九州大学(九大)と大阪大学(阪大)の両者は4月3日、2つのプラズマ波「アルフベン波」が対向伝搬する状況に着目し、互いに逆向きに伝搬している2つの波が衝突し、さらにそれらの波の振幅があるしきい値を超えていると、非常に高効率な粒子加速が起こることをシミュレーションにより示したと共同で発表した。

さらに、この加速機構が有効に働くための条件や、粒子がどのくらい高エネルギーにまで加速されるのかについて明らかにしたことも併せて発表された。

  • (左)マグネターの磁力線に沿って対向伝搬する波が衝突し、高効率に粒子を加速する様子。(右)その拡大図

    (左)マグネターの磁力線に沿って対向伝搬する波が衝突し、高効率に粒子を加速する様子。(右)その拡大図(出所:九大プレスリリースPDF)

同成果は、九大大学院 総合理工学研究院の諌山翔伍助教、同・高橋健太大学院生、同・松清修一教授、阪大 レーザー科学研究所の佐野孝好助教らの共同研究チームによるもの。詳細は、米天体物理学専門誌「The Astrophysical Journal」に掲載された。

地上、あるいは地球周辺で観測される宇宙線には、1015.5(約3162兆2776億6000万)eV以上という、とてつもなく高いエネルギーを持つものがある。そのような高エネルギー宇宙線はエネルギーが大きすぎて、天の川銀河の磁場でも閉じ込めることができないため、天の川銀河の外からやってきていると考えられている。

しかしこのような高エネルギー宇宙線が、どこで、どのように生成されるのかについては未解明で、宇宙・天体物理学の中でも重要な未解決問題の1つとなっている。高エネルギー宇宙線の生成現場として有力な候補天体や天体現象は、超新星爆発、活動銀河核、マグネター、銀河団、ガンマ線バーストなど、複数ある。これらの中には、大振幅のプラズマの波が宇宙線の生成に深く関与していると考えられているものもあるという。

その一例が、中性子星の一種で、宇宙最強といわれる非常に強力な磁場を持つマグネターだ。宇宙線のエネルギー源は同天体の持つ強大な磁気エネルギーであるとされており、同天体の表面で星震(地球でいう地震)が起こると、マグネター磁気圏内に大振幅のアルフベン波が励起されると考えられている。アルフベン波とは、磁場のあるプラズマ中で、磁気張力を復元力として磁力線に沿って伝わる波(波の振動方向が進行方向に対して垂直な横波)のことをいう。

しかし、どのようにして波のエネルギーが宇宙線のエネルギーに変換されるのかは未解明のままだとする。そこで研究チームは今回、波から粒子へのエネルギー変換機構として、2つのアルフベン波が対向伝搬する状況に着目したという。

まず、対向伝搬するアルフベン波(振幅はしきい値以上)の衝突についてのシミュレーションが行われた。その結果、波が衝突すると、粒子(イオン)のエネルギーが劇的に上昇していることが判明。この時、多くのイオンは初期のエネルギーに関係なくごく短い時間の間に加速されるため、非常に高効率な波からイオンへのエネルギー変換が起こるとした。

さらに、初期に与える波の振幅を変えた時に、加速後のイオンのエネルギーが全エネルギーに占める割合が確かめられた。すると、波の振幅がしきい値を超えるとイオンの獲得エネルギーが急激に上昇し、全体の70~80%を占めることがわかったとする。そして研究チームは、このしきい値と、到達可能な粒子の最大エネルギーを理論的に導出したとのことだ。

  • 数値シミュレーション結果

    数値シミュレーション結果。(a)初期τ=0と(b)τ=392の時の波のイオンのエネルギーの空間分布と波の電場成分の空間波形。ここでは波の振幅はしきい値以上bw=0.6であり、背景磁場B0を空間x方向に印加している。(c)波の振幅(bw)を変えた時の、最終状態における全体に占めるイオンのエネルギーの割合の変化(出所:九大プレスリリースPDF)

このような状況は、たとえばマグネターの磁力線を伝わる2つの波が衝突する場合や、1つの波が磁力線の根元で反射し、それが対向伝搬波として衝突する場合が考えられるとする。またそのような境界がなくても、1つの大振幅の波が非線形相互作用により崩壊する過程でも同じ状況が発生するという。したがって、今回の研究で示された粒子加速機構は、さまざまな天体現象における宇宙線生成に関与している可能性があるとしている。

今回の研究では、まず単純な1次元系により宇宙線加速機構の新たな理論モデルが構築された。研究チームは今後、今回の研究で確立した理論をもとに、さまざまな天体現象で起こる粒子加速について調査し、高エネルギー宇宙線の生成機構を明らかにするとした。また、多次元での数値計算も必要になるという。そしてこれらと同時に、高強度レーザーを用いて今回のモデルを実験室で検証し、粒子加速器として応用することも構想中だとしている。