従来からの問い合わせに加え、個人向け総合金融サービス『Olive』の展開に伴い、問い合わせ件数の増加で従業員の対応負荷が増大した。また、サービスの拡大により問い合わせ内容が複雑化し、結果として待ち時間が発生するとともに、窓口のたらい回しなどの課題に直面していた」(池田氏)
池田氏は「顧客体験をどのように向上させるかを検討した結果、AIを活用した取り組みを進めることを決定し、IBMと協業してプロジェクトを推進した」と話す。ただ、実装に関しても課題はあったようだ。
同氏は「昨今では、コンテキスト(文脈)が多くの企業に共通する課題になっているが、プロジェクトを開始した4年前の当初から大きな課題ではあった。コンテキストの理解と、SMBCの価値基準に沿った対応をAIに実現させることは大きなチャレンジだった」と述懐する。
継続的な改善サイクルで回答品質を向上
このようなSMBCグループが理想とするAIオペレーターを実現していくため、継続的な改善サイクルを構築し、その運用を取り組みの中核に据えた。
サイクルは(1)誤回答の検知・収集→(2)原因の分析→(3)ナレッジの整備・更新→(4)回答ルールの整備→(5)ガードレールの構築→(6)品質向上と検証というものだ。
池田氏は「当社の価値基準に適合しているか否かを厳密に定義しながらサイクルを回し、単にAIの情報を蓄積するだけでなく、お客さまの発話を当社の価値基準に結びつけることが重要。また、基本対応や案内の適切さなどAIの回答品質を担保するためには、最終的に人が品質基準を定義・評価することが不可欠となる」と、サイクルを回していくことの重要性を説く。
AI完結率72%を実現、SMBCグループが描く人とAIの役割分担
こうした有人対応に劣らない応答品質により、従来コールセンターの受付時間は年末年始・ゴールデンウィークを除く9時~21時だったが、24時間365日の回答が可能となり、AIによる完結率は72.0%という効果が得られたという。利用者からも「営業時間外でも解決できた」「すぐに回答が得られた」「丁寧で具体的だった」など、好意的な声が寄せられたとのことだ。
今後の展望として、コールセンター業務に占める割合をAIオペレーター7:有人3の比率を目指している。その際、人間の役割は高度な判断や共感が必要な対応、専門性・難易度が高い対応、顧客体験を向上させる取り組みとなる一方、AIは迅速な24時間365日対応や大量の問い合わせ処理、膨大な情報の検索・整理を担わせていく考えだ。
池田氏は「現場での課題発見や深い業務理解、お客さまとの共感など人ありきの業務は重要であり、こうした価値観は普遍的なものだ。他方、AIを活用することで顧客理解が深まり、接点も拡大する。最終的にはお客さまの成長に当社がAIを活用し、パートナーとして並走する世界を目指したい」と展望を語る。
そして、AI活用の最初の一歩を踏み出すために必要なことを問われた同氏は「経営のコミットメントが不可欠。当社では2026年度からの3年間でAIに対して、1000億円の投資を計画しており、迅速な意思決定がポイントになる」と、最後に述べていた。



