2023年6月14日~16日、ネットワークテクノロジーのイベント「Interop Tokyo 2023」(Interop)が千葉県の幕張メッセで開催された。最新のネットワーク機器やプロトコルのInteroperability(相互接続性)を検証する場として始まった同イベントでは、例年、さまざまな企業・団体がネットワーク機器や関連技術を出展する展示会や展示会とカンファレンス、会場内にインターネットを構築する「ShowNet」を実施している。

出展企業などのコントリビュータから提供を受けた機器・ソフトウェアを用いて、展示ブースの出展者にインターネット接続環境を提供する「ShowNet」は、例年注目される取り組みだ。今回のShowNetでは、対外接続(External)ネットワークにおいてOpen APN(Open All-Photonics Network)が構築された。

APNは、NTTが推進するIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想を支えるインフラとされ、ネットワークから端末まですべてに光ベースの技術を用いて構築する新たなネットワークのことだ。IOWNでは、電子技術を用いて整備されてきたすべての通信ネットワークの光(フォトニクス)化を目標としている。これが実現することにより、光信号のままでデータの伝送や通信の交換処理が行えるため、より高速かつ低遅延なネットワークが実現できるとされている。

また、NTTはAPNについて、マルチベンダで構築するオープンアーキテクチャを採用するOpen APNを基本コンセプトとしている。今回のShowNetでも、複数ベンダーがAPN構築のために光伝送に対応した機器を提供した。

NECはそのうちの1社で、オープン仕様の光伝送装置「SpectralWave WXシリーズ」を提供した。同機器の調整や運用を担当した同社のエンジニアに、マルチベンダー接続の実際や、今後のオープン化がIT業界に与える影響などを聞いた。

  • ShowNetの対外接続(External)ネットワーク図

    ShowNetの対外接続(External)ネットワーク図

商用展開に向けて接続検証やデバイスの光対応が必要

ShowNetに構築されたOpen APNには、NECと、シスコシステムズ、シエナコミュニケーションズが提供したオープン仕様の光伝送装置が用いられた。広帯域・低遅延な同ネットワークは、NTT展示ブースにおける動く物体を掴むロボットアームの遠隔操作や、遠隔地のプレーヤーと行うバーチャル卓球などのデモに利用された。

APNに接続する会場内のバックボーンネットワークについて、NECは2箇所に伝送用途のSpectralWave WX シリーズをコントリビューションした。1つはExternal部分、もう1つはバックボーン部分だ。

APNを体験できる映像比較などの一部のデモンストレーション用途の通信は、External部分の光増幅器と光合分波器に集約されてからOpenAPNを通り、同社の我孫子事業場に新設された「NEC CONNECT Lab with IOWN」と接続した。もう1つの伝送は「NECリング」として会場内バックボーンネットワーク用に伝送網を構築し、ShowNetバックボーンを経由するInterop出展社のインターネット接続や、4K・8K映像伝送などの大容量・低遅延デモのトラフィックを伝送した。

  • 「Interop Tokyo 2023」のShowNetにおけるExternal部の接続イメージ

    「Interop Tokyo 2023」のShowNetにおけるExternal部の接続イメージ

NEC ネットワークソリューション事業部門 トランスポートネットワーク統括部 主任の泉智文氏は、「今回のOpen APNの取り組みでは、主信号を商用のダークファイバを用いて導通して安定運用するのが目的だった。ダークファイバかつマルチベンダーという条件下で、短期間で400Gbpsを含む複数波長の伝送を実現しなければならないのはチャレンジだったが、トラブルなく繋がり、安定運用できた」と今回のAPN構築を振り返った。

  • NEC ネットワークソリューション事業部門 トランスポートネットワーク統括部 主任 泉智文氏

    NEC ネットワークソリューション事業部門 トランスポートネットワーク統括部 主任 泉智文氏

これまで、通信基地局やバックボーンネットワークなどのインフラはベンダースペシフィックな領域であり、トランスポンダなどの光伝送機器にはベンダー独自のチューニングが施されて設置されていた。そのため、異ベンダーの通信機器が繋がらないのは通信業界では常識だった。だが、技術標準化団体によって機器接続のための標準化が進められ、ベンダーも仕様に対応する機器を開発・提供することで、通信インフラのオープン化が進んできているのが現状だ。

しかし、泉氏によれば、「Open APNの仕様はフルスペック8Kの伝送も問題なく行えるように作られているものの、本格的な商用展開に向けて今後も継続的な検証が必要」だという。

「映像伝送関係に関連し、当社のエンジニアが過去に参加した日本を縦断する国内の安定した回線を使った実証実験では、最大通信速度に対して50ミリ秒程度の遅延が発生したが、APNになる事でネットワーク側の遅延については、かなりの低遅延化を図る事ができると考えている。他方で、高速・大容量なネットワークで受け取れたデータを処理できるよう、デバイスやプロセッサの光対応も同時に求められる。Open APNになると、さらにメーカー間の接続性の確認や複数メーカー製品を運用管理するオペレーションの確立も課題となる」と泉氏は、今後のAPN普及の課題を指摘した。

品質担保ソリューションなど新領域にビジネスチャンス

併せて、泉氏は「オープン化とオール光(APN)化は一緒に語られがちだが、それぞれができることを分けて考え、掛け合わせることで新たな価値を創出できるはずだ」と述べた。一般的にオープン化では、ベンダーロックインの排除やベンダごとの強みを生かした機能分離によるネットワーク構築コストの削減が挙げられる。また、仕様が標準化されることで機器の調達先が多様化するので、サプライチェーンリスクに対するレジリエンスが向上する。

APN化では、エンドトゥエンドでの光ネットワークという新たな社会基盤の登場によって、デジタル上でリアルなコミュニケーションが可能になったり、デジタルとリアルを融合した新たな体験を得られたりすることに期待が寄せられている。また、光技術によってデータの伝送が効率化されることで、従来のネットワークと比べて伝送の効率化・省電力化が図れる。

  • オープン化・APN化がもたらす価値

    オープン化・APN化がもたらす価値

副次的な効果としては、通信ネットワークのオープン化が進むことで、ネットワーク構築におけるリソース調達が柔軟になるという。

「オープン化が実現することによって、通信プロトコルと機器の仕様だけでなく、機器を制御・コントロールするうえでの技術仕様も統一されるので、ネットワークリソースとコンピューティングリソースを統合的に見て、より良い配分でITシステムを構築することも可能になると考える」(泉氏)

他方で、通信機器ベンダーの既存事業への影響はどうなるのだろうか? 通信ネットワークの構成が単一ベンダーの機器で完結していたものが、マルチベンダ構成に変わるとなれば、機器の販売動向にも影響が出そうだ。

この点について質問すると泉氏は、「従来、1社のベンダーで組んでいた機器構成からオープン化になることで、競争は激しくなると想定している。APNになれば、光伝送装置の適用領域は増える。さらに、『どのベンダーの機器と組み合わせると、どれだけの伝送が可能か』といったマルチベンダー構成の品質を担保するソリューションや、そのためのビジネスがSIerから新たに出てくることだろう。ネットワーク技術者の学ぶことも自ずと増えていくことになる。当社では光関連の技術者を多く擁しているので、Open APN領域でも競争優位性を保てる」と語った。