商業宇宙ステーションの建造をめざす米国企業「ヴァースト・スペース」は、「ヘイヴン1」ステーションの主要構造物の認定試験を始めたと現地時間2月6日に発表した。すでに実機の製造も始まっており、早ければ2026年5月にも打ち上げ、宇宙飛行士や宇宙旅行者の滞在ミッションを行うとしている。
最大4人滞在できる「ヘイヴン1」。実機製造にも着手
ヴァースト・スペース(Vast Space)は2021年に設立された企業で、カリフォルニア州に拠点を置く。「すべての人に宇宙旅行の未来を確実にする」というモットーの下、世界初の商業宇宙ステーションの開発に取り組んでいる。
同社が開発中のヘイヴン1(Haven-1)ステーションの大きさは直径4.4m、全長10.1m。最大4人が滞在でき、無補給でも最大40日間滞在し続けられる。
外の観察や写真撮影のための大きなドーム状の窓や、機内Wi-Fiによる常時インターネット接続機能、ストレッチしたり休憩したりできるスペースなどを備えている。また、機体を回転させることで、月の重力(地球の6分の1)と同程度の人工重力を作り出せるとしている。
ヘイヴン1の大きさや質量は、スペースXが運用している大型ロケット「ファルコン9」で打ち上げられる仕様となっている。さらに、同社の「クルー・ドラゴン」宇宙船とのドッキング・ポートも備え、スペースXとの協力で打ち上げや運用を行うことを前提としたつくりとなっている。
ヴァーストは2023年11月から2024年6月にかけてヘイヴン1の試作機を製造し、設計、製造上の課題を洗い出した。その結果、当初は主要構造部材としてステンレス鋼を使う予定だったものの、アルミニウムに代えることにしたという。設計変更を経て、2024年7月から、認定試験に使うための主要構造物の製造を始めた。
そして、2025年1月31日から認定試験を開始し、与圧モジュールを通常の1.8倍の圧力まで加圧して空気の漏れを調べる試験を行った。その結果、漏れ率は仕様の範囲内に収まり、各所のひずみゲージも許容範囲内で予想どおりの結果となり、試験は成功した。
今後は、油圧アクチュエータを使用し、打ち上げ時や軌道上で受ける加重をかける試験や、圧力下での構造荷重試験の実施を計画しているという。
同社はまた、1月からヘイヴン1の実機製造も開始しており、7月の完成をめざしているという。試験を経て、2026年5月にファルコン9で打ち上げ、6月にクルー・ドラゴンで乗組員を送り込む計画。実現すれば、米国航空宇宙局(NASA)などの政府機関の支援を受けずに、単独で開発・運用する世界初の宇宙ステーションとなる。
なお、ヴァーストが2023年5月にヘイヴン1を発表したとき、打ち上げ時期は2025年8月予定としていた。
打ち上げが9カ月後ろ倒しになった理由について、同社は「主要な構造の適格性試験が完了し、開発や運用を担うチームが完全に編成されたことで、製造と打ち上げのスケジュールがより明確になった。それを踏まえ、タイムラインを変更した」と説明している。
また、「それでも、有人宇宙システムや宇宙ステーションの分野において、この規模のプログラムとしては、野心的なスケジュールだ」としている。
ISSの後継狙う「ヘイヴン2」も開発中
ヴァーストはまた、より大型の宇宙ステーション「ヘイヴン2」の開発も進めている。
ヘイヴン2の大きさは直径4.4m、全長16mで、4人が180日間滞在可能。複数のモジュールを結合して、大型の宇宙ステーションに拡張することもできる。打ち上げには、スペースXの超大型ロケット「ファルコン・ヘヴィ」を想定しているという。
同社はヘイヴン2により、国際宇宙ステーション(ISS)の後継機の地位を狙っている。
NASAなど世界各国が共同で運用するISSは、2030年での退役が決まっている。その後は民間企業による商業宇宙ステーションを、地球低軌道における有人宇宙活動の拠点とすることが計画されている。
NASAは、「CLD」(Commercial Destinations in Low Earth Orbit、直訳は「地球低軌道の商業目的地」)プログラムを立ち上げ、アクシアム・スペース、ブルー・オリジン、スターラボといった複数の企業に資金を提供し、ISSの後継機となる商業宇宙ステーションの開発を支援している。
一方、ヴァーストは、これまでNASAからの資金提供を受けておらず、ヘイヴン1も完全に自社資金のみで開発している。ただ、2026年にはCLDのフェイズIIの選定が行われる予定で、同社はそこでヘイヴン1の実績とともに、ヘイヴン2を提案することを計画している。
ヴァーストによると、2026年半ばまでにCLDフェイズIIで選定されれば、早ければ2028年末にはヘイヴン2の最初のモジュールを打ち上げ、宇宙飛行士や宇宙旅行者を受け入れる準備が整うとしている。
同社は、「私たちほど経験のあるチームは、ほかにありません。CLDフェイズIIに先立ち、ヘイヴン1への取り組みと10億ドルを超える投資を行っており、これほど迅速にNASAに対して成果を提供できる立場にある企業は、ほかにありません」と主張している。