ジーンクエストと富士通は10月9日、富士通のAIサービス「Fujitsu Kozuchi」のコア技術である因果AIを活用して、遺伝子とライフスタイルの関係性に新たな知見を得たことを発表した。
実施の背景
ゲノム科学の進展により、遺伝子と体質や行動の相関に関する報告が増えている。しかし、何が原因で何が結果なのか、どのようなメカニズムで影響が生じているのかという因果関係を深掘りすることは、多因子間の影響を考慮する必要があるため困難とされてきた。特に、食嗜好、ライフスタイル習慣、体格といった複雑な要素が絡み合う領域では、精密なデータ分析が不可欠となる。
今回の研究では、ジーンクエストが有する大規模な遺伝子データ、アンケートデータと、富士通の因果AIを組み合わせ、さらに富士通の高速因果探索機能を用いることで、これらの複雑な因果メカニズムを分析した。これにより、複雑な関係性の中にある隠れた要因やさまざまな因子間の相互作用を精緻に分析し、新たな価値創出に貢献できることを実証した。
因果AIは、高速因果探索機能、信頼性強化機能、施策提案機能から構成される。高速因果探索機能は、富士通独自の高速因果探索手法により、データ項目間の因果関係を従来技術と比較して約1000倍高速に推定可能だという。
信頼性強化機能は、手持ちのデータが少ない場合でも、既に確立された信頼性の高い因果関係(例:専門家の知見や過去の実験結果)を組み込むことで、より確かな因果関係を導き出せる技術だ。
施策提案機能は、従来の分析による因果関係の可視化に加えて、推定された因果関係に基づき最適な施策の提案までを実施する。
得られた成果
今回の研究では、同意が得られた約4000人分の遺伝子データとアンケートデータを使い、富士通の因果AIが提供する信頼性強化機能と施策提案機能を活用して、因果分析を行った。
アルコール代謝に関連する遺伝的特性と食習慣の関連性
アルコール分解能力に関連する遺伝的特性は飲酒頻度と強く関連し、ジーンクエストによる先行研究でも甘味の嗜好性やコーヒーの摂取頻度などさまざまな食習慣との関連が示されている。なお、甘味への嗜好性やコーヒー摂取頻度については、これまでも遺伝的要因の影響が示唆されている。
因果AIを用いた分析の結果、甘味への嗜好性には遺伝的なアルコールの強さも一部関連するものの、その関連は主に飲酒頻度を介したものである可能性が示されたという。また、コーヒー摂取頻度に関しては、飲酒頻度との関連は見られず、遺伝的なアルコールの強さが影響している可能性が示唆された。これは、特定の遺伝的特性が個人の飲料選択に影響を及ぼす可能性を示している。
体格に関連する遺伝的特性と食習慣・BMIの関連性
ダイエットやBMI(Body Mass Index)に関連する多数の遺伝的要因を統合した指標であるポリジェニックスコアを用いて、遺伝的な太りやすさと食習慣、BMIとの因果的関連性を分析した。
解析の結果、遺伝的な太りやすさとBMIとの間に直接的な関連性が示唆され、その統計的な影響度は性別や年齢と同程度である可能性が示された。また、脂っこい味や甘い味といった食嗜好との間にもわずかな関連性が見られたとのことだ。
特に、信頼性強化機能を活用して、京都大学と弘前大学が弘前大学COI-NEXTの岩木健康増進プロジェクトとの連携で開発した「弘前健診因果ネットワーク」を転用した分析では、より精緻な結果が得られ、これまでの分析でポリジェニックスコアに次ぐBMI変化の主要因と示唆されてきた食事量の影響が相対的に低下し、脂っこい味やうま味への嗜好性がより影響力の高い要因として示唆された。
さらに、親族の病歴(がん、高血圧症、心臓病など)や調査対象者の身長、雇用形態など、これまで分析対象外であった因子が、変数間の隠れた共通原因となっている可能性も示唆されたとのことだ。
加えて、因果AIの施策提案機能により、個人の特性を考慮した目標(例:BMIの低下、特定の食習慣の改善)達成のための具体的なアクションを、因果関係に基づいて提示できることも示唆された。