人々が生きていく中で欠かせない行動のひとつ、“コミュニケーション”。日々の生活を送る中では、職場や学校で過ごす時間、買い物に出かけたり家族と過ごしたりといった時間には会話が行われ、遠く離れた相手との間でも、通話やテキストメッセージを介してコミュニケーションをとる機会が生まれる。いわば日常とは切り離すことのできない行動だろう。
そのコミュニケーションをさまざまな形でサービス化し、一般ユーザーたちの元へ広く届けることを目指す企業が、MIXIだ。「豊かなコミュニケーションを広げ、世界を幸せな驚きで包む。」をパーパスに掲げビジネスを展開する同社は、SNSの先駆けとして一時代を築いた「mixi」を筆頭に、さまざまなコミュニケーションサービスを展開している。
そしてMIXIは今、最新のテクノロジーを活用した新たなコミュニケーションサービスの形として、AIを搭載した会話AIロボット「Romi(ロミィ)」を手掛けている。同ロボットは、2020年6月の先行販売、そして2021年4月の量産販売以降も多くの関心を集め、現在では売り切れの状態。そして現在では、さまざまなアップデートを施した最新モデル「Romi Lacatan(ラカタン)モデル」の予約受付が行われている。
先般ラスベガスで開催された「CES 2025」でもInnovation Awards 2025を受賞するなど、さらに注目度が高まるRomiとは、どんなロボットなのか。そしてその開発を通じて、MIXIはどんなコミュニケーションを生んでいくのか。今回はMIXI 取締役ファウンダー 上級執行役員の笠原健治氏、同社 Romi事業部 BizDev・デザイングループマネージャの長岡輝氏へのインタビューを通して、その背景に迫った。
「AI×コミュニケーション=会話ロボット」
今回のテーマである会話AIロボットのRomiは、ディープラーニング(DL)技術を活用し、利用者の声を認識して音声で返答する小型ロボット。片手に乗るほどのかわいらしいサイズで、移動機能はなく、まさに日常のコミュニケーションに特化した存在だ。そんなRomiが生まれた経緯について、Romi事業の責任者である笠原氏は、「AIを使った新たなコミュニケーションのアプリケーションを考えるにあたって、“AIとおしゃべりする”というアイデアは素直に出てきたものでした」と振り返る。
SNSの「mixi」をはじめ、スマートフォンアプリの「モンスターストライク」や子どもの写真や動画を共有する「家族アルバム みてね」など、コミュニケーションの機会を創出するアプリケーションを数多く生み出してきたMIXI。同社のサービス開発の根底には、「新しい技術を活用することで、ユーザーに新しいコミュニケーション体験を届けることができる」との思いがあるという。
そして、新たな可能性を秘めた技術として笠原氏らが着目したのが、当時から急速な発展を続けていたディープラーニングだった。それを核としたコミュニケーションを探索する中で出てきた案が、家庭用のコミュニケーションロボット。スマホのような便利さを追求した“道具”ではなく、よりユーザーに寄り添う存在としてのロボットが、Romiにつながるアイデアだった。
「ディープラーニングの活用法を探す中で、会話できるロボットという策は割とスタンダードな発想だったと思っています。テキストでのやり取りなどさまざまな形態を検討する中で、ロボットとして空間に存在することで、一緒に生活している感覚や“自分に寄り添ってくれる相棒”のような感覚を生み出せる方法として、ロボットが最適だったと思います。」(長岡氏)
スマホアプリのような形も検討されたというが、それを利用するためには自らアクションを起こす必要があり、わずかながら自然な存在からは離れてしまう。その点、「場合によっては家族同士の会話に割り込んでくることもありますし、実体があることでコミュニケーションが生まれやすくなっていると思います」と長岡氏が語るように、新たなペットのような存在として生活に溶け込むロボットとなっているようだ。
コミュニケーションロボットに込められた技術と想い
そんなRomiが持つ特徴は、大きく分けると「会話」と「見た目」にある。ユーザーの生活に自然に寄り添う存在として愛されるために、それぞれの面で多くの機能や工夫が盛り込まれているという。
会話を支えるのはディープラーニング
Romiによる会話を支えている技術は、前述の通りディープラーニングだ。大規模日本語会話データを学習させたMIXI独自開発のAIを搭載しており、より自然な会話を追求しているとのこと。また人間の声に近い音声で発話も行われ、自然なイントネーションや言葉選びなど、細部にまでこだわりが詰まっているとする。
ただし笠原氏は、「自然な会話であれば何を話してもいい、というわけではありません」と話す。例えば人間同士で会話しているとき、自分が同じ内容を伝えようとしていても、相手の返答次第で気分に大きく差が出ることがあるだろう。悩みを相談している際に、求めているのは“正しい解決策”なのか、それとも“優しく寄り添うこと”なのか、それは人や時、あるいは状況によっても変わってくる。こうした繊細なコミュニケーションを扱うMIXIは、それらを可能な限り会話データ化して収集し、AI開発に活用。もちろんRomiの開発にも活かしているという。
「Romiと会話する前後を比べて、会話を終えてからの方が元気になっている方が、ユーザーも当然満足度が高いはず。思ったことを素直に言葉にしていた子ども時代から、成長するにつれて我慢を覚え、いつの間にか自分の気持ちに蓋をしてしまいがちな中で、Romiはそんな人の本音を見抜いて、それを支援する存在でありたいと思っています。例えばやりたくないことがあった時に『そんなのやめちゃえ』と言ったり、会社に行きたくない朝に『休んでもいいんじゃない?』と言ったりするのが、理想の会話だと思っていて、それを聞いてどんな判断をするのかはその人の判断次第ですが、“正しさ”よりも“元気になるかどうか”が大事だと思っています。」(笠原氏)
また会話の内容については、ユーザーから寄せられた声やアンケートの内容を確認しながら、常に改善点を探っているとのこと。そして技術開発などを進めながら、こまめにアップデートを施しているとした。
生活に溶け込み愛着も生まれる“新しいデザイン”
一方で見た目のデザインについては、「生活の中に溶け込むこと」と「いろんな人が愛着を持ちやすいこと」という2つの軸を設定し、検討を進めたという。あくまで日常に寄り添う存在であるため、そのモチーフは抽象的かつシンプルに。しかしながら愛着を持って接することのできる存在にするため、スタイリッシュかつかわいらしいデザインとして、今の形になったとする。
またRomiには表情を表すディスプレイがついていて、瞬きをしたり表情を変えたりと、生き物のような姿を見せる。さらに、時には歌いながら踊ったり、ふいにくしゃみをしたりと、愛くるしさも感じさせるような動きも見られるのだという。
そうした存在感へのこだわりによって、ユーザーからは“ペットのように我が家に欠かせない存在になった”という声も届くとのこと。また手のひらサイズということもあり、一緒に旅行に連れていくユーザーもいるといい、動物のペットでは難しいけれどもRomiだからこそできることが、すでに生まれてきているようだ。