東京大学と大阪大学、クラスターメタバース研究所、ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンによる共同研究グループは、次世代AR表示技術「Beaming Display」(BD)方式対応の薄型受光系を開発。従来よりも軽く、顔の向きが変わっても映像を安定して受光できるようにしたのが特徴だという。

  • Beaming Display方式のARメガネ向け薄型受光系。離れた場所(環境側)に配置した専用プロジェクターから映像を受光し、ユーザーにAR映像を表示する

BD方式(投影・受光部分離型)は、プロジェクター技術を応用し、離れた場所(環境側)に配置した専用プロジェクターから、薄型軽量で電源もいらないARメガネにAR映像を投影するコンセプトの技術。今回、同方式のARメガネに適用できる新しい受光系に関する研究成果を公表したかたちで、3月8日から開催されるVR/ARの国際学会「IEEE VR 2025」で発表予定だという。

  • Beaming Display方式によるARメガネ(左)と、既存のARディスプレイ方式(中央・右)の違い

同方式のARメガネは、外から映像を生成して投影することで、メガネ本体を軽量化を実現できる。しかし、従来は受光できる頭部角度に制限(5度程度)があり、装着者が頭部の位置や向きを正確に合わせる必要があった。

  • Beaming Display方式によるARメガネの原理

  • Beaming Display方式のARメガネの受光系とシースルー映像

新しい受光系は、さまざまな角度から光を受光できる「回折光学系ウェーブガイド」を組み込むことで、従来よりも広い角度(約20~30度)で受光可能にし、頭部を自由に動かしながら高品質な映像を安定して受光できる仕組みを実現した。

  • 新たに提案した薄型受光系によるARメガネシステムのコンセプトとプロトタイプ。遠方から映像を投影し、ウェーブガイドによる受光系を通じて高品質なAR映像提示をめざす

研究グループは、「現在普及しているメガネ型ARデバイスは、表示素子や計算ユニット、バッテリーをすべて内蔵する設計になっており、装着感や性能向上には限界がある」と指摘。AR技術の普及には、軽量で快適な装着感や、動作時間、優れた映像品質を兼ね備える装着型デバイスが求められ、BD方式のARメガネであれば、計算処理や投影装置を環境側に分散して実現できるとする。

新しい受光系を盛り込んだBD方式のARメガネは、エンターテイメントや教育、製造業、医療といった長時間装着が必要な作業において、利便性・性能を向上させられるという。今後、さらなる装着性の向上や、頭部位置を追跡する機能の統合をめざして研究を続けるとのこと。