東京大学(東大)、九州大学(九大)、大同大学(大同大)は12月2日、「PCP(リン-炭素-リン)型ピンサー配位子」を有するモリブデン錯体に、可視光を化学変換に利用できる光触媒の「イリジウム光酸化還元触媒」を組み合わせることで、通常では進行しないはずの、窒素分子と水素供与体である「ジヒドロアクリジン」からのアンモニア合成反応を、常温常圧の極めて温和な反応条件下において進行させることに成功したと共同で発表した。

同成果は、東大大学院 工学系研究科システム創成学専攻の芦田裕也大学院生(研究当時)、東大 工学部応用化学科の小野塚悠斗学部生(研究当時)、東大大学院 工学系研究科 応用化学専攻の荒芝和也特任研究員、九大 先導物質化学研究所の許斐明日香テクニカルスタッフ、大同大 教養部の田中宏昌教授、東大大学院 工学系研究科 応用化学専攻の栗山翔吾助教、同・山崎康臣助教、九大 先導物質化学研究所の吉澤一成教授、東大大学院 工学系研究科応用化学専攻の西林仁昭教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、英オンライン科学誌「Nature Communications」に掲載された。

アンモニアは、タンパク質や核酸などの生体分子に含まれ、生命にとって必須の元素の1つである窒素源として不可欠な物質だ。また近年では、その取り扱いやすさや高いエネルギー密度、燃焼してもCO2を排出しないなどの特徴から、ゼロエミッション燃料および水素エネルギーキャリアとして有望視されている。

現在主流のアンモニア合成法は、工業的な手法であるハーバー・ボッシュ法だ。同手法は、窒素ガスと水素ガスを高温高圧(400~600℃・100~200気圧)の極めて厳しい条件において、鉄系触媒を利用して反応させることで合成を行う。だがこの手法は、人類が地球上で消費する全エネルギーの数%をも消費する上に、水素ガスの原料としてCO2排出を伴う化石燃料に依存しており、環境負荷の高いプロセスである点が大きな課題となっている。

つまり、アンモニアをカーボンニュートラルな燃料およびエネルギーキャリアとして利用するには、化石燃料に依存しない、再生可能エネルギーを利用したアンモニア合成法の実現が必須なのだ。