TrendForceによると現在、8インチベースのSiCパワー半導体を供給できているのはWolfspeedのモホークバレー工場のみだが、すでに十数社が8インチベースのSiCパワー半導体工場を建設中あるいは建設計画を打ち出しており、2025年以降、徐々に8インチSiCパワー半導体の供給が増加していく見込みだという。
すでに8インチ対応SiC工場の建設計画を発表している主な半導体企業は、STMicroelectronics、onsemi、Infineon Technologies、Wolfspeed、BOSCH、富士電機、三菱電機、ローム、台Vanguard International Semiconductor(VIS)、EPISIL、中Silan Microelectronics、中UNT、韓EYEQ Labなどで、これらの多くが上流のSiCウェハやエピタキシャル分野にも注力しているという。
STMicroelectronics
STは2024年5月31日、イタリアのカターニアに8インチSiC工場を建設することを発表した。新工場は2026年に生産より開始、2033年までにフル稼働を予定しており、最大生産能力は1万5000枚/週、総投資額は約50億ユーロと推定されている。また同社は中国の三安光電と共同で中国重慶に8インチSiCパワー半導体工場を建設。2025年第4四半期より生産を開始する予定のこの工場は、STとしては3番目のSiC生産拠点となる見込みで、2028年までにフル稼働する予定だという。
onsemi
onsemiは韓国富川のSiCウェハ工場の拡張を2023年に実施。技術検証を終えたのち、2025年までに8インチでの生産に移行する予定で、それにより生産能力は従来の10倍に拡大されるという。
EYEQ Lab
2018年創業のベンチャーであるEYEQだが、2024年6月に韓国プサンに8インチSiCパワー半導体専用工場の建設開始している。同工場は2025年下半期からの稼働を予定している。
Infineon
Infineonは2024年8月8日、マレーシア・クリムに建設を進めていた8インチSiCパワー半導体工場の第1フェーズが稼働を開始、2025年までに大規模生産を開始する予定であると発表した。
Wolfspeed
Wolfspeedは、2022年4月に米ニューヨーク州モホークバレーに世界初かつ最大となる8インチSiC工場を開設。2024年6月時点で、同工場は20%の稼働率を達成しているという。また、2023年1月には同社と欧州の自動車部品サプライヤであるZFは、独ザールラント州に世界最大かつ最先端の8インチSiCデバイス製造工場を建設する計画を発表したが、現在、このプロジェクトは延期されており、早くても2025年に開始される予定となっている。
ローム
ロームは福岡県筑後市に6インチSiC工場を建設し、2022年より量産を開始しているが2025年までに8インチでの生産に移行する予定としている。また2023年7月には、宮崎県の第2工場にて2024年末までに8インチSiCウェハを用いたパワー半導体の生産を開始する計画を発表している。
BOSCH
BOSCHは独ロイトリンゲンにSiC工場を有しておrい、2021年より6インチでの生産を開始。現在、同工場では8インチSiCウェハでの生産も開始している。また、米ローズビル工場でも2026年までに8インチSiCウェハを用いた生産を開始する予定としている。
三菱電機
三菱電機は2024年5月、熊本県で進めている8インチSiC工場を2025年9月に完成させ、生産開始時期を2026年4月から2025年11月に前倒しすると発表している。
富士電機
富士電機は2024年1月、今後3年間(2024年度~2026年度)で2000億円を投資してSiCパワー半導体の生産にあたることを発表した。これには、2027年に生産開始を予定している松本工場での8インチSiCデバイス生産能力が含まれている。
UNT
UNTは、中国紹興市越城区に8インチSiC MOSFETウエハ生産ラインの建設を進めており、2024年4月にはエンジニアリングバッチを完了。2025年には量産を開始する予定としている。
Silan Microelecronics
Silanは2024年6月18日、総投資額120億人民元で中国初となる8インチSiCパワー半導体製造ライン構築を厦門にて開始した。
同プロジェクトは2期に分けられており、年間生産能力は8インチSiCパワー半導体72万個としている。第1期の投資額は70億人民元で、2025年第3四半期末までに初期投資を完了、第4四半期より試作生産を開始し、年間生産量2万枚(8インチベース)を目指すとしている。また第2期の投資額は約50億人民元を予定しているという。
VIS/EPISIL
VISは2024年9月10日、24億8000万NTドルを投じてEPISILの株式13%を取得する計画を発表しており、提携に基づき、両社は8インチSiCウェハ技術の開発と生産で協力し、2026年後半から量産を開始する予定としている。
タイでもSiC工場が建設へ
タイの合弁会社FT1 Corporationが、韓国の半導体メーカーから移転された技術を活用する形で、タイ初となる6/8インチSiCパワー半導体工場建設に向けて115億バーツ(3億5000万ドル)を投資しているという。同工場は、自動車、データセンター、エネルギーストレージ市場での需要の高まりへの対応に向け、2027年第1四半期に生産を開始する予定である。
SiCウェハ価格は供給過剰で6インチに続き8インチも下落傾向
世界規模での生産能力の増強により、パワー半導体製造に向けた6インチSiCウェハの供給過剰が生じ、価格が下落していると、台湾で中国時報・工商時報などを発行する中時新聞網が伝えている。
また、8インチSiCウェハについても同様の傾向が見え始めているという。上流のウェハ価格の下落は下流のパワー半導体メーカーやその顧客に恩恵をもたらすはずであるが、購入側は価格が引き続き下落すると予想しているため、購入をためらっており、こうした動きが価格のさらなる下落につながっているという。
一連の報道によると、2024年半ばまでに、6インチSiCウェハ1枚あたりの価格は500ドル未満(中国での製造コストとほぼ同じ)になったが、第4四半期までに価格は400ドル、あるいはそれ以下にまで下がる可能性があるという。
業界関係者によると、価格の暴落によってほとんどのSiCウェハメーカーは損失を出しながら販売する必要が生じていると指摘しているほか、価格のさらなる下落を期待する市場の動きから、販売に苦心する状況に陥っているともしている。
また、8インチSiCウェハについては、まだ多くが量産化には至っていないものの、2024年には中国を中心に価格下落が進むことが予測されるという。こちらも報道によれば、8インチSiCウェハの多くが現在試作段階であり、供給量も限られているため、標準価格は未だ存在しないものの、2023年末の時点で、中国における8インチSiCウェハの平均見積価格は1枚あたり約3000~4000ドルであったものが、2024年第2四半期までに2000ドルにまで下落したという。さらに直近の市場価格は1500ドル前後まで下落しており、2025年第1四半期までに1000ドルまで下がると予測されている。
なお、8インチSiCパワーデバイスの量産進捗状況については、Wolfspeedが依然として優位に立っており、現在、その稼働率は25%となっているというが、同社の株価は電気自動車(EV)の需要減速に伴って年初から60%以上下落しているという。
ただし同社は、米国商務省のCHIPSおよび科学法(CHIPS法)から7億5000万ドルを受け取る予定のほか、アポロ・グローバル・マネジメント、バウポスト・グループ、フィデリティ・マネジメント&リサーチ・カンパニー、キャピタル・グループからも7億5000万ドルの資金を調達しており、これらの資金を活用して8インチSiCウェハで世界トップを独走する体制を整えようとしている。