日本マイクロソフトは10月20日、ローコード開発ツール「Microsoft Power Platform」(Power Platform)の最新のアップデート内容を紹介する記者説明会をオンラインで開催した。
先日開催された「Microsoft Ignite 2022」では、「Microsoft Power Pagesの一般公開」「マネージド環境の一般公開」「AI Builderの強化」という、Power Platformに追加された最新の機能が発表された。今回の説明会では、最新機能のハイライトが解説された。
ローコード資産のガバナンス支援する「マネージド環境」
今回、一般公開された「Microsoft Power Pages(Power Pages)」は、ビジネス向けのWebサイトを作成するためのローコード開発アプリケーションだ。Webサイト制作のためのテンプレートなどが用意されており、Microsoft Dataverseと連携しデータを活用したWebサイト運用が可能だ。
また、Power PagesはPower Platformの他のアプリケーションと連携できる。例えば、Power Automateと連携させることで、ワークフローの一部を自動化するなどが可能だ。
IT管理者による管理の負担軽減をサポートするガバナンス機能である、「マネージド環境」も一般公開された。Power Platform上でマネージド環境を有効にすることで、ガバナンスポリシーの設定、ユーザー権限の可視化、アプリケーション使用状況の分析など、ローコード資産のガバナンス強化機能を利用できる。
Power Platformで提供するAIモデルの「AI Builder」も機能強化された。同機能を利用することで、あらかじめ学習が完了したAIをアプリケーションに組み込み、テキストや画像から特定のデータを抽出・変換できる。
機能強化により非構造化ドキュメントの処理も可能になり、契約書や作業報告書などの自由記述の文書からデータを抽出できるようになった。また、日本語を含む154言語に対応し、複数行・ページにまたがる情報の抽出が可能になった。
加えて、AIモデルの精度向上のため、ユーザーのフィードバックを受ける機能をプレビュー版で提供開始した。
各機能を紹介した日本マイクロソフト ビジネスアプリケーション事業本部 本部長の野村圭太氏は、「エンドユーザーが使いやすいアプリを作成し、業務プロセスと連動させることで作業の自動化・効率化し、業務フローから生じたデータを基にビジネスインテリジェンスを得るなど、エンド・トゥ・エンドのデジタル変革をPower Platformで支援できる」と述べた。
日本マイクロソフトは今後、Power Platformユーザーを支援するプログラムも強化していく。国内では、1カ月間の学習・トレーニングでPower Platformの基礎から応用までの習得を目指す「Power Platform Onboarding Center」の提供を開始した。また、Power Platformに関する質問・相談を受けるコールセンター「ITよろず相談センター」を新たに開設した。
このほか、デザインシンキングの手法を用いて組織の全体最適や事業貢献の視点でDXを支援する「Envisioning Workshop」を行っているが、Power Platformの活用に向けたソリューション構成案作成やプロジェクトの明確化などのサポートも推進していくという。
今後は、3カ月間のスキルアップトレーニングを通じて用いたローコード開発スキルの認証取得を目指す「Power Up Skilling Program」も提供する予定だ(しばらくは英語版のみの提供となる)。
花王による製造現場におけるPower Platform活用事例
説明会では、Power Platformの企業における活用事例として花王のケースが紹介された。同社は生産性の向上、人への依存・負荷低減、人らしい知恵創造、働きがい改革の実現を目指して、「スマートSCM(サプライチェーン・マネジメント)」活動を展開しており、その一環として製造現場でデジタルツールの導入・活用が進められている。
2022年10月20日時点で、Power Platformを活用して10工場で263のアプリを開発(検討・開発中も含む)しており、生産拠点の中枢の担う和歌山工場では、点検記録電子化と原材料管理のためのアプリを現場の担当者とエンジニアが協力して開発した。
点検記録アプリは、Power AppsとPower Automateを利用して作成された。従来は紙に手書きで行っていた点検内容の記録、承認、保管、管理を、同アプリを利用することでスマートフォンで入力し、パソコンで承認が行える。
花王 SCM部門 技術開発センター 先端技術グループ(情報システム)の竹本滋紀氏は、「紙の点検では約170の帳票が用いられており、紙帳票ごとにアプリの仕様検討が必要なうえ複数人でアプリを開発するため、一定の開発スキルとともに仕様や管理の効率化が求められた。そこで、開発工数削減と開発者の仕様を揃えるために、テンプレートと標準仕様(UI、データ構成など)を策定した」と説明した。
原材料管理アプリはPower Appsを用いて構築されており、1日最大150品目の荷姿が到着する原料の種類、場所、量の管理機能が実装されている。紙のカードによる管理からアプリの管理に変更する過程で、新たに危険物管理機能も開発・実装しており、現場業務の効率化に役立ってるという。
花王では、現場での活用促進や利用定着化のための取り組みとして、竹本氏をはじめとしたシステムエンジニアが現場への導入支援を行うほか、各工場に1~数名のキーユーザーを育成している。キーユーザーは業務の一環としてPower Platformのトレーニングを受け、自ら率先して利用し、周囲に利用を促す役を担っているという。
このほか、社内の開発事例の発表会を年2回開催するほか、Power Platformに限らず市民開発者向けツールの情報交換会も定期的に開催している。
社内でのPower Platformの利用が拡大した半面、導入や技術面での個別支援が難しくなったことをきっかけに、花王ではPower Platformにまつわる情報をまとめた社内向けサイト「シチズンデベロッパーサポートサイト」も開設した。
同サイトでは、社内勉強会の動画や日本マイクロソフトが提供する学習用動画のリンクを集約し、外部ベンダーと協力してテクニカルヘルプデスクを設けている。加えて、社内で開発したアプリをまとめた「SCMアプリストア」も実装されている。
「アプリを工場間で横展開していく一方、類似アプリの乱立を避ける目的でSCMアプリストアを設けた。ストアでは開発理由や用途、開発者をアプリごとに紹介しているので、新規開発を検討する前に同じ要件のものがあれば利用を検討してもらい、使いにくい部分は開発担当者に改修を依頼するなどしてもらっている」と竹本氏は明かした。
今後、花王ではデジタル化により得られたデータの活用に注力するという。また、海外工場にもPower Platformの活用を展開していく予定だ。