スペースデブリ(宇宙ゴミ)の除去を含む軌道上サービスに取り組むアストロスケールホールディングスは1月27日、2025年4月期下期における事業説明会をオンラインで実施。軌道上に存在する非協力的ターゲットの周回観測に成功した商業デブリ除去実証衛星「ADRAS-J」の成果を改めて報告するとともに、2025年4月期に売上総利益での損益分岐を見込んでいることを改めて発表した。
これからの宇宙産業に不可欠なRPO技術
世界規模で宇宙開発が急速な発展を見せる中、その持続可能な利用のために、宇宙業界全体として強固なバリューチェーンの構築が急務となっている。現時点では、宇宙機は1度作って打ち上げたらそれまで。運用終了後はもちろん、途中で故障などが発生した場合にも機体が廃棄となる、いわば“使い捨て文化”の産業となっている。しかし宇宙における循環型経済を実現するには、ロケットや衛星の再利用やリサイクル、あるいは燃料補給による長寿命化が必要であり、運用を終了した機体を軌道上から離脱させ、“ほったらかし”ではなくきちんと“処分”することも求められる。
そうしたバリューチェーンをつなぐ軌道上サービスの実現を目指すアストロスケールは、軌道上で通信が確立できず姿勢制御も行われていない非協力物体に対し、接近して捕獲するRPO技術(ランデブ・近傍運用技術)の開発・実証に成功。2021年3月に打ち上げたデブリ除去実証衛星「ELSA-d」および2024年2月に打ち上げたデブリへの接近・観測衛星「ADLAS-J」の運用において、RPO技術を宇宙空間にて実証するなど、実績を重ねている。
さらにADLAS-Jの運用では、軌道上の対象デブリをセンサで捉え、相対航法に切り替えたのちに接近し、デブリ後方約50mの位置からの定点観測にも成功。デブリの360度周回観測も実施するなど、スペースデブリの補足に向けた技術開発を着々と進めている。
アストロスケールHDの創設者でCEOを務める岡田光信氏は、説明会の冒頭で「2025年は、事業面でミッションパイプラインが着実に積み上がっていく素晴らしいスタートを切った」とコメント。そして、2023年から2033年までの11年間で市場規模がおよそ182億ドルにまで拡大すると予想される軌道上サービス市場において、「現在と同様に今後も市場のリーダーであり続けることを目指す」と話し、その長期的な目標として50%以上のシェアを目指すとした。
また、軌道上の環境悪化が深刻化し衛星運用リスクが増加する一方であることから、国際連合(国連)をはじめとする国際機関によってスペースデブリに関する取り組みや規制が推進されている現状に触れ、2030年ごろには欧米での規制の影響が顕在化し、「衛星運用終了時のデブリ化を防止するための除去を行う『End of Life(EOL)サービス』が本格的に成長することが見込まれる」と展望を語った。
長期的には営業利益率20%を目指す
そしてアストロスケールHDの松山信弘CFO(最高財務責任者)は、事業パイプラインおよび財務戦略について説明。現時点での受注残高が398億円にまで伸長し、収益性の高い受注残高である全額拠出案件の割合も堅調に増加するなど、同社の事業や全体の収益性は改善していくという見通しを明らかにした。
また、売り上げ収益と政府補助金収入を合計した「プロジェクト収益」について、2025年4月期は2年連続となる2.6倍成長を見込んでいるとのこと。さらに来期以降も、成長率は減少するものの高成長が期待されるとする。加えて売り上げ総利益については、これまでの説明に引き続き今期での損益分岐を見込んでいると発表。来期以降もその傾向を続け、大幅に利益が拡大することを期待しているとした。一方で営業損失については、今期が底打ちとなる見込みだとしており、来期以降は前年度比で大幅な改善を期待するとしている。
そして今後は、収益性確保に向け、「受注残高積み上げを通じたプロジェクト収益の増加」「マージンの改善」「販管費の成長率抑制」の3点に注力するとのこと。これにより、長期的には売上総利益率を30%台半ば、営業利益率を20%台半ばまで高めることを目指すとした。
また今回の説明会では、岡田CEOがアストロスケールHDとしての中長期目標を発表。中期目標としては、2030年までに軌道上サービスを日常的なものにすること、長期目標としては、2035年までに持続可能な宇宙開発を実現するため、循環型宇宙経済を現実のものとすることを目指すとした。こうした目標について岡田CEOは、「これらはアストロスケール社内で長く言い続けているもの」とし、今後のグローバル規模での軌道上サービスに対する需要増加に全力で対応していくとしている。