オーガンテック社長CEO・前日野自動車会長・下義生が語る「商用車メーカーからバイオベンチャーのトップへ」

世のためになるものを提供したい─。これが商用車メーカーの日野自動車で40年以上のキャリアとトヨタ自動車の役員としての経験も積んできた私が今でも胸に秘めている信条です。

 トラックやバスなどの「働くクルマ」は世の中に役立つモビリティとして社会に貢献していますし、私にとって日野自動車での経験はかけがえのないものになっています。2022年の会長時にエンジン認証不正問題により辞任しましたが、それが〝第2の社会人人生〟を考えるきっかけになりました。

 経営者としてのキャリアをどう生かすか。私は社会に貢献できる事業を自動車とは異なる新しい業界に求めました。今はバイオベンチャーのオーガンテックの社長や複数のスタートアップのアドバイザーを務めています。なぜバイオベンチャーなのか。大きなきっかけとなったのはクリーク・アンド・リバー社の創業者で会長の井川幸広さんとの出会いがあったからです。

 私の信条を聞き取った井川会長からは同社の取締役に招かれた後、外食チェーンの経営を提案されました。接客は商用車のアフターサービスに通じますし、食材の調達などの物流網の構築も部品と共通しています。その後に紹介されたのが、同社が出資するオーガンテックでした。

 元理化学研究所チームリーダーでオーガンテックの創業者・辻孝先生が開発した世界初の「器官(臓器)再生医療」の実現を目指すバイオベンチャーです。辻先生から器官再生の技術を見せてもらい、超高齢社会の日本を変える可能性を感じました。

 当社の「バイオハイブリッドインプラント」という技術は従来のインプラント治療とは大きく異なります。インプラント治療が骨や歯に金属をねじ込み固定するのに対し、当社は天然の歯や抜歯した窩(隙間)に存在する「歯根膜(しこんまく)」を介してインプラントを歯槽骨と結合させます。そのため、噛んだときの知覚や細菌などの病原体が体内に侵入した際、体を守るために免疫細胞が一連の反応を起こす能力などが回復します。

 バイオハイブリッドインプラントは金属と歯や骨との間に天然由来の「歯周組織」が形成されるため、「噛む感触」や「食べる喜び」を感じることができます。完全に固定される現在のインプラント治療では得られません。高齢社会における口腔衛生の社会問題の解決にもなります。

 また、インプラント治療は技術的な難易度が高く、歯科医の6人に1人しか習熟した技能を持っていないと言われています。そのため、患者は専門のドクターがいる歯科医院まで通院したり、ドクターの都合に合わせなければなりませんでした。しかし、バイオハイブリッドインプラントでは歯を抜いて歯根膜を付与して戻すだけ。通常の技術で対応可能です。それは歯科医院の治療領域を広げることにもつながります。

 ただ、ベンチャーの共通課題の1つが資金調達。投資家やベンチャーキャピタルなどに技術の有用性を伝えようとしても、一般的な研究者だとなかなか難しい。その点、私の場合、いかに社会に役立つか、いかに事業性があるかという視点で分かりやすく伝えることができます。

 今は特定臨床研究の最中ですが、この技術は毛髪にも応用できます。男性型脱毛症をはじめとした脱毛に悩む人々の治療へと幅を広げていけるのです。

 まだ日の目を浴びていないこの技術を掘り起こし、いち早く治療法として確立させて健康寿命の延伸につなげたい。そして、世の中に役に立つものとして普及させていきたいです。

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