NECは9月15日、ネットワークから端末に至るすべての通信を光ベースの技術で構築する「オールオプティカルネットワーク」の市場創出を目指して、同分野の事業を強化すると発表した。事業強化の第一弾として、光伝送装置のオープン仕様(Open ROADM、TIP Pheonixプロジェクト)に準拠した製品「SpectralWave WXシリーズ」の発売が同日に発表された。

同日には、オールオプティカルネットワーク関連の事業に進出する理由と製品の特徴についての記者説明会がオンラインで開催された。

【関連記事】
≪NTT東の澁谷直樹新社長が記者会見「地産地消型の社会づくりに貢献したい」≫
≪NTT、IOWN構想下の最新技術が実現する未来を披露 - NTT R&Dフォーラム≫

ROADM、IOWNに準拠したオープン仕様の光伝送機器を発売

SpectralWave WXシリーズは、2022年10月1日より製品の出荷を開始する。なお、同製品はNECの従来製品と組み合わせて使用することが可能だ。

製品は4種類で、光増幅器(光アンプ))の「WX-Dシリーズ」は可変利得アンプを搭載しており、複数の同製品を組み合わせて多方路に切り替えが可能だ。光合分波器の「WX-Sシリーズ」は、Add/Drop機能(波長を加えたり取り出す機能)を搭載している。

電気信号と光信号の変換を行うトランポンダの「WX-Tシリーズ」では、Whitebox Transponderと、L2スイッチを内蔵したPacket Switch Transponderの2製品を提供。光スイッチの「WX-Aシリーズ」では、センターサイトからリモートサイトへ遠隔操作にて、光信号の波長を変換することも可能だ。

  • 「SpectralWave WXシリーズ」の概要

    「SpectralWave WXシリーズ」の概要

従来、ネットワークの構築にあたっては、垂直統合型の光伝送装置が主流で、同一ベンダーの機器を使うことが一般的だった。今回、NECが発表したSpectralWave WXシリーズは、ネットワークを構成する機器を機能ごとに分割するディスアグリゲーション(機能分離)を採用している。オープン仕様の各機器を必要に応じて複数のベンダーから調達し、組み合わせて利用することができる。

オープン仕様のネットワーク機器を利用することのメリットとしては、マルチベンダー化によるベンダーロックインからの解放が挙げられる。オペレータ要件に応じてネットワーク設計を最適化し、異なるベンダーの機器でネットワークを構成し、ネットワーク全体を共通のコントローラで統合監視・制御することも可能だ。また、各機器で最新技術・機能が発表された際に、タイムリーに製品導入しやすくなる。

  • 「SpectralWave WXシリーズ」の概要

    「SpectralWave WXシリーズ」の概要

SpectralWave WXシリーズは製品の配置変更により、従来から光伝送ネットワークに用いられているIOWN(Innovative Optical and Wireless Network)の技術とユースケース開発をグローバルに推進する「IOWN Global Forum」で検討が進められるOpen APN(Open All-Photonics Network)で定義されたAPN-T、APN-G、APN-Iの各機能ブロックをつなぐ最新の構成に対応することができる。

例えば、光信号の折り返しをする際、一般的にはAPN-T、APN-G、APN-Iの各機能ブロックの製品をすべてつなぐ必要があるが、同製品はAPN-T(WX-Tシリーズ)とAPN-G(WX-Sシリーズ)の2製品をつなぐ構成で光の方向を変更し、折り返しを行える。

  • 製品を配置変更することでOpen APNに準拠したアーキテクチャに準拠した構成が可能だ

    製品を配置変更することでOpen APNに準拠したアーキテクチャに準拠した構成が可能だ

2027年度にオープン光伝送市場でシェア25%を目指す

NECはオールオプティカルネットワークをデジタルツインの実現や、新たなサービス・産業の創出、グリーン化をはじめとする社会課題の解決を支える次世代インフラとして捉えている。

今後は大規模キャリアネットワークにおける光伝送装置の納入実績とノウハウを生かして、オープンな光伝送装置を使用したマルチベンダー環境でのシステムインテグレーションや、ネットワーク運用サービスを提供していくという。2027年度には、オープン光伝送市場においてシェア25%を獲得し、オールオプティカルネットワーク事業のリーディングカンパニーを目指す方針だ。

NEC ネットワークソリューション事業部門 フォトニックシステム開発統括部統括部長 佐藤 壮氏は、「垂直統合型の機器によるネットワークとオープンネットワークが混在できるかが課題となり、現実的にはラッパーのような変換機を通す必要が出てくるだろう。また、個社での取り組みでは限界があり、ネットワークオープン化のエコシステムが拡大することが欠かせない。国内外の取り組みを鑑みて、2025年~2026年度あたりから完全にオープン化したエコシステムができあがってくると当社では想定しており、2027年度を目標としている」と説明した。

  • NEC ネットワークソリューション事業部門 フォトニックシステム開発統括部統括部長 佐藤 壮氏

    NEC ネットワークソリューション事業部門 フォトニックシステム開発統括部統括部長 佐藤 壮氏

海外ではトランスポンダのみをオープン化するなど、部分オープン化が進む。国内では既存の機器のマイグレーションが中心になるとNECでは想定しており、スイッチングコストを抑えられるよう、既存製品と同じ制御下において管理できる製品シリーズを展開していく予定だ。

オープン仕様の製品について、当面はMAN(メトロポリタンエリアネットワーク)やモバイルデータセンター間のアクセス回線が適用領域として挙げられた。

また、将来的な、IOWN Global ForumのOpen APNアーキテクチャのサービス適用領域としては、MFH(モバイルフロントホール)のシェアリング、地域に閉じたサービス環境(医療/教育/工場管理/地域交流など)の提供、高画質/高音質/リアルタイム/双方向による臨場感のあるコンテンツの提供、サービスごとのネットワークスライシングが挙げられた。

  • IOWN Global ForumのOpen APNアーキテクチャのサービス適用領域

    IOWN Global ForumのOpen APNアーキテクチャのサービス適用領域

大容量化・広域化・メッシュ化する2030年のネットワーク

説明会では、NECによる2030年のネットワークの姿についても語られた。同社は、Beyond 5Gなどの先進技術が活用されることで超リアルタイムで、高精細な画像配信などのサービスを提供するアプリケーションが増え、メトロ/アクセスネットワークへと張り出していくと考えている。

加えて、アプリケーション配信を支えるデータセンターも、エッジデータセンターやMEC(マルチアクセスエッジコンピューティング)にシフトしていき、エッジデータセンター間がシームレスに繋がることで、ネットワークの大容量化・広域化・メッシュ化が進むと予測する。また、近年、大規模災害が頻発する中で、通信インフラの安全や信頼性が求められるうえで、コアネットワークでもメッシュ化が進むという。

メッシュ化が進んで光ネットワークが複雑化することで、ネットワーク管理の領域では、パス設計から障害対応までAIを活用するなど人手作業の自動化が進む。

光伝送方式も大容量化に対応するためにペタビット級光伝送が可能になり、広域化・メッシュ化に対応できるよう、よりスケーラビリティのある波長制御方式へと進化。シリコンフォトニクス技術をベースに光トランシーバの集積化が進んで、デバイスの小型化・省電力化が向上するという。

  • NECが予想する2030年のネットワークの姿

    NECが予想する2030年のネットワークの姿

「オープン化の視点では、コンピューティングおよびネットワーキングリソースの部品化が進むと考える。Network as a Service、Network on Demandoといったような、サービスごとの要求に応じてオンデマンドでリソースをアサインできる時代になっていくだろう」と佐藤氏は語った。