高知県競馬組合(以下、高知けいば)は、エヌ・ティ・ティ・ブロードバンドプラットフォーム(以下、NTTBP)は、2022年8月より「高精度測位サービス」を利用した新しい競馬観戦スタイルを提供している。

高精度測位は、競馬にどんな楽しみ方を与えてくれるのだろうか。競走馬ごとの区間タイムおよび通過順位の表示などを可能とする同サービスの秘密に迫る。今回、高知県競馬組合 松本太一氏に話をうかがった。

  • 高知県競馬組合 松本太一氏

地方競馬が最新の測位システムを導入

ICTによって、多くのスポーツ競技の楽しみ方が変わってきている。特に、位置情報を用いて選手等の動きを可視化する取り組みは盛んだ。例えば日本中央競馬会(以下、JRA)は、2022年6月に札幌競馬場、2022年11月に東京競馬場で「競走馬トラッキングシステム」の実証実験を行った。

そんな中、高知けいばはNTTBPと共に開発した「高精度測位サービス」を発表。8月27日より区間タイムや区間ごとの上位通過馬を、中継放送(一部)へ表示する取り組みを開始した。

  • 高精度測位サービスを利用した中継放送の例

松本氏は、高精度測位サービスを利用した経緯を次のように説明する。

「高知けいばは平成15年頃から経営が悪化し、平成20年には廃止寸前の状態に陥りました。経費削減によりなんとか持ち直しましたが、設備や提供できる情報が古いままになっていました。近年は売り上げ増により、収益があり、設備改修などを行ってきましたが、お客さまへの情報提供の面においても新たな取り組みをしたいと考えたのが、高精度測位サービス導入のきっかけです」

  • 高知県高知市にある「高知競馬場」は、四国で唯一の競馬場

こうして高知けいばは情報提供の取り組みを進め、まず他の競馬場でも利用されている赤外線センサーを検討したという。しかし、高知競馬場の雨の多さ、誤検知の多発や設置・維持費用がかさむなどの懸念から、断念。そんなとき、場内の公衆無線LANサービス「KOCHIKEIBAWi-Fi」を整備していたNTTBPが紹介したシステムが「Quuppa」だ。「Quuppa」は、Bluetoothを活用した高精度な位置測位に対応したシステムだ。

「高知けいばでフリーWi-Fiを整備したのが2018年で、『Quuppa』を紹介いただいたのが2019年頃でしょうか。そして、2020年に実証実験を始めました。われわれは技術や費用感がわからず、逆にNTTBPさんは競馬についてわからないという状況の中、お互いにすり合わせをしながら実証実験を進めていきました。紆余曲折があり、1月の開始予定のところ、8月に伸びましたが、高精度測位サービスの運用を無事開始できました」(松本氏)

  • 高知競馬場内で利用できる公衆無線LANサービス「KOCHI_KEIBA_Wi-Fi」もNTTBPが整備したもの。ステッカーは取材時のもので、2023年3月現在、一部デザインが変更されている

  • 「KOCHI_KEIBA_Wi-Fi」に接続することで閲覧できるポータルページでも情報が提供される予定だ

Quuppaの仕組みとGPS測位方式との違い

「高精度測位サービス」は、「Quuppa」というリアルタイム位置測位システムを用いて、位置情報や区間(1ハロン=200メートル)ごとのタイムを計測するもの。現在は、1ハロンごとの区間タイム、先頭がその区間に入ったタイミングの順番、50メートルごとの通過順位といったデータを取得し、大型モニタにリアルタイムで表示しているという。

そもそも、このサービスの根幹を担う「Quuppa」とはどのようなシステムなのだろうか。NTTBP 設備サービス部 サービスフロント部門 ソリューション営業担当 担当部長の藤崎信氏と、同 営業担当の今村直哉氏に詳細を聞いてみた。

「Quuppaは、Bluetoothをベースとした高精度位置測位技術です。ロケーターと呼ばれる受信機で、タグと呼ばれる装置から発信される電波を受信。その到来角度を測定し、位置演算処理を行うことでタグの現在位置を算出します。今回は競馬場に特化したフィルターを掛け、より精度を上げるチューニングを行っております」(NTTBP 藤崎氏)

もともと、Quuppaは屋内での採用が多く、主に工場や倉庫で利用されてきた。スポーツ分野では競輪場での検証を行ったことはあるものの、屋外での本格的な運用は今回が初めて。それゆえ、高知競馬場への設置ではさまざまな工夫が行われている。例えば、海風の影響でロケーターがさびてしまうことがあるため、その対策として、特注の金具が使用されているという。

  • 高知競馬場内の各所に設置されているロケーター

一方、「競走馬トラッキングシステム」などで用いられているRTK-GPS測位方式は、基準局と移動局(観測点)で複数のGPS衛星から信号を受信し、情報のズレを補正することで精度の高い位置情報を得られるシステムだ。

「RTK-GPS測位方式は、基準局と競馬場の位置関係やGPS衛星の受信状況に精度が左右されやすい傾向があります。また、GPSアンテナやLTEモジュールなどを搭載した送受信機は、約200~300グラムほどの重さになります。これを競走馬のゼッケンに装着します。近くに基準局があれば利用料を支払って使うことができますが、ない場合は自前で基準局を用意しなくてはなりません」(NTTBP 藤崎氏)。

ただし、Quuppaはロケーターのない場所では観測できないというデメリットもある。広いエリアで観測したければ、それだけロケーターの数を増やさなければならない。立地や規模に応じて、それぞれ適した測位方式があるといえる。