
これまで、我が国では、核保有についての議論がタブー視されてきた。日本は世界で唯一の被爆国であり、佐藤栄作首相が表明した『持たず、作らず、持ちこませず』という非核三原則は、国民の総意ともいえるものであった。
また、被爆地である広島、長崎から発せられ続けた「平和への思い」「核のない世界」の実現に向けた活動は、昨年末に日本原水爆被害者団体協議会がノーベル平和賞を受賞するなど、世界からも高い評価を受けている。
我が国は、戦後一貫して、平和主義を貫いてきた。しかし、戦後80年が経過し、ここにきて、我が国を取り巻く環境が俄かに変化してきている。
まず、我が国は、北朝鮮、中国、ロシアと強烈な核保有国に囲まれている。そのうえ、北方領土や尖閣諸島などの領土問題も抱えている。
これまでは、小規模な地域紛争はあったとしても、本格的な戦争は、国際社会の目や経済的な不利益を考えれば、割に合わないため、起こる可能性は極めて低いだろうと考えられてきた。しかし、ロシア、中国、北朝鮮をみると、必ずしも楽観はできないといわざるを得ない。
また、これまで、我が国は日米安保条約に基づき、米国の傘に守られてきたが、米国トランプ大統領の出現により、日米安保体制も見直しを迫られるかもしれない。
もし、日米安保条約に基づいた我が国の安全保障体制が弱まるようなことがあれば、他国からの攻撃の機会にさらされるリスクが増していくのは、これまでの世界の情勢を見れば明らかだ。
とはいえ、日本国民の平和主義の精神は変わっていない。どこまでも平和を希求する国民である。その一方で、「これまでどおり、米国に依存するだけで、いざというときに、本当に大丈夫か」と心配する国民が増えていることも事実である。
トランプ大統領の関税政策により、米中が対立を深めているだけでなく、米国とEUの関係も微妙となってきている。世界の安全保障体制が揺らいでいるのだ。
加えて、世界経済の減速も懸念され始めている今日、世界の国々が、自国主義を強く打ち出した行動に出始めているという状況を踏まえれば、我が国も防衛力を高める必要があるという主張には頷ける。
そして、同時に、もう一歩踏み込んで、「日本は核をどうするのか」という議論を開始すべきときなのではなかろうか。欧州でも、ロシアの脅威に対して、フランスの保有する核の抑止力を、欧州の同盟国に拡大しようという議論が始まっている。
残念ではあるが、現状、核を保有することで、他国からの攻撃を抑えるという「核の抑止力」は、安全保障上有効なカードといえる。
現在、満94歳を過ぎている私は、14歳で終戦を迎え、空襲も経験しているし、戦争の怖さ、悲惨さも知っている。私自身も平和主義を貫き、核のない世界を実現したいと願っているし、その努力は続けるべきであると思っている。
しかし、昨今の世界情勢に加えて、台湾有事の可能性、尖閣諸島周辺で海底地質調査を行う中国、ミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮、領土的野心を捨てないロシアなど、周辺国の状況をみると、不安が否応なしに増してくる。
戦後80年、我が国も核を含めた国防の議論を始める時期にきているのではないだろうか。