スペースワンは8月25日、「カイロス」ロケットに関する記者説明会を開催し、初号機と2号機についての最新情報を明らかにした。2024年3月13日に打ち上げた初号機は、点火から約5秒で爆発し、失敗。その後の調査によってこの原因が明らかになり、対策を施したことで、2号機の打ち上げが可能と判断、12月に実施する予定だという。
カイロスは、高さ約18m、重量約23トンの小型固体ロケット。固体の3段と、軌道調整用のPBS(液体推進系キックステージ)という機体構成で、初号機には政府の「短期打上型小型衛星」を搭載、日本初の民間ロケットによる軌道投入に挑戦していた。
失敗当日の記者会見では、機体に搭載した自律飛行安全システムが作動した可能性が高い、ということのみ分かっており、それがなぜ作動したのかという、詳細は一切不明だった。同社はその後、宇宙航空研究開発機構(JAXA)など外部有識者も交えた原因究明作業を実施し、これを特定した。
自律飛行安全システムは、飛行中のロケットが位置・速度・機器の状態などを監視し、正常かどうか自分自身で判断するもの。従来は、地上側で確認して異常時に指令破壊コマンドを送るのが一般的だったが、カイロスは機体側で判断することが大きな特徴。カイロスは日本で初めて、これを搭載したロケットだった。
今回判明したのは、第1段の推力が予測よりも低く、その結果として機体の速度が不足したため、自律飛行安全システムが作動したということ。
なぜ推力に、予測と実際で誤差が生じたのか。これには、カイロスが固体ロケットであることが大きく関係している。液体ロケットは製造してから、燃焼試験を行って性能を確認し、機体に搭載することができる。つまり、実際に一度使ってみて、期待通りの性能が出るエンジンであることが分かっているわけだ。
一方、固体ロケットの場合は、一度点火してしまうと、ケース内の推進剤を全て燃やすまで止まらない。固体ロケットはケース内にドロドロの推進剤を入れ、それを固化して使うが、その作業工程の違いが、性能に影響する。性能を確認したいが、そのために点火すると、確認すべきモノ自体が無くなってしまう、というジレンマがある。
ただ、飛行計画を立てるときに、ロケットの推力がどのくらいかというデータは必要だ。そのために、推進剤を作るときに少量のサンプルを確保しておき、それを燃焼させた速度のデータから、推力を予測していた。しかし、今回はこの計測プロセスに問題があったため、推力が実際よりも高めに予測されてしまっていたという。
実際よりも高い推力が出るものとして飛行計画が立てられていたため、初号機の飛行では予測よりも速度が数%程度遅くなってしまい、正常な範囲を逸脱、自律飛行安全システムが作動した、というわけだ。なお今回、問題があったのは予測のプロセス側であって、推進剤そのものには問題は無かったと見られている。
ただ、1つ気になったのは、第1段の地上燃焼試験で、なぜこの問題を見つけられなかったのか、ということだ。これについて、同社の遠藤守取締役は、地上燃焼試験のときは、予測と実際に有意な差が出なかったと説明。今回明らかになったプロセスの問題は生じる誤差に差異があり、正常に予測値を出す場合もある、ということのようだ。
この推力が予測より低かった問題に加え、同社は、飛行の正常範囲が厳しめに設定されていたことも問題と指摘。国内で初めて自律飛行安全システムを適用したため、慎重になったという背景があったとした。ただ、これを緩くしていたとしても、予測した推力が出なかったことは変わらず、打ち上げに成功したかどうかはなんとも言えない。
こうした原因究明の結果を受け、同社は対策を決定。推力を予測するプロセスを改善するとともに、十分な安全性を確保した上で飛行正常範囲を見直すことにした。これにより、同社は2号機の打ち上げを可能と判断。12月の打ち上げに向け、準備を進めているという。1~3段の製造はすでに完了しており、射場であるスペースポート紀伊に搬入済みだ。
2号機には、50kg級衛星を1機、3Uサイズ(10cm×10cm×30cm)のキューブサットを4機の合計5機を搭載。高度500kmの太陽同期軌道(SSO)へ打ち上げ、搭載した5機の衛星を、5秒間隔で分離する計画だ。なお企業名については今回明らかにされなかったが、初号機と違い、2号機には政府衛星は搭載されていないということだ。