2024年4月から建設業における労働時間の上限規制が本格的に適用されるなか、深刻化する人手不足問題に対して建設業界はどのように対応していくべきか。

12月4日に開催されたウェビナー「TECH+セミナー 建設DX 2024 Dec. 建設業のいまとあるべき姿」において、建設ITジャーナリストの家入龍太氏が、建設業のオートメーション化戦略について講演を行った。

建設DXが欠かせない背景

日本の生産年齢人口(15~64歳)は1990年代半ばをピークに減少を続けており、2020年から2040年までのあいだにさらに約2割減少すると予測されている。一方で、社会インフラの老朽化は着実に進行しており、2040年には道路橋の約75%が建設後50年以上経過する見込みだ。このような状況下で、建設業界は少ない人数でより多くの仕事をこなさなければならない。

これまでの建設業は人手に依存する部分が大きく、現場には多くの作業員が集まり、手作業で物をつくり上げてきた。しかし、この従来型の手法では今後の課題に対応できない。そこで注目されているのが、建設業務のオートメーション化である。

国土交通省は2024年、「i-Construction2.0」を発表した。これは2040年度までに建設現場のオートメーション化の実現を目指す施策で、以下の3つの柱からなる。

  • 施工のオートメーション化:建設機械の無人化・自動化
  • データ連携のオートメーション化(デジタル化・ペーパーレス化):BIMなどのデータを一貫して活用
  • 施工管理のオートメーション化(リモート化・オフサイト化):現場データの自動取得とリモート化

具体的なオートメーション化の事例

施工のオートメーション化

施工のオートメーション化において、現場で実際に導入が進んでいる例として、家入氏はまず自走式墨出しロボットを挙げた。家入氏によると、現在3社ほどから製品が提供されており、レンタルや購入して使用できるという。このロボットは、トータルステーションと連携して動き、設備や内装の取り付け位置を自動的に床面に描画。「内装業者や設備業者の工程で時短が図られる」と同氏は説明する。

鉄筋工の作業を支援する全自動鉄筋結束ロボット「トモロボ」も注目を集めている。橋の床版や工場の床など、鉄筋が縦横に並ぶ現場で活躍するものだ。

「人間が行うと中腰での作業が続く重労働ですが、このロボットはレール上を移動しながら自動的に鉄筋の交差部を見つけて結束していきます」(家入氏)

さらに革新的な例として、4足歩行ロボットの活用が挙げられる。3Dレーザースキャナーや360度カメラを搭載し、測量や写真撮影を行う。家入氏によれば、「階段や段差を平気で乗り越えられるため、従来のタイヤ式ロボットと比べて現場での機動力が格段に高い」という特長がある。

大規模工事でのオートメーション化も着実に進んでいる。清水建設がダムのコンクリート打設を完全自動化した事例では、クレーンケーブルによるコンクリートバケットの運搬を自動化。従来はオペレーターが常時レバー操作で誘導していた作業が無人化された。

また、鹿島建設は成瀬ダムで材料搬送の完全自動化を実現。さらに注目すべきは、現場から約400km離れた場所からの遠隔操作を可能にした点だ。

「建設土木の無人化技術、遠隔化技術が実用化段階に入っています」(家入氏)

型枠なしでコンクリート構造物をつくる3Dプリンター技術も実用段階に入っている。「Polyuse」という日本の3Dプリンターメーカーの例では、モルタル状の材料を1cm程度の厚さで積層していき、型枠なしで構造物をつくり上げる。「型枠を作る手間、養生する手間、型枠を解体する手間が省け、従来工法と比べて3割程度の工期削減が実現できた」と家入氏は説明した。

データ連携のオートメーション化

データ連携のオートメーション化では、クラウドとタブレットを活用した施工管理システムが普及している。「ANDPAD」や「SPIDERPLUS」などの製品が各社から提供され、現場での写真撮影や野帳へのメモなどのアナログ作業を、タブレット上での直接入力に置き換えることで、大幅な効率化を実現している。家入氏は「これまで夜の残業でやっていた仕事を、現場での待ち時間などの隙間時間で終わらせることができ、1時間から1時間半の時短が簡単に実現する」と指摘する。

鉄筋検査の効率化も進んでいる。清水建設とシャープが共同開発したシステム「写らく」では、3Dカメラで撮影した画像から鉄筋を自動認識し、径や間隔を測定して報告書まで自動作成する。「これまで数人がかりだった検査作業を1人で行えるようになり、検査時間は4分の1に、生産性は10倍以上向上する見込み」(家入氏)だという。

施工管理のオートメーション化

施工管理のオートメーション化の具体例としては、大和ハウス工業の取り組みが注目を集める。同社は全国の複数の建設現場の施工管理を1カ所で集約して行う「スマートコントロールセンター」を全国10カ所に設置。各現場に設置されたカメラからの映像をモニターで確認しながら、進捗管理レポートの作成などを現場に行くことなく集中的に実施している。

「これまで現場監督が個別に行っていた管理業務を集約することで、大幅な効率化が実現できます」(家入氏)

国土交通省が推進する遠隔臨場も、施工管理のオートメーション化の重要な取り組みだ。現場の作業員がスマートフォンで実況中継しながらオンライン会議を行い、発注者がデスクに座ったまま「ここの寸法を測ってください」「もう少し細部を映してください」といった指示を出せる。同氏によれば「移動時間の大幅な削減につながることから、発注者からの評価も高い」という。

「戦略・戦術・管理」の三位一体のアプローチでオートメーション化を実現

しかし、こうした技術の導入だけでは2024年問題の解決には不十分だと家入氏は警鐘を鳴らす。「ITが好きな人や得意な人以外も含めて、全員がITの効果を享受しながら、『できるだけ早く帰る』ということを実践していく必要がある」という指摘は、技術導入における重要な課題を示唆している。

特に注目すべきは、従来業務の完全な置き換えの重要性だ。家入氏は「図面管理をクラウドとタブレットに移行しても、IT操作に不慣れな関係者から紙での提供を求められれば、結果として従来の紙ベースの作業が並存してしまう」と指摘。新旧の手法が並存することで、かえって業務が増えてしまう事態を避けるためにも、新しい仕組みの徹底した運用が不可欠だと続けた。

同氏は、建設業界のオートメーション化を成功させるためには、3つの段階的なアプローチが不可欠だと説く。まず「戦略」として、長時間労働を是とする従来の意識や評価制度を改革すること。次に「戦術」として、施工、データ連携、施工管理それぞれの分野で効果的なオートメーションソリューションを導入すること。そして「管理」として、実際の労働時間の削減や従来業務の廃止が実現できているかを確認することである。家入氏が提唱するこの「戦略・戦術・管理」の三位一体のアプローチは、技術革新と働き方改革を同時に進めるうえでの重要な指針となるだろう。

「長時間労働が当たり前」という意識を改め、「定時で帰った方が偉い」という価値観への転換を実現できるか。建設業の未来は、このパラダイムシフトにかかっていると言える。