アルマ望遠鏡は1月10日、134億光年先で誕生したばかりの原始銀河の中で水素原子や酸素原子が放った輝線を検出して銀河の原子輝線観測の最遠方記録を更新することに成功し、その観測データを詳細に解析した結果、これまでほとんど手がかりのなかった初期宇宙における原始銀河の性質を解明し、観測した原始銀河が球状星団と非常に似ていることがわかったと発表した。
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アルマ望遠鏡の観測による、134億光年先の原始銀河GHZ2の酸素輝線の観測画像と分光データ。背景はJWSTによる銀河団Abell2744とGHZ2の画像。(c) J. Zavala et al.(出所:アルマ望遠鏡日本語Webサイト)
同成果は、国立天文台のJorge Zavala特任助教が率いる国際共同研究チームによるもの。研究成果は4本の論文としてまとめられ、1本は米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal Letters」に、もう1本は英科学誌「Nature」系の天文学術誌「Nature Astronomy」に、そして3本目・4本目は米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」(論文3本目・論文4本目)に掲載された。
ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)による観測が2022年にスタートすると、今回のターゲットである「GHZ2」(あるいはGLASS-z12)を含む、予想よりも多くの原始銀河の候補が初期宇宙において発見されるようになった。ただし、現在の銀河形成理論を検証し、銀河の初期形成過程を理解するには、そうした遠方銀河の候補を確認することに加え、その物理的な性質を解明しなければならず、それには原子や分子から放たれる特徴的な輝線を分光観測で捉える必要があった。しかし当然ながら、そのような観測を極めて暗い遠方銀河に対して行うことは容易なことではない。
そうした中で研究チームは今回、現在知られている中で最も遠方の銀河からの微弱な信号を捉えるため、ヒトの目ではまったく何もないようにしか見えない、GH22が存在する領域に対して、アルマ望遠鏡の12mアンテナ40台以上を使用した観測を行うことにしたという。また今回の観測では、JWSTによる長時間の観測も実施された。
観測の結果、これまでは観測されていなかった、130億光年以上を上回る、非常に初期の宇宙かにおいて、生まれたての原始銀河であるGHZ2の中で、水素原子や酸素原子が放った輝線を捉えることに成功。そして詳細な分析が行われた結果、GH22のような極めて遠方の原始銀河に関する、知られざる性質が少しずつ明らかになってきたとする。
アルマ望遠鏡が今回の観測においてGH22の中から2回検出したのが、電離した酸素原子が放った輝線(静止系88μm)だ。その赤方偏移の値がz=12.333であることが確認された。これは、GH22が、宇宙の年齢が現在のたったの3%、ビッグバンから4億年しか経っていない初期宇宙に存在していたということを示す。つまり、この原始銀河がこれまでで最も遠い134億光年先にあることを確かめたことになり、現在知られている中では最も遠い銀河から放たれた原子輝線の記録となった。
また、JWSTの2つの観測装置「NIRSpec」(近赤外線分光器)と「MIRI」(中間赤外線装置)による複数の輝線の検出により、GH22の星形成活動がこれまでに知られていた他の遠方銀河に比べて、特に激しいことも突き止められた。さらに、その金属量(天文学では、星の核融合で作られる炭素以降の元素を金属、もしくは重元素といい、その相対量)が、他の銀河に比べて極端に低く、太陽近傍の1/10にも満たないことも突き止められた。そして、GH22の中には普通の銀河にはあまり存在しないような若くて重くて熱い星が多いことも解明された。
アルマ望遠鏡の観測からこの銀河の質量は太陽の数億倍であり、さらに驚くべきことにその質量の大半が100pc(約326光年)という狭い領域に密集しており、まるで天の川銀河を取り囲む球状星団のようであることがわかったという。金属量、星形成活動、星密度の性質を併せて考えると、GHZ2はこれまで数十年間、その形成過程が謎だった球状星団の祖先である可能性が高くなってきたとする。
球状星団はその年齢が古いことは知られているが、もしかしたら天の川銀河の周囲に存在する球状星団も、極めて初期の宇宙で誕生した原始銀河なのかもしれない。アルマ望遠鏡とJWSTを組み合わせる観測手法によって、初期宇宙の原始銀河の研究において、また新たな道が切り開かれたとしている。