【政界】野党にも責任が問われる「連立拡大」を巡る政局 新総裁が直面する「歳出増と解散権封印」の圧力

首相の石破茂の退陣表明を受けて行われた自民党総裁選には、農水相の小泉進次郎ら5人が立候補した。自公政権が衆参ともに少数与党となった現実を反映し、総裁候補5人は全員、野党の政策を一部取り込む趣旨の訴えを掲げた。「自分なら政権を安定させられる」とのアピールだ。だがその先に待つのは各種の歳出増と「衆院解散権封印」の圧力だ。衆院本会議での首相選出に臨む前に、新総裁がどの程度その圧力に抵抗できるかが、政権の安定度を測る目安となる。

問われた小泉の真贋

 本稿執筆時点で新総裁に最も近いのは小泉だ。9月22日の告示日の出陣式に集まった国会議員は代理出席も含めて90人超となり、他陣営を引き離した。昨秋の総裁選で得た議員票75票を上回り、「勝ち馬」とみなした議員の参陣が相次いでいる。

 小泉の父親は言わずと知れた純一郎。2001年から5年半、政権を担った。01年総裁選では「自民党をぶっ壊す」と連呼して大勝をもぎ取った。その後も政局の主導権を握ろうとあえて党内抗争を演出し、「内閣の方針に反対する勢力は、すべて抵抗勢力だ」と獅子吼した姿は今も多くの国民に記憶されている。

 次男の小泉もまた、父のイメージを期待された。昨秋の総裁選では「聖域なき規制改革」とぶちあげて「七光り」を活用。だが9候補による討論会で論戦力の弱さを露呈して急失速した。公約でも解雇規制の緩和を主張して世間の警戒を招き、選択的夫婦別姓に賛意を示して党内右派の支持を失った。

 今回の小泉はそうした七光りを封印し、波紋を呼びそうな公約は盛り込まない「ステルス作戦」(高市陣営)に徹した。候補者演説会でも総裁選後に挙党態勢を目指すと強調した。

「この度の総裁選に求められているのは、お互いの違いを競い合うことではなく、共有しているものに目を向け、一致点を見出し、着実に実行していくことではないでしょうか」と呼びかけた。

 党本部入り口に設けられたボードに5候補が意気込みを書き込んだ際も、小泉は「異志統一」と記した。小泉は「私の造語。多様な意見を一つにまとめていく、という想い」と説明する。これまた挙党態勢を意識した選択だ。

 父親との落差の要因は、党内抗争のために獅子吼する余裕が今の自民党にはないためだ。衆参両院で少数与党に転落し、党内政局という道楽を楽しむどころではない。

 少数与党下で初めて迎えた総裁選で、5候補が訴えたのは野党との連携だった。新総裁になったとしても、首相指名選挙を確実に勝ち抜いて内閣総理大臣の座を射止められるかどうかが分からないためだ。小泉は候補者演説会で「まず、与野党で合意のあるガソリン暫定税率の廃止に取り組みます」と語った。

5候補が野党に秋波

 他の4候補も同様だった。本稿執筆時点で小泉と決選投票を争うと目されている元総務相の高市早苗は、9月24日の候補者討論会で「国民民主党がおっしゃる年収の壁の引き上げについては賛成でございます」と語った。

 出馬表明の記者会見を9月10日に真っ先に行った前幹事長・茂木敏充も連立拡大に触れた上で日本維新の会と国民民主党の名前を挙げて「しっかり話したい」と秋波を送った。

 官房長官の林芳正も「安定した政権を築く意味で、連立拡大は目指すべき方向」(23日の共同記者会見)と述べつつ、「総裁になっていない段階で党を名指ししても相手は『おととい来い』ということだろう」(24日の候補者討論会)と総裁就任後に連携を目指すとした。

 元経済安全保障担当相の小林鷹之は23日の共同会見で「最大限(連立拡大を)急ぐ」としつつ、「憲法、皇統、安全保障など基本的な考え方ができるだけ共有できる政党と最終合意する」とも述べ、「皇統」を加えて党内右派にアピールとした。

 野党は勢い込んでいる。

 維新は連立に前のめりだ。大阪都構想が頓挫し、注力していた大阪・関西万博は10月13日に閉幕。求心力のある新たな政策は、カジノを含む統合型リゾート(IR)程度だが、こちらは毀誉褒貶が既に激しい。一本足打法を回避するために参院選で掲げたのが「副首都構想」だ。

 災害リスクの高い東京の代替機能を大阪に持たせることが柱だ。大阪の地位向上が宿願の維新が譲れない一線。維新代表で大阪府知事の吉村洋文は「副首都の方向性に反対する自民党総裁と組むことは絶対にない」と明言する。

 そこで維新共同代表の藤田文武が仕掛けた策が、自身のユーチューブでの総裁候補者たちとの対談だ。維新の政策への考えを問う「値踏み」そのものだ。

「まるで小沢の面接」

 自民のベテラン秘書は「まるで小沢一郎の面接じゃねえか」とつぶやいた。1991年10月、海部俊樹の後継総裁を争う自民党総裁選の故事だ。

 当時の最大派閥・竹下派は自前候補の擁立を断念した。その支援を得るべく、宮沢喜一、渡辺美智雄、三塚博の3候補が個別に訪れたのが、竹下派の会長代行だった小沢の個人事務所だ。

 当時49歳の小沢の事務所に、3人の派閥領袖が恭しく赴く姿は、小沢の個人史にいくつかある絶頂の一つだ。秘書は「あの時は党内の豪腕政治家が相手だが、今回は党外の、しかも当時でいえば『陣笠』程度が相手。自民党も落ちたものだ」と嘆く。

 国民民主代表の玉木雄一郎も値踏みの姿勢だ。「一足飛びに連立、とは考えていない」としつつ、ガソリン暫定税率や「103万円の壁」でこれまでに自公と交わした合意の進展に期待をにじませる。23日に出演したフジテレビのネット番組では5候補について「結構共通点がある。全員、石破さんより親しい」と語った。小林以外の4人とは会食経験もあるとし、「林さんの伴奏で歌ったことがある」と披露した。

 自民党で唯一残る派閥を率いる元首相・麻生太郎は、連立拡大の相手として国民民主を本命としている。ただ連合会長の芳野友子は、不倫騒動を機に玉木に冷ややかになっている上に、連立参加には断固反対だ。国民民主は全国政党化が進んでおり、連立した場合の候補者調整も難題だ。

 自民内の大勢は維新を連立拡大の本命とみる。複数の自民党議員は「国民民主は選挙区調整が大変だし、玉木は総理職を提示しないと連立にうなずかないだろう。維新は大阪府内の選挙区を譲り、閣僚ポスト1つか、せいぜい2つ譲れば連立を組める」と語る。

 だが、昨秋の補正予算や今春の本予算の成立までの過程で見えたように、少数与党下での野党の政策実現は歳出増に直結する。新総裁の最初の仕事は首相指名選挙で、野党の一部から協力を得るか、あるいは新総裁を首相に選出することについて積極的に妨害しないよう確約を得ることだ。それは歳出圧力をどこまで受け入れるかの判断に直結する。

 裏では衆院解散に関する駆け引きも交わされる。現状、主要政党はいずれも早期の衆院解散を望んでいない。自民党は新総裁を選出したとて党勢回復どころの状態ではない。公明党も昨秋来の衆院選、東京都議選、参院選の連続で組織が疲弊しきっている。立民、維新、国民民主も、参院選で躍進した参政党が臨時国会や通常国会で醜態をさらして失速するのを待ちたいのが本音だ。

 新総裁が連立拡大や閣外協力を求める場合、裏では「当面は衆院解散はしない」との密約が結ばれるだろう。それは新首相の政権運営の自由度を狭める。

 ここに急に割り込んできたのが立憲民主党だ。

 参院選での立民は横ばいにとどまり、比例得票は国民民主と参政党に同程度の700万票あまりで並ばれ、党内には「事実上の敗北だ」との声が充満している。その後の党内も責任論の応酬に終始し、一連の政局では完全に埋没していた。

 一変したのが9月11日に一新された役員人事だ。旧執行部が「一掃」(立民中堅)され、独自人事の参院側と常任幹事会議長を除けば、留任したのは国対委員長の笠浩史のみだった。

かきまわす立民の新幹事長

 最大のポイントは新幹事長の安住淳だ。長年、「国対のプロ」として辣腕を振るい、同じ国対畑の自民幹事長・森山裕とのパイプの太さはよく知られている。

 安住は記者団への第一声で「自民党に唯一対抗できるライバル政党は我が党しかないんですよ」と語り、埋没は終わりだと宣言。与野党とのパイプをどう生かすかを問われると「30年も国会議員やったらパイプなんか太くなるんですよ。大した『売り』じゃないの、それは」と安住節を披露した。

 安住は早速動く。森山と面談し、立民が長年訴えてきた「給付付き税額控除」を巡り自公両党と立民が協議する枠組みを実現させた。高市までもが総裁選公約に盛り込んだ政策で、新総裁の下でもこの枠組みが継続するのは確実だ。野田も20日に総裁選の顔ぶれを問われた際に「我々にとっては政策実現のチャンスだ」と述べており、政局に絡む気は満々だ。

 石破と親しいベテラン議員は「少数与党の国会を乗り切れたのは、石破総理の『答弁力』があったからだ。小泉や高市では到底、そのレベルに達しないだろう。林も官房長官や大臣としての答弁は安定していたが、首相としてはどうか」と不安視する。

 翻って世界を見ると、参院選後2カ月あまり停滞する日本を置き去りに激動が続く。特に米国では保守活動家のチャーリー・カークの射殺事件を機に分断がさらに深まっている。

 大統領のトランプは言論弾圧を露骨に強化し、カーク追悼の度合いが少なかったり、分析的なコメントをしただけでテレビ番組や出演者が批判にさらされる状態だ。現代の米国が内戦に陥った状態を描いた映画『シビル・ウォー』の世界観の「前夜」とも思える状態に、民主主義陣営を構成する諸国は懸念を深める。

 内外の困難な情勢に対処して国民生活を安定させるためにも、新総裁には政策推進の態勢を整えることが急務となる。(敬称略)

【政界】石破退陣で新総裁争いは混沌 「政治空白」で遅れる政策づくり