米国のスタートアップ企業「Vast Space(ヴァースト・スペース)」は2023年5月10日、世界初となる商業宇宙ステーション「Haven-1(ヘイブン1)」を、2025年8月以降に打ち上げる計画を発表した。

打ち上げにはスペースXの「ファルコン9」ロケットを使うほか、人や物資の輸送にも同社のロケットや宇宙船を使う。

将来的には、回転して人工重力を発生させる大型の宇宙ステーションも打ち上げるという。

  • 2025年以降に打ち上げられる予定の、Vastの商業宇宙ステーション「Haven-1」の想像図

    2025年以降に打ち上げられる予定の、Vastの商業宇宙ステーション「Haven-1」の想像図 (C) Vast Space

Vast Spaceとは?

Vast Spaceはカリフォルニア州に拠点を置く宇宙企業で、2021年に創設された。創設者は、ビットコインやその送金サービスで有名となったジェド・マケーレブ(Jed McCaleb)氏で、同社のCEOも務める。

同社は、「人類を太陽系全体に拡大すること」を目指し、回転して人工重力を発生させることができる有人宇宙ステーションを開発して、人々が無重力の悪影響を受けることなく宇宙で長期間生活したり、仕事をしたりできるようにするという目標を掲げている。

そして、その第一歩として、同社は「Haven-1」という小型の宇宙ステーションを開発している。

Haven-1は全長10.1m、直径3.8mで、質量は14t。4人が、最大30日間滞在し続けることができる。太陽電池による1000Wの電力生成や24時間の連続通信、生命維持システムなど、単独で運用するために必要な機能をすべて備えている。

さらに、観察や写真撮影のための大きなドーム状の窓や、機内Wi-Fiによる常時インターネット接続、ストレッチや休憩ができるスペースなども備えているという。

ステーションのサイズが小さいことから、完全な人工重力を生み出すことは難しいものの、月と同じ地球の6分の1程度の重力であれば生成できるという。

ステーションの大きさや質量は、スペースXが運用している大型ロケット「ファルコン9」で打ち上げ可能で、さらに同社の「クルー・ドラゴン」宇宙船とのドッキング・ポートも備えているなど、スペースXとの協力で打ち上げや運用を行うことを前提としたつくりとなっている。

そしてVastは5月10日、スペースXとの間で、ファルコン9を使ってHaven-1を打ち上げる契約を結んだと発表した。さらに、最初のクルーとなる4人の乗員・乗客をクルー・ドラゴンで運ぶ「VAST-1」ミッションの打ち上げ契約も結んだとし、さらにそれに続く有人飛行ミッションについてのオプション契約も結んだとしている。

Haven-1の打ち上げは2025年8月以降としている。VAST-1ミッションの実施時期は明らかにされていないが、参加する4人は最大30日間Haven-1ステーションにできるとしている。VAST-1ミッションの座席は販売中で、宇宙機関の宇宙飛行士や個人の宇宙旅行者からの購入を想定しているという。

この計画が実現すれば、Haven-1は世界初の商業宇宙ステーションとなり、VAST-1ミッションは世界初と商業宇宙ステーションへの飛行、滞在ミッションとなる。

マケーレブCEOは「私たちは、地球周回軌道やその先に、大型の人工重力宇宙ステーションを打ち上げるという長期的なビジョンを持っています。今回のスペースXとのパートナーシップの締結は、その第一歩となるエキサイティングなものです」と語っている。

Vastはまた、直径7mの大きさをもつ大型の宇宙ステーションも計画しており、2028年ごろをめどに、スペースXの巨大ロケット「スターシップ」を使って打ち上げたいとしている。2030年代には、そのステーションを結合させ、全長100mもの大型ステーションを建造する計画があるという。

さらに2040年代には、「2001年宇宙の旅」に出てくるような、リング状の人工重力宇宙ステーションも建造したいとしている。

  • Haven-1に接近する、スペースXの宇宙船の想像図

    Haven-1に接近する、スペースXの宇宙船の想像図 (C) Vast Space

商業宇宙ステーションをめぐる競争

民間企業による商業宇宙ステーションをめぐっては、米国を中心に競争が始まっている。

米国航空宇宙局(NASA)は、現在運用中の国際宇宙ステーション(ISS)が2030年で退役することを念頭に、その後継機となる宇宙ステーションの打ち上げや運用を、民間に委託しようという計画が進められている。地球低軌道を商業活動の場として開放し、宇宙ビジネスを振興するとともに、NASAは有人月探査計画「アルテミス」に集中することができるというメリットが期待されている。

これまでに、米ベンチャーのアクシアム・スペースが「アクシアム・ステーション」を提案しているほか、Amazon創業者のブルー・オリジンを中心とするチームは「オービタル・リーフ」というステーションを提案しており、三菱重工も参画している。

このほか、ノースロップ・グラマンや、ボイジャー・スペースとナノラックスといった企業が検討や開発を行っている。

このうちブルー・オリジン、ノースロップ・グラマン、ボイジャー・スペースの3つのチームは2021年に、NASAの商業低軌道デスティネーションズ(CLD)プログラムから資金提供を受け、商業宇宙ステーションの設計を進めている。またアクシアム・スペースも、最終的には独立して運用することを前提に、まずは国際宇宙ステーション(ISS)に結合する形でステーションを構築することで、NASAと契約を結んでいる。

一方Vastは、これらの契約に向けた入札が行われていたころにはまだ設立されていなかったため、現時点ではNASAの計画には参画していない。

しかし、NASAなどに頼らず独自に宇宙ステーションを建造する場合、あるいは今後行われる次の入札などに参加する場合でも、いずれにしても地球低軌道の宇宙ステーションという分野を民間に開放し、宇宙ビジネスの舞台にするという動き、そして米国の地球低軌道におけるプレゼンスは、より強固なものになろう。

もっとも、民間企業による宇宙ステーションや宇宙ホテルの建造計画は、これまでも「ビゲロウ・エアロスペース」など、いくつもの企業が構想を打ち出してきたが、頓挫したり計画が大幅に遅れたりし、これまでに実現したものはない。Vastも今後、資金面、技術面から計画が順調に進むかどうかは予断を許さない。

  • Haven-1の想像図

    Haven-1の想像図 (C) Vast Space

参考文献

VAST Announces the Haven-1 and VAST-1 Missions. - VAST
Roadmap - VAST
SpaceX - Updates