ホタルの発光コミュニケーションについてのこれまでの理解では、シンプルな時間的要素(発光時間や応答遅れ時間など)が関わっていることまでは理解されていた。今回の研究成果により、瞬きというミリ秒レベルの振幅要素も情報として使われていることが初めて明らかにされた。なお、ヘイケボタルのような瞬きを伴った点滅をするホタルは、世界のほかの場所にも棲息しているといい、それらのホタルも瞬きを使ったコミュニケーションをしていることが考えられるという。
また今回の研究では、飛んでいる時のヘイケボタルのオスの発光には瞬きがないのに、地上に降りるとなぜ瞬きを伴った発光を始めるのか、その理由も考察された。研究チームは、未交尾のメスがオスの光に応答している様子は観察されないことから、メスに対するアピールではないとする。そのことから、飛翔しているほかのオスに対し、「俺が見つけたメスだからお前は来るな」という牽制アピールの可能性があるとした。
さらに、交尾を終えたヘイケボタルのメスが、まるでオスのような瞬きを伴った発光をするようになるのかという点についても考察。交尾後のメスには、今度は産卵という重要な役割が待っていることから、交尾後のメスはオスになりすますことで、ほかのオスからのアプローチにより産卵の邪魔をされるのを防いでいることが考えられるとする。
研究チームは今回の研究成果から、メスが発光で自分の居場所をオスに知らせているだけ、という従来のような単純な見方では、ホタルの発光を説明し尽くしたことにはならないだろうとしている。また、こうしたホタルの求愛システムの理解が進めば、農薬散布や水田周辺の環境変化に伴って、全国的に減少しつつあるヘイケボタルの保全活動においても、重要なヒントを得られることが期待されるとした。