アルマ望遠鏡は3月13日、受信機のIF(中間周波数)帯域幅を少なくとも2倍に広げ、関連するエレクトロニクスと相関器をアップグレードする「アルマ2030広帯域感度アップグレード(WSU)」について、2022年11月にアルマ評議会によって、米国が主導する第2世代相関器の開発と、国立天文台(NAOJ)が主導する新しいデータ伝送システム(DTS)の開発に関するプロジェクト提案が承認されたことを発表した。

アルマ望遠鏡は2018年、2030年代の望遠鏡性能向上に向けた開発戦略ビジョンをアルマ望遠鏡将来開発ロードマップとして発表した。このビジョンで特定された主な優先事項は、受信機のIF帯域幅を少なくとも2倍に広げ、関連するエレクトロニクスと相関器をアップグレードするというものだった。今回はそのビジョンについて、いよいよ実現に向けて動き出した形だ。

アルマ望遠鏡といえば、世界屈指の性能を有する電波望遠鏡群というイメージもあるが、そんな同望遠鏡であっても、ありとあらゆる周波数の電波をまとめて一気に観測できるというわけではない。宇宙空間では、115GHzの電波を放つ一酸化炭素分子、89GHzの電波を放つシアン化水素など、いくつもの重要な観測対象の分子から周波数の異なる電波が放射されている。アルマ望遠鏡の受信機であっても捉えられる周波数の帯域幅は限られており、現在は狭い周波数帯に分けて何回も観測を行うことで、広い周波数帯をカバーしている。ただし、それだけ長い観測時間を必要とするということでもあった。

そこで今回のアップグレードでは、一度に広い周波数帯を観測できるように受信機の改良が行われる。これにより、これまでと同じ観測時間で、より広い周波数帯の電波を高感度に観測し、そして解析できるようになるとしており、たとえば遠方銀河の距離を決める観測や、さまざまな分子が放つ電波を一度に捉える観測、星間ダストが放つ電波の高感度観測などの効率が大きく向上するとしている。

なおIF帯域幅は、実際にアルマ望遠鏡が観測を行っている電波の帯域幅とは異なり、観測ではもっと高い周波数の電波が捉えられている。しかし、そのままだと処理する際に扱いにくいため、より扱いやすい比較的低い中間周波数のIF帯域幅に変換しているのである。そのため、IF帯域幅を広げることが重要なのだ。

ただし、受信機の帯域幅を2倍にしただけでは、高性能化は達成できない。2倍にすれば取得できる観測データを増やせるが、相関器までの経路が同じ性能のままであれば、せっかく受信機の性能が向上してもその性能を活かしきれない。そのため、大容量データを高速で伝送できるよう、経路であるDTSもアップグレードするのである。なお、DTSのアップグレードは、NAOJが米国国立天文台(NRAO)と協力して進めていく計画としている。

現在のアルマ望遠鏡のDTSでは、イーサネットのようなオフィスや家庭などで日常的に使われる規格とは異なる特殊な通信システムが用いられている。そのため、不具合が発生した際、交換部品の入手ですら容易ではなく不都合が生じていたという。それを回避するため、今回のDTSアップグレードではイーサネットを採用するとしている。

具体的には、400Gbpsの高速イーサネット回線が複数引かれ、最高で1200Gbpsの高速伝送システムが構築される予定だ。また、400Gbpsイーサネットの長距離オプションを用いると80kmのデータ伝送も可能になることから、将来的にアンテナ間の距離を延ばせるようになるとする(現在のアルマ望遠鏡のアンテナ間の距離は最大16km)。これにより、アルマ望遠鏡の角度分解能を向上させることが可能になり、より鮮明な画像を撮影できるようになるとしている。

  • アルマ望遠鏡のアンテナ群。中央手前の密集した小型アンテナ群は日本が開発した「モリタアレイ(アタカマ・コンパクト・アレイ)」。(c)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), A. Marinkovic/X-Cam

    アルマ望遠鏡のアンテナ群。中央手前の密集した小型アンテナ群は日本が開発した「モリタアレイ(アタカマ・コンパクト・アレイ)」。(c)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), A. Marinkovic/X-Cam(出所:アルマ望遠鏡日本語Webサイト)