富岳での大規模シミュレーションの商業利用が可能に
Ansysは、理化学研究所(理研)の協力のもと、流体シミュレーションソフトウェア「Ansys Fluent」と衝突シミュレーションソフトウェア「Ansys LS-DYNA」を理研のスーパーコンピュータ(スパコン)「富岳」上で産業界が商用利用できるようにしたことを発表した。
従来、富岳上で動作するこれらの商用CAE製品は、主に研究目的や性能検証の一環としての利用が中心であったが、今回の大規模ノードへの最適化と商用利用できる体制整備により、富岳の特長を活用したシミュレーションが可能となり、さまざまな産業分野にわたる新製品開発などの商業利用にも本格的に大規模利用ができるようになったという。
この取り組みにより、企業は富岳の高速コンピューティング能力を活用することで、製品の安全性と信頼性を高めながら、開発サイクルの短縮を図ることができるようになるとAnsysでは説明しており、文部科学省 研究振興局 計算科学技術推進室の栗原潔 室長も「このたびの成果により、産業利用が一層拡大することで、さまざまな分野での我が国のイノベーション創出や社会的課題解決につながることを期待しています」とコメントを寄せている。
富岳で10億セルのCFDシミュレーションの実行に成功
すでにAnsysでは、今回の正式発表よりも前に川崎重工業が提供する実規模の天然ガス焚きガスタービン燃焼器モデルの大規模な数値流体力学(CFD)シミュレーションを、Ansys Fluentと富岳を組み合わせて実施。その結果、実行されたシミュレーションは10億メッシュセルの規模に達することを確認したとする。
Ansys Fluentは、高度な物理モデリング機能と高い精度を提供する流体シミュレーションソフトウェアで、最高クラスの物理モデルを備えることで、大規模で複雑なモデルを効率的かつ正確に分析できること、ならびに圧力ベースのソルバーと密度ベースのソルバーの両方をサポートしているため幅広い流れ領域に適用できるといった特長を有している。今回のプロジェクトでは、モデルが非圧縮性流体の挙動を示すと想定されたため、圧力ベースのソルバーを選択。シミュレーションで使用した燃焼モデルは、ARM64アーキテクチャに最適化されており、富岳上での安定した効率的な大規模並列計算が確認されたという。
Ansysでは今後、高性能CFDの限界を押し広げるための継続的な取り組みの一環として、富岳で20億、30億、さらに多くのメッシュセルのシミュレーションを実施する予定だとしている。
一方のマルチフィジックスソルバー であるAnsys LS-DYNAは、富岳と同じアーキテクチャを共有するArmベースの富士通スパコン「PRIMEHPC FX1000」および「FX700」をサポートする、商用化された衝撃と貫通、破壊、衝突、乗員の安全などのアプリケーションで使用される主要な陽解法シミュレーションソフトウェアで、多数の要素、接触定式化、材料モデル、その他の制御機能を使用して、短期間の極端な荷重に対する材料応答をシミュレートし、複雑なモデルの詳細な管理とシミュレーションを可能にするという。
今回のプロジェクトでは、主に富岳での商用CAE製品の性能を検証するための研究とテストに焦点が当てられたとしている。
