東北大学新青葉山キャンパス(仙台市青葉区荒巻)に建設されている次世代放射光施設(愛称:Nano Terasu、図1)は、2023年内(令和5年度)の稼働に向けて、最終段階に入り、中核設備となる加速器やビームライン設備の最終設置・調整工程に入っている。最終設置・調整工程に入り、ほぼ完成した姿になったことから、10月19日には仙台市民向けの見学・講演会を開催し、そのイノベーション創出拠点としての存在意義などを解説した。

  • 次世代放射光施設「Nano Terasu」の模式図

    図1 次世代放射光施設「Nano Terasu」の模式図

注1:東北大に建設中の次世代放射光施設の愛称は2022年6月に「Nano Terasu」と決定され、2022年11月現在はそのロゴマークを募集中

放射光施設は、巨大なリング型加速器の中を光速で進む電子が、そのリング内に内に配置された4極電磁石・6極電磁石によって進む方向を曲げられた時に発生する軟X線によって、元素番号15のP(リン)までの“軽元素”の科学状態を計測できる装置である。例えば、元素番号3のLi(リチウム)の科学状態を計測できることからリチウムイオン電池などの動作などを精密に測定できたり、元素番号6のC(炭素)の科学状態の計測からは様々な生物系・医薬品などの仕組み・原子の動き・反応などを、元素番号15のP(リン)の科学状態からは各種ワクチンや農薬、電子デバイスなどの各元素などの状態を観測できる見通しだ。これによって、例えばバイオ・創薬系などの精密な解析が可能になる模様だ。

次世代放射光施設を運営する一般社団法人光科学イノベーションセンター(PhoSIC)と東北大国際放射光イノベーション・スマート研究センターは、次世代放射光施設では共用ビームライン3本(量子科学技術研究開発機構が利用)とコアリションビームライン7本で構成され、この7本のコアリションビームラインが、企業などが参加する産学などの共同研究開発に利用される(図2、注2)。

  • 設置される7本のコアリションビームライン

    図2 設置される7本のコアリションビームライン

注2:7本のコアリションビームラインは、軟X線電子状態解析、軟X線オペランド分光、軟X線イメージングの軟X線3本と、X線コヒーレントイメージング、X線構造・電子状態トータル解析、X線オペランド分光、X線階層的構造解析の硬X線4本で構成されている

“コアリション”(coalition)とは、「連合・提携など」を意味する英語で、「企業と大学や国立研究開発法人などが連携して共同研究する産学連携スキームになっている」と、東北大国際放射光イノベーション・スマート研究センターの高田昌樹教授は説明する(高田教授は一般財団法人光科学イノベーションセンター理事長を兼務)。東北大は、このコアリション制度を模式図で公表している(図3)。

  • コアリション制度の模式図

    図3 コアリション制度の模式図

このコアリション制度に参加する企業は、一口5000万円の加入金(10年間有効)を支払うと、10年間は産学連携態勢を組むことができ、1年間に同ビームラインを200時間利用できる仕組みだ。コアリション制度では、企業が分析・解析したいテーマに応じて、その分野を専門とする参加した大学の教授グループなどと産学連携体制を組む研究者マッチング支援を受ける。

2022年5月時点では、このコアリション制度に参加する企業数は約120社で、その企業名は非公表だが、ごく一部の企業が企業名を公表している。例えば、NTTグループ、ポーラ、アイリスオーヤマ、ポエックなどの名前が上っている。

このほかに、分析を専門とする企業7社が解析支援として、産学連携体制に入る計画だという。この分析専門企業7社は、コアリション制度に参加する産学連携体制の企業・大学の各解析作業を支援する模様だ。

なお、このコアリション制度によって、「放射光計測と計算科学を融合した高度な解析を実現し放射光利用の多様性を促進させる」と、国際放射光イノベーション・スマート研究センターは解説している。