帝京大学と東京科学大学は、メタボリック症候群(メタボ)では腎臓が尿酸を排泄する力が弱まり、痛風の原因となる「高尿酸血症」を合併しやすくなることを報告。また、肥満によるインスリン抵抗性の増加(環境要因)と、腎臓の尿酸トランスポーター分子の個人差(遺伝要因)の両方が関与することを突き止め、肥満と食塩の取り過ぎが尿酸値を上げることを解明したと、5月16日に共同発表した。
同成果は、帝京大 先端総合研究機構の藤井航特任助教、帝京大 医学部 内科学講座の柴田茂教授、東京科学大 総合研究院 難治疾患研究所の高地雄太教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、基礎および臨床生物医学を扱う学術誌「The Journal of Clinical Investigation」に掲載された。
血中の尿酸が増え過ぎた高尿酸血症の状態が長期間続くと、痛風や心臓病などのリスクが増加することが知られている。尿酸値の上昇には、遺伝要因(体質)と、運動不足や肥満などの環境要因(生活習慣)が関係している。また、血糖値を下げるホルモンの「インスリン」が効きにくくなる「インスリン抵抗性」の状態において、尿酸値が上昇しやすいことはわかっていたが、その詳細な仕組みは未解明だった。体質と生活習慣がどのように組み合わさって尿酸値を決めるのか、その詳細もわかっていなかった。
研究チームは今回、英国の大規模な健康調査プロジェクト「UKバイオバンク」の約37万人分の遺伝情報と健康データを用い、尿酸値とインスリン抵抗性の指標、そして食塩摂取量の関係を解析。さらに、帝京大 医学部附属病院のデータを活用し、インスリン抵抗性の程度と尿中の尿酸との関係も調査した。
約37万人分の解析からは、インスリン抵抗性が高い人や食塩摂取量が多い人ほど、尿酸値が高くなる傾向があった。また今回の研究では、基礎実験として、腎臓で尿酸を輸送するタンパク質「URAT1」が、インスリンや塩分負荷によってどのように影響を受けるのかが調べられた。その結果、URAT1の発現が多くなる遺伝型を持つ人では、インスリン抵抗性に伴う尿酸値上昇が起こりやすいことも明らかにされた(「遺伝子-環境間交互作用」)。
帝京大病院のデータを用いた解析では、インスリン抵抗性が高くなると腎臓からの尿酸の排泄が少なくなることが示され、インスリン抵抗性と高尿酸血症の関連が腎臓の働きに由来することが判明。その仕組みを解明するための基礎研究により、インスリンや食塩過剰に伴い腎臓のURAT1に化学修飾の「リン酸化」が加わり、その結果としてURAT1の機能が調節され、尿酸の排泄量が減少することが示されたという。
今回の研究により、腎臓で尿酸の再吸収を担うURAT1の機能が遺伝要因と環境要因によって調節されており、メタボなどが尿酸値を上昇させる仕組みが明らかにされた。また、同じように体重が増加した場合でも、尿酸値の上昇度合いが個人ごとに異なる理由も解明された。
遺伝要因としては、URAT1遺伝子に存在する個人差の1つである遺伝子座「rs475688」の差異が、URAT1タンパク質の量を修飾する。一方、環境要因として、肥満によって増えたインスリンが細胞内のインスリンの信号を細胞内に伝えるタンパク質である「AKT」を介してURAT1の働きを促進する。
特に、URAT1を多く生成する遺伝子タイプ(rs475688の特定の型)を持つ人が、肥満などでインスリン抵抗性を持つ場合には、遺伝と環境の効果が相乗的に働き、尿酸値がより顕著に上昇しやすい遺伝子-環境間交互作用が生じることが判明した。
今回の研究から、高尿酸血症や痛風の病態には遺伝要因と環境要因、そしてそれらの組み合わせ方によって病態への影響が変化することが明らかとなり、その予防には個人ごとの体質に合わせた生活指導や治療が重要であることが示唆された。
たとえば、URAT1の機能が強まる遺伝子型を持つ人では、体重増加と共に尿酸値も上昇しやすいことから、痛風や高尿酸血症の予防には体重管理がより重要となる。また、食塩摂取も尿酸値の上昇と関連するため、減塩も尿酸値管理に有効である可能性も示唆された。高血圧対策としての減塩は、高尿酸血症の予防にも効果的である可能性があるという。
今回の成果は、URAT1の調節メカニズムはヒトには存在するが、ラットやマウスには存在しないことから、動物の進化と共に発達してきたヒトの尿酸代謝機構であり、現代の生活習慣の変化の影響を受けやすいことを示唆しているとする。今後は、日本人を含めたより多様な集団での検証、他の遺伝子との交互作用の解析、さらにはURAT1のリン酸化を標的とした新たな治療法の開発などにつながることが期待されるとしている。