ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンは5月30日、日本における建築、自動車、製造などの産業分野に向けた新たな事業戦略に関する記者発表会を開いた。
同社は3D対応のゲーム機器やゲーミングPC、スマートフォン、タブレット端末、AR(拡張現実)・VR(仮想現実)デバイスなど、複数のプラットフォームに対応するリアルタイム3Dを作成できるゲームエンジン「Unity」を開発・販売する米Unityの日本法人だ。
ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン 執行役員 産業営業本部長の松本靖麿氏は、「グローバルでは、Unityの技術はゲーム開発だけでなく、すでにさまざまな産業分野で活用されている。今後は日本においてもゲーム産業以外の分野に注力し、各産業でのリアルタイム3D、デジタルツインの活用と企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援していく」と意気込んだ。
産業別の専門チーム体制で受諾開発やニーズ探索を支援
産業分野での事業を推進するために、ユニティ・テクノロジーズ・ジャパンは組織体制を刷新。今後は「販売チーム」「受諾開発チーム」「サポートチーム」から成る産業本部が国内企業向けにサービスの提供、導入支援、カスタマーサポートなどを提供していく。
販売チームは、「建設・インフラ」「製造」「自動車・リテール」の3チーム体制で、セールスアカウントとソリューションエンジニアを配置する。受諾開発チームは顧客の要望に合わせてデジタルツインを開発する。国内の同チームには現在30名が在籍しており、グローバルチームと連携して開発を進めるという。サポートチームはUnityの導入サポートとテクニカルサポートを提供していく。
また、同社は国内のパートナーシップも拡充する。セールスでは各産業に特化したリセラーとの協業を拡大。テクノロジー面においては、コンサルティング会社やセンサ・シミュレーション分野の企業との連携を強化する方針だ。
同社は2023年4月3日に、3D構築のソフトウェア、導入サポート・トレーニング、CADなどの3DデータをUnityにインポートするためのプラグインなどを統合した産業分野向けパッケージ「Unity Industry」の提供を開始した。国内の産業向け事業においては同製品とともに、技術課題や開発者向けの有償サポートも提供していくという。
「多くの企業が、3Dでどのようなものを作成すれば自社の課題を解決できるかわからないものだ。当社は3Dコンテンツやデジタルツインを作る前の段階から顧客に関わり、課題や3Dで得たい体験の本質などについてディスカッションし、数年後のゴールを設定するといったコンサルティングを行っていく」と松本氏は説明した。
国内企業でもリアルタイム3Dの活用プロジェクトが進行
説明会では、海外の産業分野におけるUnityの活用事例が紹介された。
フィンランドのオウル港では、港全体をデジタルツイン化して港湾業務の効率化に活用している。具体的には、港湾内のさまざまデータソースやIoTセンサとデジタルツインを連携し、貨物の積み下ろしや物流の作業計画をシミュレーションしているという。
仏ルノーでは、Unityで制作した3Dモデルで自動車生産ラインにおける産業用ロボットがどのように動くかを可視化することで、ロボット軌道プログラムの事前検討やオペレーターの作業安全性を確認している。
松本氏は同事例に関連して、「大企業だけでなく、今後は中小企業でも製造ラインにおける3D活用の余地があると考える。日本の企業でも、当社の技術を活用したロボティクス導入やライン検討がすでに始まっている」と国内製造業の動向を明かした。
2022年に米Unityはメルセデス・ベンツとの提携を発表した。同社の全車種にUnityで作られたHMI(Human Machine Interface)が利用され、同HMIを搭載した車が2024年に初走行する予定だという。また、開発・設計のシミュレーションや、インフォテインメント(情報と娯楽を融合した体験)領域のユーザー体験設計にも3Dが利用されているそうだ。
Unityで作成した3Dコンテンツの特徴は、画像の処理、解析・生成を同時に行うリアルタイムレンダリングにより、リアルタイムに変化する3D表現が可能なことと、リアルタイムデータと連携できることにあるという。
「2022年からはデジタルツイン構築の検証を国内企業とも行っている。すでにプロジェクトに移行しているものもあり、これから国内事例も公開していきたい」(松本氏)
ソニーの空間再現ディスプレイを使用したデモ展示
説明会の会場には、リアルタイム3Dを体験できるデモが展示された。
ソニーの空間再現ディスプレイ「Spatial Reality Display」の27インチモデルを利用したデモでは、国土交通省が主導するPLATEAU(プラトー)の都市モデルを映し出していた。
ユニティ・テクノロジーズ・ジャパン シニアソリューションエンジニアの高橋忍氏は、「例えば、スマートシティのアプリケーションを作成する際に、Unityに都市モデルをインポートし、人の流れや自動車交通量、雨量などのリアルタイムデータと連携させたデジタルツインを映し出すことが可能だ。産業ごとのさまざまユースケースを提示することで、お客さまに活用のアイデアを想起するきっかけとしたい」と語った。