国立天文台 ハワイ観測所は2月7日、すばる望遠鏡の観測を約2か月間にわたって中断し、主鏡をアルミニウムでコーティングし直す再蒸着作業と、望遠鏡のメンテナンスを実施したことを発表した。主鏡の蒸着は今回が通算9回目で、前回の2017年から5年ぶりでの実施となった。

  • 蒸着の仕上がり確認後に撮られた集合写真

    蒸着の仕上がり確認後に撮られた集合写真。(C)国立天文台(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

どれだけ最新技術が投入された大型望遠鏡であっても、効率良く、そして詳細に観測を行うためには、主鏡の反射率を維持する必要がある。しかし主鏡の表面には少しずつ汚れがたまっていき、反射率が落ちていってしまう。たとえばすばる望遠鏡の場合、前回のアルミニウムコーティング蒸着作業が実施されてから5年が経過した、今回の蒸着直前の主鏡の反射率は、前回の蒸着直後に比べて、紫色の光である波長400nmを例に取ると、およそ17%の低下が確認されたという。

再蒸着の行程は、主鏡とカセグレン焦点の観測機器を望遠鏡から取り外す作業から始まる。そして、主鏡を洗浄してアルミニウムのコーティングを取り除き、1枚のガラスに戻った主鏡表面のキズ検査・補修を行った後に、蒸着釜でアルミニウムのコーティングが実施される。蒸着作業は精密かつ大がかりな作業のため、1年以上前から入念に準備を進めた上で実施された。作業のおよそ8割は、本番前の準備といっても過言ではないという。

主鏡の洗浄は、2回実施される。一次洗浄では、塩酸を使って古いアルミニウムのコーティングが溶かされる。そしてキズの検査が行われた後、二次洗浄で表面のホコリや汚れが取り除かれた主鏡は、再蒸着のための蒸着釜に入れられる。

  • 塩酸による一次洗浄の終了間際、透明な1枚のガラスとなった主鏡。主鏡を微調整するためのアクチュエータに支えられているように見えるが、洗浄・蒸着用のセルに載せられている状態であり、実際のアクチュエータではない。(C)国立天文台

    塩酸による一次洗浄の終了間際、透明な1枚のガラスとなった主鏡。主鏡を微調整するためのアクチュエータに支えられているように見えるが、洗浄・蒸着用のセルに載せられている状態であり、実際のアクチュエータではない。(C)国立天文台(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

一次洗浄の様子を記録した映像(10倍速)。その他の工程の映像も公開されている(C)国立天文台(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

蒸着釜は、直径が約8.3mもあるすばる望遠鏡の主鏡がすっぽりと入るサイズだ。その中は真空で、事前にアルミニウムを溶かし込んだ特製のタングステンフィラメントが288本取り付けられている。真空の釜の中では、フィラメントに電流を流し、そこからまっすぐ飛び出したアルミニウムを蒸発させる「ファイアリング」が行われる(電力の関係で、96本ずつ3回にわけて実施された)。このファイアリングにより、アルミニウムが主鏡表面に再蒸着(コーティング)されるのである。なお釜の中を真空にする理由は、空気があると、蒸発したアルミニウムが主鏡の表面に純度の高い均一な膜を作る際に邪魔になってしまうためだという。

その後、蒸着釜から取り出された主鏡に対しては、蒸着のチェックが行われる。今回は、ハワイ観測所の宮﨑聡所長らによって入念な確認が実施された。そして検査の結果、主鏡の反射率は、前回の再蒸着直後の値まで回復していることが確認されたという。

  • 主鏡の反射率の変化。紫と緑の線はそれぞれ今回の蒸着前と蒸着後の反射率。蒸着によって、2017年の蒸着後(灰色の線)と同程度の値に戻っているのがわかる

    主鏡の反射率の変化。紫と緑の線はそれぞれ今回の蒸着前と蒸着後の反射率。蒸着によって、2017年の蒸着後(灰色の線)と同程度の値に戻っているのがわかる(出所:すばる望遠鏡Webサイト)

仕上がりが確認された主鏡は、洗浄と再蒸着作業が行われた1階から、望遠鏡のある3階(観測階)までクレーンで吊り上げられ、所定の位置に取り付けられた。今回の再蒸着の効果は、今後の観測で間違いなく発揮されることだろう。