こうした背景のもと、2019年にPCP型ピンサー配位子を持つモリブデン錯体を用い、「ヨウ化サマリウム」を一電子還元剤として利用した常温常圧の温和な反応条件下において、窒素ガスと水からのアンモニア合成法の開発に成功したのが東大の西林教授らの研究チームである。

この反応系では、水を水素源として利用することは可能だが、反応を進行させるためにはヨウ化サマリウムが持つ化学エネルギーが必要であることが課題だった。そこで研究チームは今回、同反応の進行に必要な化学エネルギーの代わりに、光触媒を用いて可視光エネルギーを利用できれば、化学エネルギーに依存しないアンモニア合成を行える可能性があると考え、詳細に検討することにしたという。

その結果、ジヒドロアクリジンを水素供与体、イリジウム錯体を光触媒として用いた場合に、窒素ガスからアンモニアが触媒的に生成されることが見出されたとする。

  • 窒素ガスからアンモニアを合成する手法

    窒素ガスからアンモニアを合成する手法(出所:共同プレスリリースPDF)

窒素ガスとジヒドロアクリジンからアンモニアが生成される反応は、原料の持つ化学エネルギーの方が低く熱力学的に不利なため、外部からエネルギーを与えない通常の熱反応では進行しない。しかし今回の方法では、光触媒が可視光エネルギーを吸収し、そのエネルギーを用いて水素供与体であるジヒドロアクリジンを活性化することで、モリブデン触媒上でアンモニア生成反応が進行する。つまり、今回のアンモニア合成反応では、再生可能エネルギーである可視光エネルギーを化学エネルギーの形でアンモニア中に蓄えることが可能ということになる。

  • アンモニア合成のエネルギー変化図

    アンモニア合成のエネルギー変化図(出所:共同プレスリリースPDF)

なお研究チームは、今回の研究成果について、再生可能エネルギーを用いてCO2を排出しない方法でアンモニアを合成する「グリーンアンモニア合成反応」の開発につながるものとして期待されるとした。