ispaceは9月12日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)筑波宇宙センターにおいて、「RESILIENCE」(レジリエンス)ランダーをプレスに公開した。これは、同社の月面探査プログラム「HAKUTO-R」ミッション2で使用する機体。打ち上げ時期については従来「2024年冬」とされていたが、今回、最速で2024年12月に実施する予定であることが明らかになった。

  • 公開された「RESILIENCE」ランダーのフライトモデル

    公開された「RESILIENCE」ランダーのフライトモデル。左は代表取締役CEOの袴田武史氏、右はCTOの氏家亮氏

参考:ispaceが「HAKUTO-R」ミッション2の月面ランダーを公開 - 最速で年内打ち上げへ

RESILIENCEのフライトモデルをチェック!

ispaceは2023年4月26日に、同社初のミッションで月面への降下を開始。月面まであともう少しというところまで到達したものの、高度推定にミスがあり、着陸に失敗していた。今回は、同社にとって2回目の挑戦。成功すれば日本としては2例目、日本の民間としては初の月面着陸となる。

参考:ispaceの月面着陸失敗、理由はクレーター地形の影響でプログラムが誤動作か

使用するランダーは前回と同型で、外観もほぼ同じ。前回の失敗はソフトウェア側の問題で、ハードウェアは正常に機能していたことから、ハードウェアには大きな変更は無い。ソフトウェアについても、基本的にはそれほど変わらず、今回の着陸地点にあわせ、パラメータを変更したそうだ。

  • ランダーのまわりをぐるっと1周
  • ランダーのまわりをぐるっと1周
  • ランダーのまわりをぐるっと1周
  • ランダーのまわりをぐるっと1周
  • ランダーのまわりをぐるっと1周。着陸脚は撮影用に、2本が展開時、2本が格納時の状態になっていた

今回、ミッション2の着陸地点も初めて発表。Mare Frigoris(氷の海)の中央付近、北緯60.5°、西経4.6°の地点を目指すことが明らかにされた。前回もMare Frigorisだったが、北緯47.5°、東経44.4°だったので、それよりはだいぶ北西側となる。

  • 右下がミッション1、左上がミッション2の着陸地点

    右下がミッション1、左上がミッション2の着陸地点だ

前回の着陸地点は大きなクレーターの内側だったが、失敗を引き起こした要因は、この特殊な地形だった。外縁部の急斜面の上空を通過すると、レーザーレンジファインダ(LRF)で計測した高度は急に変化するが、搭載コンピュータはこれを誤作動と判断。本来、事前のシミュレーションで発見できたミスだったが、着陸地点の変更後に十分な検証時間が取れず、見逃していた。

  • 右の黒い箱が距離を計測するLRF

    右の黒い箱が距離を計測するLRFで、2ユニットを搭載。左は速度を計測するレーダーベロシメーターで、こちらは3ユニットある

今回は、その反省を活かした。より慎重に、安全に着陸できる平坦な場所を選定。飛行経路も考慮し、前回のような大きな高度変化もなく、挑戦しやすい場所だという。

  • LROC QuickMapで、着陸地点の地形を比較してみた
  • LROC QuickMapで、着陸地点の地形を比較してみた
  • LROC QuickMapで、着陸地点の地形を比較してみた。同じ100m間隔の等高線だが、上のミッション1に比べると、下のミッション2は、かなり平坦であることが分かる。 確認はこちらからどうぞ

打ち上げ後のタイムラインも、ミッション1と同等となる。今回も、推進剤を節約できる軌道で月に向かうため、着陸まで4~5カ月ほどかかる見込みだ。前回は、2022年12月11日の打ち上げで、2023年4月26日の着陸実施だったので、今回も同様と考えると、月面着陸は早くて2025年4月あたりになりそうだ。

  • 今回は、ランダーの下に潜って、スラスタも見ることができた

    今回は、ランダーの下に潜って、スラスタも見ることができた。中央が400Nのメインスラスタ、その周囲に200Nの補助スラスタが6基ある

追跡管制は、基本的に前回と同じく欧州宇宙機関(ESA)の地上局を使うが、今回は、JAXAの地上局も追加で使用できるようになった。ESAのみだと通信できない時間帯が生じるが、JAXAも利用することで、これを補うことができるという。

月面でのミッション期間は最長2週間。ランダーに越夜の能力はないため、月面における朝方に着陸し、太陽電池で発電できる昼間のみ活動する。日本初の月面着陸に成功した「SLIM」は、越夜の機能はなかったものの、これに成功していた。RESILIENCEも試す可能性はあるが、追加で地上局を使う費用が別途かかることもあり、未定とのこと。

  • ランダーの上部

    ランダーの上部には、カメラ、アンテナ、一部のペイロードなどが搭載されている

ランダーはすでに熱真空試験や振動試験を完了しており、現在、全機能の最終点検を行っているところ。打ち上げの1カ月~1カ月半前くらいに、米国フロリダ州ケープカナベラルの射場へ輸送され、ファルコン9ロケットで打ち上げられる予定だ。