果樹害虫の一つである「オウトウショウジョウバエ」は、暗い郊外より都市の光が多い環境下のほうが繁殖に有利であることが、千葉大学の研究グループによって明らかになった。これまで一般的に「都市環境は生物の生存に悪影響を及ぼす」と言われてきたが、ある種の虫は環境に応じて生態を変えていることが明かされた形だ。害虫駆除のために光を減らすなどの工夫に応用できる可能性があるという。

オウトウショウジョウバエは都市にも郊外にも存在し、桜の木の実やサクランボ、ブルーベリー、ラズベリーなどに産卵する。10日から2週間ほどで成虫になる。千葉大学大学院理学研究院の高橋佑磨准教授(進化生態学)らの研究グループは、都市の夜間の明るさがそこに住む生物にどのような影響を与えるのかどうか、また、都市部のように急速に変化する環境において生物の進化が起きているかを調べてきた。

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    全国的に生息するオウトウショウジョウバエについて、都市で昼夜を問わず明るい場所に生息する個体と、郊外の個体の違いを調べた(千葉大学提供)

今回、東京の中心部と、それらと同じくらいの緯度に位置する千葉県房総半島の木の実からオウトウショウジョウバエの卵を採集。ハエを研究室内で育てる際、都市における夜間の人工の光と同程度の明るさの照明を付けた群と、照明を付けない群に分け、成虫にどのような特徴が生じているか観察した。

その結果、東京と千葉の両者とも、光の下で育った群の方がオスは求愛活性が減少し、メスの産卵数はおよそ2倍になった。オウトウショウジョウバエは一度の交尾で、メスは十分に産卵できるほどの精子をオスから受け取る。そのため、オスの求愛活性が低い方がメスは産卵に集中できるためにたくさんの子孫を残すことができる。実験の結果は、人工光のある環境の方が全体的な個体数を増やせることを明らかにしている。

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    照明の下で育ったオスとメスは個体数を増やすように適応していることが分かった(千葉大学提供)

高橋准教授は先行研究でオウトウショウジョウバエに夜間、光を当て続けると昼間の動きが鈍くなることを確認していた。そのため高橋准教授は「虫は都市化でストレスを感じて死んでしまうと思われがちだが、今回の結果は意外にも個体数が増えていた。種によって異なると思うが、少なくともオウトウショウジョウバエは都市に適応している」と話した。

これまでの研究で、ハエは赤い光が見えないことが分かっているため、今後は果樹園で「赤い光を用いる」ことや「民家の光や街灯が当たらないようにする」といった方法でハエの増殖を防げるのではないかという。高橋准教授は「今回は都市の光に着目したが、今後は電磁波や騒音、温度など別の要素に関しても研究したい」とした。

研究は環境研究総合推進費、住友財団、大林財団、国際科学技術財団、アサヒグループ学術振興財団の助成を受けて行った。成果は2024年12月10日に英国の科学誌「バイオロジカル ジャーナル オブ リンネアン ソサイエティ」に掲載され、同日千葉大学が発表した。

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