IHIと、合成開口レーダー(SAR)衛星を手がけるフィンランド企業・ICEYE(アイサイ)は、最大24基のSAR衛星のコンステレーション構築に向けて協力していくことで合意。安全保障での活用などを目的としており、人工衛星の製造拠点を国内に整備することも計画しているという。

  • 署名式の様子。(左から)在日フィンランド商工会議所専務理事 アンティ・クンナス氏、フィンランド大使館武官補佐 マキ ロヒルオマ・トゥーッカ氏、ICEYE衛星販売部門担当シニアバイスプレジデント オツォ オヤネン氏、IHI常務執行役員航空・宇宙・防衛事業領域長 佐藤篤氏、防衛装備庁装備政策部国際装備課防衛装備移転戦略官 遠藤敦志氏

安全保障や公共・商業利用を目的とする地球観測衛星データを提供することを目的とした取り組み。両者は幕張メッセで開催中の防衛イベント「DSEI Japan 2025」(会期:5月21〜23日)において、覚書(MoU:Memorandum of understanding)を締結する署名式を22日に行った。

SAR衛星は、観測およびリモートセンシング用に必要な、高精度データの提供を可能とする衛星。マイクロ波レーダーパルスを使用して、天候や昼夜を問わず地球表面の高解像度画像を生成でき、気候変動の分析や船舶追跡を含む多様な用途で、信頼性が高く継続的な監視が可能となる。

IHIでは、「ICEYEはSAR衛星において高度な技術力と多くの製造実績を持ち、高機能・長寿命のSAR衛星の量産技術で世界をリードする企業」と説明。IHIがこの衛星コンステレーションの整備を主導し、光学センサーやVHFデータ交換システム(VDES、次世代自動船舶識別システム)、電波収集(RF)、赤外線(IR)、ハイパースペクトル(高い波長分解能)を含む複数種類の衛星を追加する構想。陸上や海上での作戦活動に必要な目標検出と追跡能力を提供することをめざしている。

両社はまた、SAR衛星コンステレーションを日本国内で共同運用するとともに、コンステレーションを構成する衛星の製造拠点を国内に整備することも計画。IHIではこの取り組みについて「国家安全保障とレジリエンスの強化のみならず、日本の宇宙産業をより活性化し、その発展を促進することが目的」と説明している。

昨今の地政学的な不安定性の高まりと、それによる課題に対応することが求められており、IHIは「ICEYEとのパートナーシップにより構築されるSAR衛星コンステレーションが、衛星地球観測における主権能力の強化を通じて、日本政府が目標とするスタンド・オフ防衛能力の実効性を確保することにも寄与する」とコメント。日本の国家安全保障・経済安全保障を強化するだけでなく、衛星データや撮像キャパシティの相互共有を通じて、同盟国や同志国との協力と連携を深化する上でも重要な役割を果たすことをめざす。

なお、IHIでは宇宙との連携による海上安全の向上をめざして、日本のスタートアップ企業・アークエッジ・スペースと、LocationMindと連携。VDES(VHF Data Exchange System)衛星を活用した海洋状況把握の向上技術の開発にも取り組んでいる。

IHIは2026年3月までにハイパースペクトル衛星を打ち上げ、安全保障、公共、商業顧客向けのユースケースの開発を検討していく予定だ。