レアメタルの輸出規制を発動した中国の磁石大手が、重希土類の使用量を減らした新製品を、日本向け輸出品の目玉にしている。重希土類を配合した高性能磁石は、「輸出手続きに時間がかかりすぎる」とあって、規制回避策を講じざる得ないところだ。

対する日本の磁石大手もディスプロシウムなどの供給不足対策として重希土類の含有量低減をいちだんと進めている。立場が逆の両者ながら、「省レアアース」の開発テーマは奇しくも一致している。

中国レアアース禁輸が“重希土フリー”を後押し

中国は高シェアをもつランタンやセリウムなどの希土類(レアアース)を政策ツールとして活用してきた。米の高関税措置に対しては2025年4月、テルビウムやジスプロシウムなどの重希土類とその磁石製品に対して輸出管理強化措置を発効している。これによって輸出審査には最大45日間かかるうえに、取引量や顧客情報の報告も必要になった。

その後、米国など一部に対しては輸出規制を緩和したが、8月に入って採掘から製錬などに至る総量規制管理基準を公表し、規制の対象を広げている。4月以降の輸出許可率は改善傾向にあるとはいえ、保留案件は依然多いままだ。

こうした中国のレアアース政策は、中国企業にも影響を与えている。ネオジム磁石大手で年産能力3万トンの「煙台正海磁性材料」(正海磁材)は、2020〜2024年の出荷実績が電気自動車(EV)などのXEV向け1,635万台、EPS(電動パワステ)向け10,800万台、コンプレッサ向けが22,745万台と事業は順調に拡大している。売り上げの約70%はBYDやテスラなどのEVメーカー向けだ。

これからEV化が進む日本は重要な市場だが、レアアース輸出管理強化によって「手続きが煩雑になり迅速な対応が難しくなった」という。そこで輸出許可をとりやすい「重希土フリー」、「超軽希土磁石」、「省重希土磁石」をそろえてユーザーをつかもうとしている。

テルビウム、ディスプロシウム、ルテニウムなどの重希土類のネオジム磁石への配合を減らすか、またはゼロにするために、少量の重希土類で高保磁力と高温動作を可能にする「重希土類拡散技術」(THRED)を導入。また粒子を微細化して保磁力を高める「粒子微細化技術」(TOPS)も開発している。

またレアアースの一大産地・内モンゴル自治区に立地する「包頭天和磁材科技」(天和磁材)も、「重希土類は輸出申請に時間がかかる」ことから、重希土フリーのネオジム磁石を日本への輸出の目玉にしている。先日、都内で催された電池関連展示会のブース壁面には、「重希土類フリー技術 中国レアアース輸出規制回避可能」とわかりやすく赤字で記した。

カギとなるのは、希土類を粉砕する時の酸化を抑えて粒径を小さく、かつ粒度分布を最適化し、さらに独自の熱処理で流界構造も最適化することだ。磁石の部位ごとに最適濃度で3次元分布を行う「3D重希土拡散技術」によって重希土類の使用量とコストを削減できるとする。

同社はEV向けなどのネオジム磁石が売り上げのほとんどを占め、内モンゴルに年産約1万トンの生産拠点をもつ。材料から表面処理まで自社内でカバーする総合メーカーとして日本の大手ティアワンとも直取引している。

注目集める“中国発”省希土類技術の進展

このような中国企業の省レアアース技術開発は、日本のネオジム磁石業界が20年ほど前から取り組んできたものだ。2010年9月、尖閣諸島沖での中国漁船と巡視船との衝突を巡って、中国が日本に対して希土類(レアアース)の事実上の禁輸措置を発動したのを機に備蓄にも力を入れてきた。

信越化学工業は2008年以降、高騰していたディスプロシウムの使用量を低減可能な粒界拡散法を量産ラインに適用している。日立金属(現プロテリアル)は2013年、ディスプロシウムフリーも可能な技術を開発し、生産につなげていった。ネオジム磁石だけではなく、希土類フリーのボンド磁石も戸田工業が2014年に増産を決めている。

日本では、自動車や自動車部品のメーカーも重希土類フリー技術をみずから開発している。

トヨタ自動車などが参画する「高効率モーター用磁性材料技術研究組合」は、将来のエコカー向け磁石の不足を見越して、ディスプロシウムフリーかつ高性能の超ネオジム磁石開発に取り組んできた。デンソーは2022年、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)のプロジェクトに参画して世界初の組成をもつ鉄ニッケル超格子磁石を開発し、2030年代の実用化を目指している。

尖閣問題のときは日本だけを規制対象にしていた中国だが、2025年はグローバルに規制対象を広げた結果、中国磁石大手も日本と同様のテーマで研究開発を進めることになった。

ネオジム磁石は1982年、佐川眞人氏が発明し、住友特殊金属(現プロテリアル)が事業化した純国産品である。希土類・重希土類とも発掘しやすい鉱山は中国に集中していて、その加工も大きな環境リスクを伴うとあって、中国以外での事業化は難しいとされる。中国依存の構造は当分変わりそうにないが、中国発の省希土類技術がどのように進展するのか注目される。