今年4月に破産した、米国の宇宙企業「ヴァージン・オービット」について、米国の宇宙ベンチャー3社に資産が売却されることがわかった。5月29日までに連邦破産裁判所が公開した文書などにより明らかになった。

ヴァージン・オービットは連邦破産法第11条(チャプター11)の適用を申請し、オークションを通じて資産の売却手続きを進めていた。

落札したのは、超小型ロケットを運用する「ロケット・ラボ」、巨大航空機と極超音速試験機を運用する「ストラトローンチ」、宇宙ステーションやロケットエンジンなどを開発している「ヴァースト(Vast Space)」の3社で、ヴァージン・オービットが保有していた航空機や施設、設備などを切り分ける形で取得されることになった。

  • ヴァージン・オービットの「ローンチャーワン」ロケット

    ヴァージン・オービットの「ローンチャーワン」ロケット。飛行機で上空から打ち上げられる、空中発射型のロケットであることが特長だった (C) Virgin Orbit/Greg Robinson

ヴァージン・オービットの破産と資産売却

ヴァージン・オービット(Virgin Orbit)は、米国カリフォルニア州に拠点を置く宇宙企業で、実業家のリチャード・ブランソン氏率いるヴァージン・グループの傘下にある。

同社は、ボーイング747を改造した「コズミック・ガール」という飛行機と、同機から空中発射するロケット「ローンチャーワン(LauncherOne)」を運用していた。空中発射ロケットは、打ち上げられる軌道の自由度が高かったり、専用の発射場がいらず、設備などを整えればどこの空港・飛行場でも運用可能であったりなど、高い柔軟性と機動性をもつと期待されていた。

ローンチャーワンは高度500kmの太陽同期軌道に300kgの打ち上げ能力をもち、近年需要が高まっている小型・超小型衛星の打ち上げビジネスへの参入を目指していた。

2020年5月の初飛行は失敗に終わるも、2021年1月には2号機にして初の成功を収め、その後は4機連続で成功し、打ち上げられた衛星数は計33機にのぼる。

しかし、かねてより資金繰りに窮しており、今年1月にローンチャーワンの6号機の打ち上げが失敗したことで、資金繰りはさらに悪化した。

その後、新たな投資を募ったものの奏功せず、3月には業務を一時停止し、ほぼすべての社員を一時解雇していた。そして日本時間4月4日(米国時間3日)、同社は連邦破産法第11条(チャプター11)の適用を申請した。

  • ローンチャーワンの打ち上げ試験の様子

    ローンチャーワンの打ち上げ試験の様子 (C) Virgin Orbit/Greg Robinson

これを受け、連邦破産裁判所の管理下で同社がもつ資産のオークションが行われ、そして米国の宇宙ベンチャーであるロケット・ラボ(Rocket Lab)とストラトローンチ(Stratolaunch)、そしてヴァースト(Vast)の3社が落札した。

ロケット・ラボはカリフォルニア州に拠点を置く宇宙企業で、ローンチャーワンと同じ規模の「エレクトロン」ロケットを運用しているほか、中型ロケット「ニュートロン」の開発も進めている。

ロケット・ラボの本社と、ヴァージン・オービットの生産拠点は同じカリフォルニア州ロングビーチの、それも目と鼻の先にあり、ロケット・ラボはその施設と工作機械や設備をリース契約で、約1612万ドルで手に入れた。

ロケット・ラボでは、この資産を生かすことで、ニュートロンの開発や生産が加速できるとしている。

なお、契約にはローンチャーワンそのものや、発射に関する施設設備などは含まないとしており、ローンチャーワンの打ち上げシステムをそのまま受け継ぐことはないとしている。

ストラトローンチもまたカリフォルニア州に拠点を置く航空宇宙企業で、巨大飛行機「ロック(Roc)」を開発、運用している。かつてはヴァージン・オービットと同じように、ロックから空中発射するロケットの開発を行っていたが、現在では主に国防総省向けに、極超音速兵器の開発や試験に使うための極超音速試験機「タロンA」とその発射システムの開発を行っている。

今回の入札でストラトローンチは、コズミック・ガールとその関連部品を1700万ドルで取得した。同社によると、コズミック・ガールはタロンAの空中発射プラットフォームとして活用するとしており、2024年からの運用開始を目指すという。ロックと併せて複数の機体を運用することで、試験能力と機会が向上し、政府と民間顧客からの需要により応えられるようになるとしている。

  • ストラトローンチによるコズミック・ガール活用案の想像図

    ストラトローンチによるコズミック・ガール活用案の想像図 (C) Stratolaunch / Delta Research Digital Products

ヴァーストもカリフォルニア州に拠点を置く宇宙企業で、2021年に創設された。創設者は、ビットコインやその送金サービスで有名となったジェド・マケーレブ(Jed McCaleb)氏で、同社のCEOも務める。

同社は、「人類を太陽系全体に拡大すること」を目指し、その第一歩として「ヘイヴン1(Haven-1)」という小型の宇宙ステーションを開発しており、早ければ2025年8月にも打ち上げるとしている。さらに回転して人工重力を発生させることができる、大型の宇宙ステーションの建造も目指している。

また、今年には2月には、ロケット開発ベンチャーの「ローンチャー(Launcher)」を買収した。ローンチャーは超小型ロケットや、小型の軌道間輸送機を開発している。

ヴァーストは、ヴァージン・オービットがカリフォルニア州モハーヴェに保有していた試験場のリース契約と、そこに置かれていた施設設備、部品などを270万ドルで落札した。用途などの詳細は明らかにされていないが、買収したローンチャーが開発していたロケットやロケットエンジンなどの開発に活用するものとみられる。

各地の「宇宙港」構想に暗雲

ヴァージン・オービットがチャプター11を申請した際、同社は「ローンチャーワンの打ち上げシステムは大きなアピール・ポイントになる」とし、会社全体を売却したうえで、事業を継続することに期待を寄せていた。

だが、実際にはそれは叶わず、同社の資産は切り売りされ、ローンチャーワンも終止符を打たれることとなった。

ヴァージン・オービットは、資産の売却が完了したあとに事業を停止するとしている。

ヴァージン・オービットをめぐっては、英国のコーンウォールが宇宙港を整備し、同地からの発射や、宇宙ビジネスの振興に期待を寄せていた。また、日本の大分県もヴァージン・オービットを誘致し、大分空港を宇宙港として活用する計画を進めてきた。

しかし、ヴァージン・オービットの破産と資産売却により、その将来は不透明なものとなった。

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    大分県はヴァージン・オービットを誘致し、大分空港を宇宙港として活用する計画を進めていた (筆者撮影)

参考文献

Rocket Lab Bolsters Neutron Rocket Program with Purchase of Virgin Orbit Long Beach California Assets | Rocket Lab
Stratolaunch Expands Fleet with Virgin Orbit's Modified Boeing 747
COMPANY UPDATE | Virgin Orbit