キヤノンITソリューションズ(キヤノンITS)は4月16日、2030年を見据えた新たな経営ビジョンを発表した。3月23日付で同社の代表取締役社長に就任した須山寛氏が登壇し、ビジョンメッセージ「共想共創カンパニー2030 未来を見すえる。変化に挑戦する。価値を創出し、社会へとどける。」を掲げ、AI時代における価値創出のあり方を再定義する姿勢を打ち出した。

共想共創カンパニー2030は、「未来」、「変化に挑戦」「価値の創出」といった3つのフレーズで構成されており、顧客課題への対応にとどまらず、その先にある社会的価値までを視野に入れる姿勢を明確にしたものと言える。

  • 須山寛氏

    新ビジョンについて説明を行ったキヤノンITソリューションズの須山寛氏。3月23日付で代表取締役社長に就任したばかりで、今回がメディアの前に立つ初の機会となった

2025年までの長期ビジョン「VISION2025」の成果

同社は2020年に2025年のありたい姿として長期ビジョン「VISION2025」を策定し、その実現に向けた取り組みを進めてきた。須山氏は、このVISION2025の総括として、2025年までの期間において売上高は新型コロナウィルスの感染拡大の影響で一時的に落ち込んだものの、コロナ禍を契機としたデジタル化の進展もあり、年平均成長率(CAGR)11%で成長、金額としても2025年度は1472億円と1500億円近くまで上昇したとするほか、利益も2020年度の75億円から2025年度には158億円と約2倍超まで拡大、利益率も8.61%から2ポイント超の上昇となる10.70%と改善を果たしたとし、「この5年間で売り上げ規模と利益率の改善の両方ができた」ことは一定の成果であると強調する。

  • VISION2025の概要

    VISION2025の概要 (提供:キヤノンITソリューションズ、以下スライドすべて同様)

また事業モデルごとに見ると、「システムインテグレーションモデル」は売り上げ目標である2021年比1.3倍に対して実績は1.5倍と目標を上回る成長を達成。「製造・金融業、組み込みが好調で、中長期の大型インテグレーション案件が推進役となった」とする一方、まだ提案の余地があるとの見方を示し、コンサルティングチームが提案できる下地ができてきたことを受け、実際に大型案件をこなせるエンジニアの育成が急務とするほか、AI活用の推進を図り、活用教育を通して短納期化の実現などを図っていくことを目指すとする。

「サービス提供モデル」については、売り上げ目標が2.0倍であったが実績は1.6倍と目標には至らなかったものの、顧客の課題を解決する新たなサービス事業を創出する専門組織「サービスインキュベーションセンター(S-INC)」を整備してサービスの拡充を図ってきたほか、ITインフラサービス「SOLTAGE」を中心として成長を実現できたことに手ごたえを感じたとする。

3つ目となる「ビジネス共創モデル」については、人材育成目標を2021年比5.0倍としたが、実績としては2.8倍に留まったとする。ただし、上流工程のコンサルティング機能を担う人材集団として「イノベーション推進センター」を新設し、人材の集約を行うなど、製造業ならびに流通業のサプライチェーンマネジメント(SCM)を中心に実績を重ねるなど、着実に成長しており、そうした成功体験をセンターにて共有するなど質を重視することにこだわっており、今後の成長に向けてシステム実装との連携強化などを図っていくとする。

  • 事業モデルごとの成果と課題

    VISIO2025における事業モデルごとの成果と課題

これら3つの事業モデルをまとめ上げる形で同氏は、「一定の手ごたえは得たが、このままの延長線上では次の成長には十分ではないということも見えてきた」と指摘。また、社会情勢としてAIの社会実装が急速に進み、社会の価値を変えつつあることを踏まえ、「AIは業務効率向上の支援ツールという位置づけから大きく変わってきている。2025年以降、AIは単独の業務支援ではなく、ビジネスそのものに組み込まれていく」(同)との予測を示し、自社の有するセキュリティやソフトウェア開発能力などが、ビジネスユースケースでの利活用が進むことが期待されるとし、そうしたビジョンと市場環境の変化を見据え、新たなビジョンの策定を行ったと説明した。

新長期ビジョンの核心は「3つの事業モデルの進化」

2026年~2030年の期間でのぞむ新ビジョン「共想共創カンパニー2030」では、従来の3つの事業モデルを次の姿へ進化させることで成長を目指すこととなる。ビジョンメッセージについて同氏は、顧客の立場で業界の進む未来を構想すること、業界理解の度合いを深めて変化に挑戦し、自らをも変化させていくことにも挑戦すること、そして顧客に届ける本質は価値であるが、価値にもコスト削減であったり、時間短縮であったり、業務効率化の創出であったりとさまざまあり、どの価値が求められているのかを見極めて社会に届ける必要があることに触れ、その実現のために「求められて作るのではなく、自らが主導して作り上げていく、といった思いを込めた」と、そこに込めた思いを語る。

  • ビジョンの変遷

    VISION2025を経て新ビジョンに至るこれまでの同社のビジョンの変遷

これまでよりも一歩進んだ共想共創の実現に向けて、これまで掲げていた3つの価値創出を進化させていくことを目指すという。また、それぞれの価値を個別に進化させていくだけではなく、相互に連携することで価値を高めあい、継続的な価値創出につなげていくともしており、その実現手法としてAIの活用が重要になるとする。AIについて同氏は「特定領域に留まらず、新たな価値の提供や業務変革などを推進するドライバとしての位置づけ」とし、そうした進化を支える要素として、顧客と社員双方のエンゲージメントの循環と価値創出の循環を重ねていくことで成長を目指すモデルを作っていくとする。

  • 新ビジョンのキービジュアル

    新ビジョンのキービジュアル。2つのループ「価値創出ループ」と「エンゲージメントループ」を組み合わせることで、顧客の課題や社会課題を理解し、ともに解決を形にしていくことを目指す

さらに、3つの価値の進化に向けて「共想共創を起点に、社会や顧客の発展に不可欠な存在となるには信頼が必要」という前提条件を提示。それを踏まえて、1つ目の価値である「サービス」は「マーケットイン型サービス」への進化を目指すとする。「顧客の課題の先にある社会課題の解決につなげていくことが必要で、そのためにも原点に戻って顧客を知ることが必要となる。社会課題や業務を理解して、ニーズを満たす的確なサービスの提供を加速させていく」とのことで、その実現のためには自前主義にこだわらず、他社のサービスの組み合わせも視野に入れて付加価値の向上を目指すとする。

  • 「マーケットイン型サービス」に向けた進化の方向性

    「マーケットイン型サービス」に向けた進化の方向性

2つ目の価値である「システムインテグレータ」は「価値創出システムインテグレーション」に進化を目指すとする。一言で言ってしまえば、顧客にとって最適なシステムの提供を目指すと存在になるとする。「環境変化の中にあって、顧客からのシステムインテグレータに対する期待は高い。基幹システムを強化する動きも活発である。従来主流だった顧客の要件を受けて開発する後工程中心の取り組みだと差別化は難しく利益も伸ばせない。VISION2025でコンサルティングを確立したことで、構想・企画から導入・運用まで一気通貫で提供できるようになった」(同)とし、技術の進化に取り込んでいくことで、顧客の目指すシステムを最短で構築していくことを目指すとする。

  • 「価値創出システムインテグレーション」に向けた進化の方向性

    「価値創出システムインテグレーション」に向けた進化の方向性

3つ目の価値である「ビジネス共創モデル」は「未来共創イノベーション」へと進化を目指すとする。顧客が目指したい姿に向けた事業変革を未来視点で共創するコンサルティングの姿であり、同氏は「VISION2025策定時には存在していなかった領域であり、まだ細いものの柱と呼べる存在になってきた。伸びしろも大きく、循環の起点となる」とその重要性を強調。コンサル領域への挑戦は後発ながら、それを強みに変えつつある現状について、グループの製造業などで得た業務に対する知見や研究開発組織の活動で得た知見を活用する形でシステムインテグレートやサービスの提供につなげていけるようになってきているとし、これまでの製造・流通を中心としたビジネスから、それ以外の業界にも広げていくとするほか、こうした取り組みを広くさまざまな領域に知らしめていくことも役割として担っていってもらいたいと、成長に向けた期待を示す。

  • 「未来共創イノベーション」に向けた進化の方向性

    「未来共創イノベーション」に向けた進化の方向性

7つの重点事業領域で成長をけん引

こうした取り組みをどういった事業領域で取り組んでいくのか。今回の新ビジョンでは以下の7つを重点事業領域として定め、2030年には売上高の50%以上を担う存在へと育てていくとする。

  1. スマートSCM
  2. モビリティDX
  3. 金融コアIT
  4. 文教ICT
  5. バックオフィスDX
  6. クラウドセキュリティ
  7. ITプラットフォームサービス
  • 7つの重点事業領域
  • 7つの重点事業領域
  • 7つの重点事業領域
  • 7つの重点事業領域
  • 7つの重点事業領域の各目標と提供できる価値

そして、これらの7つの領域を横断する形でAIの活用を進めるともする。具体的には、2026年に現場でのAI活用を推進し、業務などにおいて実践した知識を全社的に蓄積を進め、2027年にAI駆動開発やバックオフィスAIなど、AIを活用した顧客への継続的な価値提供を目指すとともに、マルチモーダルAIの活用などに向けた挑戦も並行して推進するといった両輪でAI活用のレベルを段階的に高めていくことを目指す。

  • AI活用に関するロードマップ

    AI活用に関するロードマップ。2027年にAI駆動開発を標準適用させることを目指すとする

  • 3事業モデルとAI活用の関連性

    3事業モデルとAI活用の関連性

継続的な成長を目指してAI活用基盤を整備

特に2027年の導入を目指すAI駆動開発は、現場のノウハウや設計思想をデータ化し、再構築することを目指した取り組みであり、そこにAIエージェントや特化型AIなどを活用した業務の自動化・効率化と意思決定支援の高度化を提供していくとする。また、マーケットイン型サービスや未来共創イノベーションでもAIの活用やそうして得たノウハウの顧客への提供などの推進を図っていくことで、持続的な価値創出ループの形成を目指すとしている。

この実現に向けて整備するとしているのが「AI活用基盤」である。これは、知的資産をAIが活用しやすい形に構造化し、ナレッジサーバなどを活用してAIが全社の知見を活用できるようにすることを目指して整備を進めるもので、認証や監査などの統制基盤も並行して整備することで安全も併せて提供していくとする。「全社で再利用されていく仕組みが価値創出ループを実体化させるエンジンになる。社内DXとして、業務改革を通じてAI活用の実践力を全社的に推進し、その流れで育成にもつなげて行く。全社に横展開していくことで、持続的な競争力の源泉になるものと考えている」と、AI活用基盤の整備が今後の成長の基礎を担うと同氏もその重要性を強調する。

  • AI活用基盤

    AI活用基盤の構築イメージ

また、事業の成長に向けた投資も積極的に行っていく姿勢を見せる。ITインフラとしては、AIやクラウドサービスの高度化が進んでいることを背景に、高付加価値データセンターへの投資と、外部リソース活用をあわせることで柔軟な基盤の拡張を進めていくとする。さらに、AIの先進技術領域についてはR&D部門で研究開発を継続させつつ、AI活用基盤の整備を進めていくことで事業としての活用を推進するほか、並行して人材育成にも取り組んでいくとする。加えて、成長の加速に向けてM&Aや資本業務提携も行い、そうした取り組みを下支えとし、成長を継続できる体制の構築を図っていくとする。

  • 投資の方向性

    投資の方向性

「2030年にどのような価値を提供していくか。共想共創を起点に、3つの価値を進化させ、顧客と社員のエンゲージメントの推進を図る」(同)ことで、2030年の売上高を2025年比で1.4倍以上に高めることを目指すとするほか、重点事業領域の売上高をCAGR8.4%で伸ばすことを目指すとする。そして、これらの目標の実現に向けて、2027年には適用可能なすべての案件において、AI駆動開発を全社標準化し、提供価値のさらなる高度化を図っていくとしており、新たなビジョンのもと、社会や顧客にとって欠かせない存在になることを目指し、顧客、社会、社員とともに価値を創出していくとする。

  • 2030年の主な目標

    2030年の主な目標

AI活用時代において、IT企業に求められる役割が変わる中、キヤノンITSが掲げた新ビジョンは、そうした変化する時代に即した新たな価値の提供に向けて、具体的な数値とロードマップを示したものと言えそうだ。